森の魔女とその弟子

森にひとりの魔女がおりました。
魔女はいつまでも若く美しかったので、人は魔女が若返りの霊薬の作り方を知っていると噂しました。また、魔女はそのほかにも、多くの秘密の知識を持っていると言われていました。

この魔女のところに、二人の若者が弟子入りに来ました。
一人目の若者は、見るからに利発そうで自信に溢れていました。
二人目の若者は、おっとりとして、穏やかな気質でした。

魔女は、「霊薬の原料は七色に光る結晶じゃ、それを先に見つけた方を弟子にしよう」と言いました。
二人の若者は森に小屋を建て、その日から結晶を探しはじめました。

夜になると毎晩、魔女は二人の小屋を訪れ、結晶は見つかったか尋ねました。

利発な若者は、必死に探したが駄目だったとうなだれました。しかし必ず見つけてみせると言いました。

おっとりとした若者は、結晶は見つからなかったが、森で珍しいキノコや美しい鳥を見た、と言いました。そして、この森には自分の知らないものが沢山ある、と目を輝かせていました。

それを聞いた利発な若者は（やれやれ、やはりこいつは駄目なやつだ。結晶探しと関係ないことばかりしている。どうやら先に結晶を見つけるのは俺のようだぞ）と考えました。

やがて一週間、1ヶ月、一年が過ぎました。
利発な若者は結晶が見つからないことに苛立ち、しだいに早く森を去りたいということばかり考えるようになり、疲れきっていました。その姿にはもう、かつての自信はありませんでした。

おっとりとした若者は、驚くほど森に詳しくなり、森の中の様々な草花や生き物、石などを調べて飽きることがありませんでした。森は彼を受け入れ精気を与え、彼も自分を森の一部だと感じるようになっていました。

利発な若者が、魔女に言いました。「本当は七色の結晶なんて無いのではないか、自分はもうこんな生活には耐えられない！」と。

すると魔女は「では、今度は七つの品をもってくるように。赤いキノコ、橙の羽根、黄金色の蜘蛛の巣、緑の光るコケ、青い花、藍色の石、紫の泉の水じゃ」と言いました。

利発な若者は、「たったひとつの結晶さえ、一年かけて見つからなかったのに、七つもそんな珍品が見つかるはずが無い！」と怒り、魔女を罵倒して森を去りました。
ところが、おっとりとした若者はそれらを難なく見つけてきました。森のことを知り尽くしていたからです。

魔女はその七つの品を大釜に入れ、呪文を唱えながら煮詰めました。すると、七色の結晶が出来ました。
魔女は、「森に愛された者だけが森から恵みを受けられる。そして森を愛さない者は森に愛されることはないのだ」と言いました。
そして、魔法とは、そうした森の声を聞き、品々に秘められた秘密の意味をあきらかにすることなのだと。

こうしておっとりとした若者は魔女の弟子となりました。
といっても、その後、彼が魔女から教わったことは別の物の見方、ちょっとしたヒントだけでした。魔法使いになるために必要な知識や経験は、既に彼が自分で森を歩く中で見つけていたからです。
魔女も、その先代の魔法使いも、みなそうしてきました。彼らの知恵とは人から聞いて学べるものではなかったからです。

一方、利発な若者は何も身につかず街に帰り、魔法なんて存在しない、全部インチキだと言って一生を終えました。

めでたしめでたし。