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「代打、オレ」からの脱却が成長を生み出す

はじめに

これはQiita x 日本CTO協会共催!あなたの自己変革について語ろう! Advent Calendar 2022 3日目の記事です。

日本CTO協会が掲げるバリューのひとつ、「Give First / あなたの当たり前は誰かの学び」をテーマに書きます。

なんでもやる課

AWS主催のCTO Night and Dayに初めて参加したのが2018年、日本CTO協会にジョインしたのが2019年。自分の肩書はCTOではなくVP of Engineeringですが、それなりの期間CTO界隈に在籍していることもあり、様々なステージの様々なCTO/VPoE/ex-CTOと交流させてもらってます。みなさん本当に視座も志も高く、技術が大好きで、それでいて物腰が柔らか。とても居心地がいいコミュニティです。

皆さんと話しているとよくでてくるキーワードが、「CTOはなんでも屋だ」です。「CTOはTechnologyってついてるけど経営にコミットするし、特にアーリーステージなら本当になんでもやる」というのはよく聞きます。

自分自身はすでに組織がある程度成熟しており、CTOもいる状態で「VPoEやってよ」と声をかけてもらました。組織が整っていることもあり「エンジニアの組織づくり・外部発信」という明確なスコープがあり、そこから逸脱した業務はあまり発生しません。なので、フルスタックになんでもやる皆さんは本当にすごいなといつも尊敬の念を抱いています。

そしてそういった皆さんと話していると、当然ながら忙しそうです。あれもこれもやらなきゃいけない。「それはさすがに誰かに渡したほうがいいんじゃないですか?」と言っても、「そうなんですけど、私がやっちゃったほうが早いんですよ…そこで悩んでて…」という話になる。

ん?

この「私がやっちゃったほうが早い」、何もCTO/VPoE固有の問題じゃないですね。身の回りでよく聞きます。特に、EM・PjM・PdMといった「マネージャー」を初めて任されたような人からよく聞くフレーズです。

コードをバリバリ書く、最高の設計を実現する。そういった業務とマネージャーは断絶したものではありませんが、頭の使い方が違ってくるのも事実です。その「新しい働き方」が求められるタイミングで、もともと成果を上げていた働き方も求められる。誰かに渡したいけど「私がやっちゃったほうが早い」と考える『「代打、オレ。」症候群』にかかっているとそれもできない・・・これが、忙しさの正体の一部ではないでしょうか。

あなたが一番できて当たり前

ある日、あなたはCTO(VPoE,EM,PdM,PjMなど適宜置き換えてください)に抜擢されました。その組織のビジネスにも技術にも精通し、会社をさらなる高みに押し上げる人物として誰よりも適任だったからです。そうなると、あなたがこれまでやっていた仕事は、多くの場合「あなたがやったほうが早い」ものになります。

ところで、学習の5段階レベルというものをご存知でしょうか。

レベルを上げるには学習と経験を積み重ねるしかない

自転車に乗るときに「右足を回したら左足を回して・・・」と意識するでしょうか。多くの方は無意識に自転車を操っているかと思います。
キーボードを叩くときに「aどこだa・・・bは・・・」と探すでしょうか。IT界隈の方であれば殆どがブラインドタッチできるでしょう。

それらはなぜ無意識にできる状態になっているのでしょうか。本を読んだ?ネットで見た?それだけじゃできませんよね。たくさん転んだりミスタイプしたりといった経験を積んで、今の境地に達していることでしょう。

最速を求める習慣

エンジニアリングも同じです。「あなたがやったほうが早い」ものをあなたがやり続けていると、周囲の人間はそれを経験する機会が得られません。そうするといつまでも「代打、オレ。」状態からは抜け出せなくなります。だから、仕事をまかせた相手が自分よりできなくてもちょっと我慢してね!成長するから!これで話は終わり!

・・・この解決方法をとれないから皆、困ってるわけですよね。

「エンジニアリングマネージャーのしごと」の3章に「委譲」の項目があり、このように書かれています。

これが委譲です。簡単でしょう?そう、簡単なのです。全然難しいことではありません。でも、委譲に関わるたくさんの些細なことが、委譲を難しくしています。

エンジニアリングマネージャーのしごと 第3章より

なにが委譲を難しくしているのか。ちょっと、自分自身のマインドセットを点検してみましょう。

どこよりも早く市場に出さなければ。もっともっと高い生産性を。即断即決だ。とにかくスピードを求められる環境に身をおいていたがゆえに、少しでもスピードが落ちることを怖く思ってしまう。

どうでしょう、こういったマインドセットをお持ちではないでしょうか。

・実際問題として自分がやるのが一番早い
・できる限り早く物事を達成することが正しいという価値観

この2点が揃うことで、今夜もまた一人『「代打、オレ。」症候群』になるわけです。

直近の最速よりも半年後の最速を

もちろん、最短で走り抜けるべきときはあります。組織がアーリーステージであれば「組織の成長」よりもその組織に属する人の現時点でのポテンシャルを最大限発揮する戦略が最適となるでしょう。
組織が成熟してからも、重大なインシデントが発生し、いち早く復旧作業を完遂する必要がある場面などでは「代打、オレ。」をしたほうがいい場面もあるでしょう。

そうではない場合。平常時。求められてるデリバリーが一ヶ月後で、「自分がやれば一週間だな」というとき。思い切って任せてみてはいかがでしょうか。きっと失敗します。あなたが一週間で終わるところ、任せた相手は二週間や三週間・・・もしかすると1ヶ月かけても達成できないかもしれません(そうなったらフォローは必要ですね)。けれど、その経験を得たあと、任せれた人は間違いなく成長しています。その目線に立つと、グッとこらえて任せてみる、という気に少しはなるんじゃないでしょうか。

自分の当たり前を自分の中から出す

実際にまかせてみると、いろんなもどかしさがでてきます。

あー・・・自分だったらそこは共通化するな・・・
コマンド使うの慣れてないのかな・・・
そこマウスつかうんだ。ショートカットキーあるのに・・・

「なんで○○しないんだろう」というモヤモヤ。その答えはシンプルで「○○すると良いと知らない」「○○する力がない」「○○が合わない」のいずれかです。

こういった部分は、いかに丁寧に「引き継ぎ資料」とやらを作成したところで出てきません。(出てくるかもしれませんが、網羅するのは大変だし網羅されたボリュームのものを読むのは辛いです)

じゃあどうするか。勘の言い方やアジャイルの民はお気づきでしょう。そう、ペアワークです。任せたい相手をドライバーとし、自分はナビゲーターに徹する。その体制で、実際にあなたが任せたい仕事に取り組む。

このやり方であれば、任される側は経験を積むことができますし、あなたはリアルタイムにフィードバックを送ることができます。リアルタイムのフィードバックの中で任される側は学習し、学習したことをすぐ目の前の作業で試し経験していくことになります。学習サイクルが高速でグルグルまわっていくわけです。

もう一つ…教えることで自分も成長する

ここで、さきほど紹介した学習の五段階を思い出してみましょう。

いちばん高いレベルになると、教えることができる

「考えなくてもできる」無意識的有能のさらに上のステージには「どこからでも教えることができる」無意識的有能に意識的有能を備えた状態があります。「自分がやったほうが早い」と考えていたものを、ぐっと堪えて人に伝え、経験させ、その人を「考えなくてもできる」段階まで導いたとき。あなたはさらに上のステージに立っているのです。

あなたのレベルが上がった。以前のあなたと同じレベルの人間が増えている。これは、組織としてもレベルが上がってることになります。人に仕事をまかせられるようになって、そのうえ組織としてのレベルも底上げできるなんて、こんなにうれしいことはない!

自分が一番できることを人にまかせて育てよう、当たり前を伝授しよう

自分がやるのが一番早いがゆえに人に渡せない。だから忙しくなる。
いざ任せてみるとなかなかうまくいかず歯がゆい思いをする。大変な状態になってからフォローするから余計忙しくなる。「じゃあ最初から自分でやったほうがいいじゃん」というマインドが染み付いていく。

あなたはすごい。よくやってる。でも、あなたの役割ってなんだっけ?自分のスコープにある組織をよりよくすることも大事な仕事だったりしませんか?

だとしたら、「常に最速」モードではなく、「必要とされているデリバリー」を冷静に見極め、後進の学習機会を作ってみましょう。
きっと後進はうまく行かないでしょう。習熟してないんだから。あなたからみるともどかしいでしょう。あなたの当たり前ができてないんだから。
だったらそばにいて、ペアワークをして、支えてください。当たり前を伝授してください。あなたのその行動がその人の、組織の成長を促します。

そして、そういうふうに育ててもらった人は、きっと自分の後進にも同じことをするでしょう。恩送りの連鎖が始まるのです。

とはいえ、今は12月。きっと忙しいですよね。じゃあ、今月は走りきっちゃいますか。年明けはどうでしょう?年明けからできるなら、ぜひそうしてください。

え?年始も忙しい?あなたが忙しくないときはいつですか?ないかもしれませんね。
であれば、「いつまでに仕事を移譲したいか」「いつまでに移譲するスキルをみにつけたいか」、自分なりのマイルストーンを置いてみましょう。置いた?置きましたか?置きましたね?

知ってますよ、あなたはコミットメント力がある。一度決めたらやりきる力がある。忙しい中でどうやりきるか、その具体的な方法は私にはうかがい知る方法はありません。でもきっとあなたならやりきってくれるでしょう。「やったぜ!」という報告がSNSなりなんなりで聞けることを楽しみにしています。

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