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「ひとりグランプリ」解説書

 何かに参加したい。
 参加したからには優勝したい。
 そんなことをいつまでも繰り返したい。
 でもそんな場所はどこにあるのだろう。
 自分の参加したい企画が常に開催されているわけではないし、使える時間も限られている。
 自分の参加出来る理想的な場所と、勝ち続けられる場所など、一体どこにあるというのか。

 そんなあなたにこんな方法を提案します。
 参加料は無料、執筆ペースも自身で選べます。他人への遠慮も気遣いも無用。
 題して「ひとりグランプリ」。

 まずお題を決めます。
 例えば「酷暑」。
 アバウトな設定もあった方がいいかもしれません。
「登場人物はメイン二人、極端な環境」
 規定文字数はあなたの出来る範囲で決めてください。300字でも、30万字でも構いません。
 まずはあなたの得意分野で書いてみてください。

例)お題「酷暑」登場人物メイン二人、300字前後

 溶け出したアスファルトが靴裏にこびりついている。焦げた蟻の死骸が延々と続いていくのを辿っているうちに、彼女の住むアパートの前に着いた。焼け跡となっていたそこに、彼女は麦わら帽子に隠れるように座っていた。
「上の階の人が飼っていたカラスから自然発火だって」
 借りていた本も焼けてしまった、と申し訳なさそうに言う。
「君が無事ならそれでいい」
 そう言って彼女の手を取って引き起こそうとしたが、その手は既に炭化しており、ぼろぼろと崩れてしまった。強い風が吹き、焼け跡に満ちた黒い灰と、彼女だったものが空に飛ばされていった。真っ先に飛ばされてしまいそうな麦わら帽子だけが、とても重い物であるかのようにそこに残った。

 上記は私のよく書く「私小説風ファンタジー」風に書いてみました。
 次に自分のあまり得意でないジャンルにも挑戦してみてください。

 
例2)お題同じ。ジャンル「ミステリー」

 彼女の手に握られた包丁、無数の刺し傷から血を流す死体、閉ざされた窓、それらを眺めながら私は冷静に言った。
「真犯人はどこに逃げた?」
 だが彼女は「私がやったのよ!」と繰り返すばかり。
「こいつにとっては遊びだったのよ、私は本気だったのに!」
「誰をかばってるんだ。君が人を殺すはずないだろう。君は騙されてるんだ。この男にも、そして真犯人にも」
「あなたこそ現実を直視して! 金輪際ミステリー小説は読まないで! 現実に目の前に起こった殺人を直視して! 私が刺す瞬間をあなただって見ていたでしょう!」
 私はドアを蹴破った。窓ガラスも何度も椅子をぶつけると割れた。
「ほら、こうすれば密室じゃなくなった。待てよ、その男の自殺という線もあるな」
「誰か助けてください! 私が殺人犯じゃなくなってしまう!」
 しかし暑い。酷い夏だ。

 慣れないせいか、文字数もオーバーしているし、そもそもミステリなのかどうか。お題の「酷暑」を完全に忘れていました。
 
 このように、作品を書き上げていってください。
 一例として、「一週間のうち平日に一編ずつ」計五編を書き上げたとします。

 これらが「ひとりグランプリ」投稿作となります。
 次に選考です。
 各作品をじっくり読み、どれを受賞させ、どれを落とすか、考えてください。普段からよく書いている作風のものを「マンネリ」と切り捨てたり、正気なら絶対書かないジャンルに挑戦したものに「粗削りだが、光るものがある」などといった発見があるかもしれません。

 グランプリ一編、奨励賞一編、審査員特別賞一編、など、賞の振り分けは自分で好きに設定してください。もちろん「該当作なし」でも構いません。

 月曜日 「私小説風ファンタジー」で書く。
 火曜日 「ミステリー」で書いてみる。
 水曜日 「ハチャメチャ時代小説」を大いに楽しんで書く。
 木曜日 「青春恋愛小説」を書いていて死にそうになる。
 金曜日 「エッセイ」で気を落ち着かせる。
 土曜日 選考。講評。
 日曜日 結果発表。意外なことに「青春恋愛小説」がグランプリ受賞。次回のお題を決める。

 一週間サイクルの例ですが、それぞれ自分の出来るペースで、一ヶ月サイクルでも、一時間サイクルでも構いません。

 これを続けると、「書く習慣の継続」「書く幅を意識的に広げられる」「自作への客観的評価視点の獲得」「常に何らかの賞を受賞」といった、様々な効能が得られるはずです。

 皆さんも試してみてはいかがでしょうか。
 私は実行する予定はありません。

(了)

入院費用にあてさせていただきます。