HOWEVER

ここの文章にもすでに書いたことがあるが、マンションの近隣住民の歌声がうるさく、数ヶ月前から悩まされていた。
夜中でもお構いなしにカラオケしやがる。
加えて、その曲名が分からないことにも腹を立てていた。
せめて答えを教えてほしい。
そう思っていた。
地獄イントロドン。
そこで、オレは歌が聞こえてくるたびに、耳を澄ませ、曲を当ててから、クレームを入れてやろうと心に決めた。
そんな決意から二ヶ月ほど経過し、やっと答えが分かったのだ。
「GLAYだ」
もっと詳しく言えば、GLAYの『誘惑』だった。
時に愛は二人を試しているし、こいつはオレを試していたのだろう。
当初予想していた曲の雰囲気とは全然違ったが、点と点が繋がり、線になった。
答えが分かった途端、脳汁がドバドバ出た。
う……嬉しい。
そして、次の日には、ウキウキで管理会社に苦情を入れた。
「あの、夜にGLAYを歌ってる住人が居るみたいでクソうるせーんすけど」
「あと、こいつ、自覚症状無さそうなんで、GLAYを歌ってるって固有情報も入れた上で注意して下さい」
ざまあ見ろ、クソ住民が。
すると翌日、本当にそっくりそのままの注意喚起書類が、集合住宅内に広まった。
貼り紙やらポスト投函やら、あまりにも迅速過ぎて感動すら覚えた。
管理会社さん、ありがとう。
ただ、オレは不安だった。
夜にGLAYを全力で歌うタイプのヤツが、注意喚起の紙を見るか?
こんな鈍感なヤツが、見てくれるとは思えない。
しかしながら、幸いなことに、明らかに目に届くであろう出来事が起こった。
なんと誰かがその貼り紙をツイッターでバズらせてくれたのだ。
まさか自分の入れた苦情が、ここまで拡散されるとは。
ネット社会の凄さを垣間見た。
そこから、結果的にちゃんと歌は聞こえなくなった。
最高だ。
言葉では伝えることがどうしても出来なかった愛しさの意味を知れた出来事だった。

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