見出し画像

アンダーグラウンドを読んで、村上春樹の書くもの全てを読むしかなかった。そして今に至る。

 泥棒猫です。

 私は本を読むのが好きだけれど、本屋さんに行って平積みされているから、とか王様のブランチで取り上げられたから、とか直木賞や本屋大賞にノミネートされたからという理由で手に取ることが多い。

 つまりベストセラーを普通に読む派。

 もちろんその中でも好みがあり、この作家の文章は読みにくい。だの、このテーマは興味ない。だのと、好き勝手に上から目線で選ばせてもらい、読み散らかしている。

 

 その中で、村上春樹に関しては小説だけでなくエッセイも、全部読んでいる。翻訳モノも主要なのはたぶん。

 それは当然、出す本全てがベストセラーだから・・・というわけじゃない。

 あの「ノルウェイの森」の緑と赤の表紙が文庫化された1991年。書店にバババーンと積み上げられていたときに、当然のように読んでみた。それが初・村上春樹だった。私は21歳。若いわねー。


 読みやすい、というか映像が頭に浮かぶような描写だな、と。確か2日で読んだ。

 そして

「キラーーーイ」

 って思った。この主人公、ふざけんな。と。


 直子のことが好きだの理解したいだの散々言いつつ、いったい何人の女の人と関係持ってんのよ???行きずりも合わせたら、数え切れないじゃんか。ほんとクズ男じゃない???と。


 それで、村上春樹は「なし」。

 二度と手に取らなくてよし。

 私の中ではそうゆうことになっていた。


 ちなみに、村上龍のほうは、それより前にたまたま手に取った「トパーズ 」、あれを読んで吐き気しかなく、本はすぐ捨てた。うわー、無理だわ。って。暴力とエロ。サイテーーー。以上。そう切り捨てるのは、読者としての特権だもーん、と。でも相当記憶に残っているので、やはり天才なのでしょう。ま、それは置いといて。


 それから10年。

 2001年に、私は友達の家に遊びに行って、その旦那さんの本棚に村上春樹が何冊かあるのを何気に見ていた。

 そしたら友達が

「その本、邪魔なんだよねー。好きに持っていって。返してくれるのいつでもいいから。何だったら返さなくてもいいぐらい」って言ったの。

「だめよ、人の本を勝手に借りちゃ。旦那さん、悲しむよ」

「いいんだよ。あいつももう読まないし、貸しても私が文句言わせない」

 という強気発言の彼女が数冊抜き取った中に、「アンダーグラウンド」が入っていた。


 借りたからには、本は早く返さないとな。そう思って、一番手強そう(分厚いハードカバーだった)なそれから読みはじめよう。

 なんの予備知識もなく、読み始めてみた。

 ・・・え?

 これ、地下鉄サリン事件の、被害者の声を拾ったノンフィクションだったんだ・・・。この人、ノンフィクションも書くんだ、へーーー。意外だわ。

 そんな気軽な気持ちが、すぐにぶっ飛んだ。そして引き込まれた。引きずり込まれた、というべきかな。


 気づけばもう、没頭して読んでしまった。あの朝の、あの事件。あの電車に居合わせてしまった、たくさんの人たちの中の数人。

 被害は大変なもので、日本中が震撼して、それはご存知の通り。私も当時の報道をつぶさに見ていたから、よく覚えている。

 でも、そこじゃなくて。私が引き込まれたのはそれじゃなかったと思う。なんて言ったらいいのか、その人たちひとりひとりの、大切な人生。それが迫ってくる感じだったから圧倒されたんじゃないかな。私は。静かに感動した。あの本で語られる、誰もが、大切な大切なひと。


 この本を読む前と後。

 多分私は世界を見る目が変わった。

 そして、陳腐な言い方だけれども、村上春樹を心から信頼できたの。


 セックス描写が時々辛い。歴史観も多分違う。残酷なシーンも無理だわ。

 そうなんだけれど、根本的な部分での信頼。それは「アンダーグラウンドを書いたんだもの」ということだから。


 それから「ねじまき鳥クロニクル」を読み、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を読んだ。そうしたらもう村上春樹の世界にズルズルと・・(笑)底なし沼のように。アンダーグラウンドも自分で買った。


  既刊の小説とエッセイ、紀行文をすべて読み終えた時、もう一度「ノルウェイの森」も読んでみた。

 改めて、

「うん、やっぱりこの男はクズ男かも。でも愛すべきクズ男。そしてこの男目線っていうのかな、男に都合がいい女性像、みたいな。これは相容れない、やっぱり理解できない。」


って思うけど、

それ以上に「すごく面白い。」!と、なった。


 こ、これは。

 第一印象が最悪な出会い方をした男女が、ふとしたきっかけで意外な一面を垣間見て、好きなってゆく、例のベタなラブストーリーのパターン?


 私はそんなふうに恋に落ちたこともなければ、そんなふうに好きになった作家もいないんだけどな。

 51年生きてきて、好きな本はたくさんあって紹介しきれない。

 だけど人生を変えた読書体験だった、と思うのは、私の場合は村上春樹の「アンダーグラウンド」だ。


★画像を何にしようか、ものすごく迷った。みんなのフォトギャラリーから選ぼうとして、結局これだわ!って選んだのが自分の画像・・・。コラ、自作自演かいっ。(違うんです。)

 

この記事が参加している募集

人生を変えた一冊

サポートして頂けると嬉しいです。 2020年秋から海外との遠恋中。サポート金は渡航費用に充てさせて下さい。