一眼レフの妖精さん

国立西洋美術館に行ってきた。
ル・コルビュジエの設計した建物そのものや松方幸次郎のコレクションなど、西洋美術の変遷や作者の感情がダイレクトに伝わって来る作品の数々は、圧巻だった。
特に、常設展もさることながら、同時に開催されていた企画展は各アーティストの自然に対する想いを軸とした内容で、投影される個性を愉しめた。
さて、このような美術館や博物館に普段行き慣れない人だとご存知ないかもしれないが、実は写真が撮れる。
もちろん、撮影禁止の作品もいくつかあるが、可能な作品の方が割と多い。
なので、その日もオレは、スマホのカメラでパシャパシャ撮りまくっていた。
すると、横から視線を感じた。
そちらを向いてみると、視線の主であろうおばあさんが立っていた。
怖いぞ、おばあさん。
その後もしばらく、館内を回るペースがおばあさんと同じになってしまい、撮影のたびに顔を覗き込まれた。
だから怖いって、おばあさん。
このような場合、大抵は上述したルールを知らず、頑なに「撮影禁止」と思い込み、睨んでいるケースが多い。
しかしながら、このおばあさんは、絶対にそうではなかった。
なぜなら、そのおばあさん自身も、ゴツい一眼レフをブラ下げ、パシャパシャ撮りまくっていたからだ。
そうなると、覗き込まれた原因は、皆目見当もつかない。
そして、ここからは推測の話だ。
おそらく、おばあさんは、一眼レフの妖精さんだったのだ。
スマホで撮影しまくるオレに対し、「若人よ、一眼レフにしなさい……」なんて気持ちを抱き、じっと見つめていたのだろう。
確かに、思い返してみると、途中まで同じペースだったはずが急に居なくなっていたし、おばあさんの目ん玉は一眼レフのレンズとまったく一緒だった……気がする。
とは言え、オレはいくら妖精さんにとやかく言われても、スマホ主義を変える気はさらさら無い。
スマホと一丸となって撮影し続ける所存だ。

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