ビシャビシャ2

コンビニで物色中、店内に大きな声が響いた。
「オレかい?!オレがビシャビシャにしたってのかい?!」
声の主は、江戸っ子みたいな風体のおじいさんだ。
おじいさんの目の前には、水浸しとまでは行かないものの服を濡らした若い女性が居る。
女性の手には、上面のフィルムに穴の開いたアイスコーヒー用カップが持たれていた。
その氷が、辺りに散らばったのだ。
おじいさんの大声もあり、全員の視線がそちらに向く。
店内には、(あーあ、じいさん。何かやっちまったんだな)と言う雰囲気が漂っていた。
要は、おじいさんが犯人扱いされてしまったのだ。
しかしながら、オレは知っている。
おじいさんは、何にも犯人ではない。
そう、犯人は他でも無いカップを手に持つ女性自身なのだ。
ちょうど女性の後ろに位置する棚を覗く際、オレはその様子を捉えていた。
周りの友達と談笑するその女性は、手すさびのつもりか、フィルムを指先でトントン突いていたのだ。
そんなことをするものだから、フィルムが突き破られてしまったわけだ。
そして、横をたまたま通りかかったおじいさんが、パンッ!とフィルムの弾ける音を聞き、謎にリアクションしてしまったものだからややこしい。
結果、何故かおじいさんが犯人扱いされるような状況と化してしまったのだ。
しかも、女性も女性で、恥ずかしいからか周りの友達とヘラヘラしている。
いや、何か言えよ!
ただ、それを気に留めないその後のおじいさんの対応は、何ともクールだった。
なんとおじいさんは、「オレが何かしたってんなら、あとで教えてくれーい!」とだけテキトーに言い残し、手を振りながら颯爽と去って行ったのだ。
「どこに言えばいいんだ」と言うツッコミはさて置き、その飄々とした去り姿は、何となく格好良く見えた。
水も滴る良い男って、ああ言う人を言うんだろうな。
まあ、おじいさんには何も滴ってなかったけど。

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