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お前もファシリテーターにしてやろうか!

はじめに

この記事は「ファシリテーター Advent Calendar 2020」四日目の記事だ。gaoryuさんいつもありがとう。

昨年は、「巻き込みのファシリテーション」という題で参加させてもらった。ファシリテーションに対する基本的な考え方だったり、チームでのファシリテーションにおいて心がけていることはそう変わっていない。よかったら読んでみてください。

さて、2020年のタイトルは「お前もファシリテーターにしてやろうか」である。前回のアドベントカレンダーで、「最終的にはオールファシリテーターなチームになってゆくであろう」ということを書いた。

オールファシリテーターチーム
このようにして巻き込み巻き込まれ、方向性を吹き込んでゆく。突然に話をふる、という状態に慣れてもらい発言することへのハードルを下げる。自分の心の奥底からゴールを達成したいという気持ちを喚起する。このようなメンバーが増えれば増えるほど、チームは自分たちでファシリテートできるようになる。最終的にはオールファシリテーターなチームになってゆくであろう。

 今回は、このオールファシリテーターチームへの第一歩として「周囲の人間をファシリテーターに変えてゆく」話をしたい。

なぜファシリテーターを増やしたいのか

 まず前提として、「ファシリテーターを増やしたい」というモチベーションはどこにあるのか。文脈によって様々な理由があると思うので、ここでは「ひとつの組織の中で増やしたい」理由について論ずる。

異なる視点を増やしたい

 一人の人間がファシリテーションを続けていると、どうしてもその人のレンズで物事を見ることになる。偏りなく意見を広いゴールへ向かう、それがファシリテーターの役目ではあるのだけれども、完全に偏りをなくすことは難しい。

 ファシリテーターが複数存在する場合、交代していくことで偏りはある程度防げる。そしてファシリテーション能力を持った人が複数存在する状況があれば、偏りが発生したその瞬間に軌道修正することさえも可能だ。

権威化・無意識のポジションパワーの抑止

 環境にもよるが、組織内においてそれなりの立場の人がファシリテーターを行う場合、無意識のポジションパワーにより場の力学がゆがめられてしまう。その人が抑圧的な人物ではなくても、組織内で認められているという事実が「あの人がいうなら正しいだろう」という歪を生む。ひどい場合は、ファシリテーターに対して答えを問うようなことにもなりかねない。

 そして、これはたとえ役職がついていなかったとしても、ファシリテーターに熟達してきた人には発生しうるパワーだ。気づきを促す問いを投げかけたときに、そのファシリテーターに「合わせ」にいってしまったりする。

ワイかて話に参加したいんじゃ!

 結局はこれだったりする笑。ファシリテーターに専念していると、議論の内側にはなかなか入りにくい。(し、入るべきでもない。入り込みすぎると、いよいよもってポジションパワーが発揮されてしまう)

 そして、そのようにしてずっとチームの軌道周回上に留まっているとチーム内の心理のヒダやコンテクストが読み取りづらくなっていく。ファシリテーションに専念することでファシリテーション能力が下がっていく、という皮肉な状態になりかねない。

(なお、どんな現場でも立ちどころにコンテクストを読み取り信頼関係を形成できる能力があるならば、ここは問題にならない。自分の力量的にはここが課題として表出するのだ)

とまあ、こんな理由でファシリテーターを増やしていく必要がある、と私は感じている。

インスタントファシリテーターをつくる

 さて、それでは「次のファシリテーター」を、どのように見つけていけばよいのか。話がうまい人?場を切り盛りできる人?確かに、そういう人がいるならそういう人に任せてみるのもよいだろう。

 が、そういう人って、すでに「ファシリテーション能力を身に着けている」「ファシリテーター経験がある」という状態だったりする。能力があったら周囲がほっときませんよね。私が見てきた現場では、特定の人にファシリテーションの負荷が集中していることが多かった。これは、「ファシリテーション能力がある」ということが顕在化している人はあまり多くない、ということだ。

 では、どのように裾野を広げていくのか。私がおすすめするのは「インスタント・ファシリテーター」をつくることだ。

・特定のメンバーに対して、今の場の方向がゴールに向かっていると思うか、何かひっかかりはないか、という問いを投げる
・そのひっかかりについて、その特定のメンバーを中心に議論するよう促す

 上記のように、通常ファシリテーターが行っている「場がゴールに向かっているか」という確認をメンバーに行ってもらうのだ。非常にシンプルだが、これだけでも「新たな視点を得る」「ポジションパワーから脱する」ということは達成できてしまう。

 上図のような「チームが目指すゴール」に向かうための促しを実行する、という体験がチームに生まれるのだ。そして、この実験を何度も行うと、チームの中でファシリテーションの定義が形成されてゆき、スキルが蓄積されてゆく。

事後報告作戦

 この「インスタントファシリテーター」が成立するには、チーム内で心理的安全性が形成されているということが大前提となる。「何か見当違いのことをいって『わかってねぇな』と思われたらどうしよう…。」そう思っていたら、たとえファシリテーションの主導権を渡されたとしても、「無意識のポジションパワーを持つ」ファシリテーターの期待から外れない無難な範囲でしか議論を揺らせないだろう。

 そして、たとえ心理的安全性が強固に形成されているチームであっても、それまで経験をしたことがない責務を渡されるというのは不安がつきまとうものだ。

 よく言われる方法としては「失敗を歓迎する文化を作る」というものがある。それはそれで正しい。しかし、その文化を形成できていない段階ではファシリテーターを増やせないのか?そんなことはない。というより、心理的安全性の担保や実験精神の醸成は単一の視点で行うより複数の視点で行ったほうが進みやすい。そう考えると、むしろ早い段階でファシリテーターを増やすことにチャレンジしたほうがよいだろう。

 となると、ちょっとずるがしこい大人のテクニック、「事後報告」が有効となる。これは、実態としてはファシリテーションの権限を委譲するものの、表面上はただ質問にそって回答している状態をつくる、というものだ。

ファ「Aさん、いま議論はゴールに向かっていますか?何か気になることはありますか?」
A「おおむね向かってるとは思うのですが…δ前提で話が進んでいますが、εについて置き去りになっているのが気になります」
ファ「ありがとうございます、では10分間、εについての議論が足りているか、Aさん中心に話してみてください」

ファシリテーターよろしく、とは明言せず、「Aさん中心に」という形で進めるのだ。この状態であれば、Aさんが困ったときにメインファシリテーターが助け舟を出しやすい。つまり失敗体験を得づらい状況になるのだ。

そして、議論が見事よい方向に向かったならば、「ナイスファシリテーション!」とフィードバックする。子供に自転車の乗り方を教えるのと一緒で、最終的に漕ぎ出すのはその人の力だ。しからばこそ、力強く一歩を踏み出したときには「そうそう、それでいいんだ!」と背中を押してあげるのだ。

成功体験の定着

 そういった経験が生まれたら、1on1等でも改めてフィードバックしよう。機会を見つけて、今度は正式にファシリテーションを任せてみよう。

「いやぁ…自分はファシリテーションなんか…」
「この前うまくやってたじゃないですか」

と、成功体験を思い出させよう。もしかしたら慎み深い人で、

「いやぁ、あんなのファシリテーションとはいえないです。そうは意識していませんでした」

と言ってくるかもしれない。そこは、ファシリテーターのあなたが

「あれも立派なファシリテーションですよ」

ということを伝えてあげればよい。

今夜もまた一人ファシリテーターになる

今回は「周囲の人間をファシリテーターに変えてゆく」話をした。

・多様な視点を得る意味でも、「権威」による歪をなくす意味でも、組織内に複数のファシリテーターが存在していることが好ましい
・経験から鑑みると、ファシリテーション能力が顕在化している人は多くない
・議論の途中でピンチヒッター的にファシリテーションを渡す「インスタントファシリテーター」をおすすめする
・「ファシリテーションよろしく」というと気後れしてしまうので、明示的にファシリテーターという言葉は使わない
・ファシリテーションの成功体験を形成し、継続する

 この方法をとることで「あ、この人けっこうファシリテーション得意だな」と気づくことが少なからずあった。それも、いわゆる「話好き」「まとめるのがうまい」というタイプではない人でだ。ファシリテーター候補は目の前にぶらさがっているのだ。

 実際にこの方法を試してみてうまくいった、とかここがうまくいかなかった、とかそういうフィードバックをいただけると、大変ありがたい。そして、これでファシリテーター増えました!という報告があれば、それは望外の喜びである。

お前もファシリテーターにしてやろうか…
お前もファシリテーターにしてやろうか…

お前もファシリテーターにしてやろうか!!

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