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千人伝

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様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
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#人間

千人伝(百五十六人目~百六十人目)

百五十六人目 偽書 ぎしょ、は偽物を書いた。故人となった有名作家の未発表作品を記し、未完の大作の続きを書き、聖書の記述を大幅に増やした。 彼は生涯で千作の偽作に関わり、そのどれもが偽物と気付かれることなく世間に流通した。彼は晩年、どこにも発表しない文章を書き続けた。偽作を書き続けたために自分の文章を書けなくなった人の話を、ありとあらゆる文人の文体で記した。 鏡にはもはや自分の顔が映らなくなっていた。 百五十七人目 ドウロク ドウロクにあてられた漢字は今では不明とな

千人伝(百一人目〜百五人目)

百一人目 孤濁 こだく、と読む。 孤濁は誰かといる時は澄んでいるが、一人になると濁った。だくだくと濁った。何を飲んでも泥水のようで、吸う息には空気よりもチリ、ホコリの方が多かった。だから孤濁は常に他人を求めた。すぐに人に寄り添って、交わって、抱き合った。 それでも相手が眠れば、あるいは去れば、時には死んでしまえば、孤濁は一人になってしまう。一人になれば濁ってしまった。濁ってしまえば気持ちもどす黒くなるばかりだった。 孤濁の最期は、大災害で逃げ惑う群衆に踏み潰される、と