ポクチン

「なんか後ろで木魚鳴ってませんでしたか？」
リモートワークの日、オンライン会議終了後に後輩から来たチャットだ。
どうやらオレの発言時にだけ、一休さんが思案中に流れるあの音が鳴っていたらしい。
後輩だけで済めばいいものの、他の人にもばっちり聞こえていたそうな。
ち……違うんだ！
この木魚音の正体だが、もちろん、オレは把握している。
エアコンのバルブ内で垂れる水滴の音だ。
それが木魚のポクポク音に聞こえたのだろう。
我が家では、窓やドアを閉めたままキッチンの換気扇とエアコンを同時に稼働させると、この音が響く。
詳しい仕組みは分かっていないのだが、密閉した空間内で、換気扇を除いた唯一の空気の通り道となるドレンホース（エアコン内で結露した水を外に排出するホース）が水滴を戻してしまい、この現象が起きるらしい。
本当に正確な説明が出来ているのかは定かではないが、おそらくこんな感じでポクポク鳴るとだけ分かってもらえれば。
そして、この音については日頃から悩まされている。
なので、普段のオンライン会議中には対策をしていた。
エアコンと換気扇を同時に稼働させないよう気を付けていたのだ。
しかしながら、その日は前日に作ったオイルサーディンのパスタ、当日昼に作った焼きそばの臭いがたまたま充満しており、換気扇を回さざるを得なかった。
その結果、エアコンの消し忘れもあって、このような状況になってしまった。
しかも、その会議の進行役はオレだ。
オレが、誰かの発言を切り返して回すたび、一休さんの木魚音がZoomで鳴り響いていたらしい。
いや、どれだけトンチ利かせようとしてるんだよ。
音の原因を知らない他の人は、オレが呪われた部屋の住人なのではないかと戦慄したそうな。
まあ、そりゃ怖いよね。
ただ、もしそう勘違いさせてしまったとしても、オレは変わらず平静を保ち続けるつもりだ。
あわてない、あわてない♪