真っ赤な壁の飲み屋

前職の際、上司がよく連れて行ってくれた飲み屋があった。
メシも酒も美味いし、真っ赤な壁が何とも印象的な良い飲み屋だった。
……たった一つの面倒臭いことを除けば。
と言うのも、上司が顔馴染みだからか、いつ行ってもマスターがオレたちの卓に座ってきたのだ。
仕事しろよ、マスター。
加えて、基本的にマスターは「オレすごい!オレ最強!昔はヤンチャしてたんだぜ!」のタイプで、メシと酒の美味さと上司の誘いが無かったら、利用していない類のお店だった。
しかしながら、ある出来事がきっかけで、上司も含めて本当にまったく行かなくなった。
それは、オレの同期が初めて営業ノルマを達成した日のことだ。
上司の提案から、オレと同期と上司の三人でお祝いをする運びとなった。
もちろん、場所は例の飲み屋だ。
店に着き、席に腰掛けると、相変わらずマスターが座ってきた。
だが、その日は何だか様子が違った。
なんと、ただでさえ面倒臭いマスターがベロベロだったのだ。
赤い壁よりも紅潮した顔のマスターは、いつも以上に厄介で、お祝いの席とはかけ離れた会になってしまった。
……それだけならまだいい。
なんとそのマスター、草食系の同期がモジモジ煮え切らない話をする様子にイラ立ち、あろうことかテーブルのナイフを突き立ててきたのだ。
いや、ヤバ過ぎるだろ。
そして、マスターはこう言った。
「オレはテメエみてえな軟弱なヤツがムカつくんだよ。この店の壁が赤い理由わかるか?オレは真っ赤な血の色が好きなんだよ。昔はこう言うナイフでヤンチャしてたもんだぜ」
客に何言ってんだ、こいつ。
あまりのクレイジーさに、顔馴染みの上司もめちゃくちゃヒいていた。
その一件から、流石に上司もオレもパタッと行くのをやめたのだった。
そこから現在、何となくその飲み屋の情報を調べてみたら、案の定、閉業していた。
今は、もっと垢抜けたお店が入ってるのかなあ。

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