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【小説】いつもおつかれ会

「ブーっ!」
 俺のスマホが鳴った。
「はると、今度の水曜日空いてる?」
 バイト先の先輩の、りかさんからだ。
「空いてますよ」
「良かった。わたし、めちゃくちゃバイト頑張ったから、回転寿司奢るよ。何でも好きなもの食べていいよ」
「良いんですか? 俺も出しますよ」
「大丈夫。たまには先輩らしいことさせてよ」
「はぁ……」
「そうそう、りゅうとか、あかねとかも誘っていいよ。みんなで、食べに行こう」
「了解です。なんか、打ち上げみたいですね(笑)」
「そうだね。じゃあ、いつもおつかれ会とでも名付けようかな?」

 そんな感じで、水曜日にバイトの先輩たちと回転寿司に行くことになった。
 ……だけど、俺には。

「おーい! 居たいた」
「ごめんなさい。身支度に時間かかって」
 俺はみんなと合流した。
 そして、近くの回転寿司屋に来た。
 テーブル席に座ると、
「みんな、好きなもの頼んで良いからね」
「はーい」
 りゅう先輩とあかね先輩はタブレット端末で色々頼み出した。
「何してんの? はるとも頼みなよ」
「あっ、はい」
 1テンポ遅れて、俺もサーモンやイクラやコーラを頼んだ。
 頼んだものが来た。
「いつもおつかれ! 乾杯!」
 俺たちは乾杯した。
 そして、食べ始める。
 しかし、食欲が無い。
 ……だって、
「はると、大丈夫? さっきから全然食べてないじゃん」
「えっ、あっ大丈夫です」
「食欲、今ない?」
「いや、別に」
「ふーん」
 りか先輩が心配してくれるが、りか先輩には関係ない。
「はるとも、エビ天握り食うか?」
「いや、大丈夫です」
 そんな感じで、どんどん時間が過ぎていく。

「ごちそうさまでした」
 りか先輩がお会計をして、店を出た。
「じゃあ、わたしこっちだから!」
「俺も!」
「りゅう、あかね、バイバイ」
 りゅう先輩とあかね先輩と別れ、
 りか先輩と歩いていた。
「今日、ほんまにどうしたん? 元気なさすぎじゃん。……迷惑じゃなかったら、わたしに話して」
 ……話すか。
「……実は、明日大喧嘩した人に会いに行くんですよ。もう1度しっかり話をしに。それで、不安になりすぎちゃって」
「……そうだったんだ。……わたしから言えることは、しっかりと自分を保つことだよ」
「えっ?」
「話をする際に、我慢しちゃったら、仲直りできないし、かと言って爆発するのは言語道断。だから、自分を保ちつつ、言いたいことを言うこと。はるとなら、大丈夫だから!」
 りか先輩は背中を押してくれた。
「ありがとうございます!」
「うふふっ!」
「また、寿司屋誘ってくださいね」
「うん、でも次は、いっぱい食べてね」

 こうして、少し足取りが軽やかになった。
 明日きっと、いや絶対に大丈夫だろう。

 〜完〜

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