お土産の馬

昔から忘れ物が多く、母親によく叱られていた。
思い返してみると、小学生の時なんて特に酷かった。
朝に差した傘も、帰りに晴れていたら置き忘れてしまっていた。
そんな多くの忘れ物の中でも、一番叱られた忘れ物が修学旅行の時だ。
小学校の修学旅行は、言わずもがなオレにとって初めての修学旅行だった。
それもあって、父方の祖父母、母方の祖母(祖父は亡くなっている)がそれぞれお小遣いを渡してくれたのだ。
「あんた、お小遣い貰ったんだから、ちゃんとお土産買って来なさいよ」
母親にそう言われたことを鮮明に覚えている。
にも関わらず、忘れた。
バカ過ぎる。
オレはその台詞を何度も反芻していたのに、買い忘れてしまったのだ。
厳密に言えば、一緒の家で生活をしている父方の祖父母についてはしっかりお土産を購入出来た。
しかしながら、一緒に住んでいない母方の祖母については忘れてしまった。
「何やってんの、あんた!」
帰宅後、鬼の形相でキレる母親。
それも仕方ない、忘れたのはオレだ。
「もういいから、買った物を全部出しな!」
オレは、テンパりながら、買った物を全て広げた。
黄金の竜剣キーホルダー、雷門のステッカーなど、アホ小学生らしいラインナップに、母親は面喰らっていたと思う。
その中で一つ、「オレ、午年生まれだから」と言うしょうもない理由で買った馬を模したストラップがあった。
じっと眺める母親。
「……あんた、これをお土産として、おばあちゃんにあげなさい」
え?なんで?
何故、母親がこのチョイスしたかは分からない。
が、怒られることを回避したかったオレは、母親の言う通り、母方の祖母にこのストラップを渡したのだった。
午年生まれでも無い母方の祖母に、だ。
おばあちゃんも孫の土産とは言え、さぞ困っただろう。
とは言え、何とか乗り切れたわけだ。
「人間万事、塞翁が馬」とは、よく言ったものだな。
馬くねー。

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