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千人伝

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様々な人の評伝「千人伝」シリーズのまとめマガジン
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2022年7月の記事一覧

千人伝(百一人目〜百五人目)

百一人目 孤濁 こだく、と読む。 孤濁は誰かといる時は澄んでいるが、一人になると濁った。だくだくと濁った。何を飲んでも泥水のようで、吸う息には空気よりもチリ、ホコリの方が多かった。だから孤濁は常に他人を求めた。すぐに人に寄り添って、交わって、抱き合った。 それでも相手が眠れば、あるいは去れば、時には死んでしまえば、孤濁は一人になってしまう。一人になれば濁ってしまった。濁ってしまえば気持ちもどす黒くなるばかりだった。 孤濁の最期は、大災害で逃げ惑う群衆に踏み潰される、と

千人伝(九十七人目~百人目)

九十六人目 土鳥 つちとり、と読む。土の上にいる虫を啄む鳥ばかり見ているうちに、自身も地面を這い回るように動くようになり、食べるのも虫だけになってしまった。土鳥を昔から知る友人は「そういえば昔からあいつはあんな風だった」と記憶を思い違いしてしまうほど、土鳥の動きは自然なものだった。 土鳥の巨体に邪魔されて自身の食事を思うままに出来なくなった鳥たちは、土鳥を突いて追い出そうとした。しかし逆に土鳥に捕らえられ、羽根をむしられた。むしった羽根を土鳥は背中に貼りつけたが、飛べるは

千人伝(九十一人目~九十五人目)

九十一人目 集中 集中の家の中にはいつも誰かしらが集まっていた。 家族親戚友人顔見知り近所の人までならまだ分かるが、全く見知らぬ他人やらそもそも人間でないものまで勝手に家にあがりこんであれこれするのだ。食うやら寝るやら喋るやら交わるやら。 そんな環境でありながら集中は超人的な集中力を発揮して勉学に励み、また曲を書き、合間に小説も書いた。結果的に彼は学士や作曲家や小説家になったわけではなく、特に有名にもならずそこそこ平凡でありながら十分幸せな生涯を送った。勉学も作曲も小説も