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アジャイルプラクティスガイドブックはアジャイル実践を始めた現場に置いておきたい一冊


はじめに

レビュワーとして参加した「アジャイルプラクティスガイドブック チームで成果を出すための開発技術の実践知」が出版されました。ご恵贈いただいた時点で(7月中旬)すぐにでも書評noteを書こうと思っていたのですが、8月になってようやく書くことができました。

なぜ書評を書くのが遅くなったかというと、手元に届いてすぐにチームメンバー達に貸し出すことになったからです。ようやく私の手元に戻ってきて、製品版としての本書を一読することができましたので、いま書評を書いています。

アジャイル実践者なら読んでおいて損はない

まず、アジャイルを実践している現場にいらっしゃる方には、いま眼の前に立ちはだかる課題を乗り越えるための心強い味方として本書をお勧めしたい。それが製品版を一読しての感想です。

ポイントはいくつかあります。

  • アジャイルチームを機能させるための具体的なテクニカルプラクティスが網羅されている

  • アジャイルコミュニティに蓄積された実践知へのレファレンスが豊富

  • プラクティスガイドでありながらプラクティスの形に振り回されない柔軟さがある

上記についてもう少し詳しく解説します。

アジャイルチームを機能させるための具体的なテクニカルプラクティスが網羅されている

チームがアジャイルを取り入れたとします。方向性が揃い、対話が生まれ、扱う対象のサイズを小さくし、ふりかえりでカイゼンを繰り返すことで開発のリードタイムが短縮し短いサイクルでデプロイすることが現実的になってきます。
そしていざデプロイを短縮しようとすると、そこかしこで事故が起こります。想定外の依存関係によりビルドが壊れる、開発スピードが向上しているがゆえにバグの発生頻度が上がる、しょっちゅうコンフリクトを起こしてマジでマージできない…。

これらを解決するためのCI/CD、テスト戦略、ブランチ戦略といったプラクティスが、本書では実に血の通った形で紹介されています。おそらく著者の常松さんは、現場でそういった課題と向き合い、ひとつひとつ解決していったのでしょう。

CI/CDにせよテストにせよ、それが大切か?と問われ、大切ではないと答えるエンジニアはあまり多くないでしょう。けれどもちゃんと実践しているか?と問われると自信をもってYESといえる現場もまた、あまり多くないのではないでしょうか。
大事そうだと思っていても、目の前のリリース予定やステークホルダーからの「これは大事なんだ」とあう割り込みほどには大事だと判断できず後回しにしている。そういった現場に対して、実践からくる「ないとなにが困るのか」「あることで何が生まれるのか」が丁寧に描かれているところに、本書の大きな価値があります。

アジャイルコミュニティに蓄積された実践知へのレファレンスが豊富

マンガ主体のポップなとっつきやすさとは対象的に、本文中では海外の文献・ブログを含めたレファレンスが豊富に存在しています。アジャイル黎明期の「アジャイルに触れるならおさえておきたい」ような位置づけのものから、近年スタンダードになりつつあるフレッシュな情報まで。
これは本書を形作る情報が確かなものであることを示すと同時に、学習者が本書をもとに情報の探索を深めることにも一役買っています。

また、第一線で活躍するアジャイル実践者たちのコラムが多数収録されている点も見逃せません。
たとえばTDDのToDoリストについて扱ったkatchangのコラムは実用的だし、思わず「TDDの本、もういっかい読んでみようかな」と思わせる魅力があります。
個人的にはラストに収録されたきょんさんのコラムがお気に入りで、手元での実践からどうスケールしていくか(アップもダウンも)考えるきっかけになる、示唆に富んだコラムでした。

プラクティスガイドでありながらプラクティスの形に振り回されない柔軟さがある

アジャイルに限らず、新しいことに取り組むときにはその変化への抵抗をいかに乗り越えるかが鍵になります。その壁を乗り越えられず挫折した話、いま壁と向き合っている真っ最中ど苦労している話はアジャイルコミュニティではよく聞くコンテンツです。

本書では、周囲も自分たちと同じくらいにアジャイルへの理解・熱量があるとは限らないという観点に立脚し、柔軟な提案をしています。実践チームがネクストレベルに行くためには、実はここが一番大切なポイントかもしれないと思いました。

7月から新しくジョインしたチームでのお話

さて、ここまで私視点での本書の推しポイントを紹介してきました。しかしそれ以上に、本書は実践者にとって心強い味方になる一冊だと確信したエピソードがありますので、それを紹介します。

アジャイルを実践して1-2年、ステークホルダーからの期待以上に成果を出し注目度が高まっているチーム。メンバー間のコミュニケーションも良好。けれどステークホルダーからの期待が高まっているがゆえに、少しづつ課題が表出していました。

・期待が高まる→タスク量が増える→分業、という流れができてしまっている
・それゆえコミュニケーションがリーダー⇔個々のメンバーに閉じつつある
・個別に開発しているのでブランチ戦略が乱れる

私は7月からこのチームのSMの補佐としてジョインし、観察とそれに基づいた質問・提案によってチームに変化を促しているところでした。

まさに目の前のチームがブランチ戦略の不在により悩んでいたので、「こういう本があるよ」と紹介し、まずはリーダーに貸し出しました。

数日後、リーダーはこう言いました。

「ブランチ戦略のところもすごく勉強になったのですが、それ以外のところもチームに必要な情報がたくさんありました。チームみんなで読んだらいいのでは、と思いました。」(※細かい言い回しなどはこの通りではなかったと思います、記憶ベースなのでご容赦ください)

それなら、と別のメンバーに貸しました。
ブランチパートを読み終わった彼はいいました。
「自分、けっこうコミット汚しちゃってたことを認識しました。ここで書かれてるgitの機能つかってみます!」

本書の内容をただ受け止めるだけでなく、自分の開発の仕方と照らし合わせてネクストステップを描いていたのです。

本書が実践に基づいたものであり、かつあまたのレビュワーにより極限まで磨き込まれたからこそ、いままさに課題の真っ只中にいるアジャイル実践者にとって次に進むための道標になるのだーー。同僚達のリアクション、行動をみて、私はそう確信しました。

まとめ:読もう!

個人の感想と、自分の身の回りで起こった出来事のエピソード紹介をもって、本書の書評とさせていただきます。
アジャイル実践者のみなさん、実践を始めて壁にぶつかっているみなさん、きっと本書がその壁を乗り越える一助になります。Read it!



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