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千人伝

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様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
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#断章

千人伝(四十六人目~五十人目)

四十六人目 図景 ずけい、は様々な図形のみで形作られた景色の中に住む。そのような景色の中に普通生物は住み着くことが出来ず、虫もプランクトンも霊もいない。四角と三角と六角形と平行四辺形と三十六角形と……。 図景はそれぞれの角から僅かにこぼれ落ちた角屑を糧にして命を繋いでいる。崩壊寸前の建物の中に偶然生まれるそうした景色の中で生まれ、育つというほど大きくなれないまま図景は息絶えた。時間にして二十秒ほどの命であったが、こうして書き留めておく。 四十七人目 灰衣奈 はいえなと

千人伝(四十一人目~四十五人目)

四十一人目 阿見湖 あみこ、は湖に沈んでいたところを引き上げられた。持ち物からして五十年以上前に沈められた阿見湖であったが、まだ息があり、人工呼吸により蘇った。湖に沈んだ十代当時のままの姿かたちで、その後平凡に生き、恋などもした。 ただし血液は全て湖の水に取って代わられていたため、どこか切ると出てくるのは透明な水だけなので、傍目には怪我などしていないように見えた。 貨物機から落下した一本の万年筆が頭蓋を貫くという不幸な事故により阿見湖は亡くなる。倒れた彼女の周囲に広がる水を