地元の教習所

大学生の時、自動車免許取得のために、春休みを使って帰省していた。
免許合宿でも良かったのだが、お金を出してくれる親が「地元で取ってほしい」なんて頑なに言うものだから、仕方なく地元の教習所に通っていた。
春休みの時期、地方の車校は、高校3年生で溢れている。
きっと、進学や就職の前に免許を取ってやろう、と言う算段なのだろう。
確かに、都内だと交通手段はいくらでもあるが、田舎はマジで車ぐらいしか無い。
その環境下であれば、ヒマな高校3年生が、新生活の準備に向けて溢れ返るのは当然だ。
しかしながら、そこに放り込まれたオレは、本当に孤独だった。
校内でやることと言えば、未成年の寄り付かない喫煙所でタバコを吸うか、自主勉ぐらい。
高校生からも、「誰やねん、あのおっさん」的なヒソヒソ声が聞こえていた。
そりゃそうだ、高校生ぐらいの年齢からすれば、二十歳過ぎは立派な大人で、一線を引かれてもおかしくない。
切ないけど。
なので、ひっそりと過ごすしか残された道が無かった。
そして、入校から時が過ぎ、仮免のペーパーテストを終えた時に事は起きた。
なんとオレは、自主勉ばかりしていた影響もあり、満点を取って合格してしまったのだ。
もちろん、合格自体は、嬉しい。
ただ、その時は、嬉しさよりも恥ずかしさが上回ってしまった。
なぜなら、満点を取った生徒が唯一オレだけだったから。
もっと言えば、そのことについて、掲示板でデカデカと名前を貼り出されてしまったからだ。
「クボタくん!100点満点おめでとう!」
いや、塾かよ。
それもあって、良くも悪くも、周りからじんわり注目を浴びるようになった。
普通、車校でそんなことある?
その結果、生徒が同乗する本免試験の際、無駄に緊張してしまったオレは、脱輪で落ちた。
二つの意味で。
仮免ペーパーテストで点を取らなかったヤツらよりも、遅れを取ってしまったんだとさ。
ちゃんちゃん。

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