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娘のこと、父のこと

娘からLINEがきた。
私は勤務中で、彼女も高校で授業を受けている時間だ。
メッセージは、美術の授業でみたアニメーション作品が面白い、という内容だった。
少し考えてから、教えてくれて嬉しい、こんど一緒に観たいと返信する。

この春から高校生になった娘は、新しくできた友達の話や授業で習ったことなどをよく話してくれる。
だがそれは例えば夕飯のときや夜に寛いでいるとき、一緒に出かけたときなんかのことだ。
学校からわざわざ連絡してくるのは初めて。よほどインパクトの強い体験だったのだろう。
返信を送った後も少しの間、彼女とその作品のことを考えていた。

数日後、彼女が調べてくれて例の作品を見られることがわかった。
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「山村浩二作品集Ⅰ」
一つ一つの作品は5分以内の短いものがほとんど。セリフはほとんど無く、なめらかに次々と形を変える物の動きに目が離せない。きれいで、不思議で、少し奇妙で、画面の色合いや音楽にはまるで夢の中にいるような感覚にさせられる。
うーん、これは確かに強烈な作品。

次々に始まっては消えていくアニメーション作品集を娘の隣で鑑賞しながら、いつの間にか私は父のことを考えていた。

1980年代から90年代初めにうまれた作品たち。まだ父が存命だった頃だ。
絵を描くのが好きで、文化や芸術に明るかった父。借家の小さな居間の壁には父の描いた、赤黒く燃える空を背景にした原爆ドームの大きな油絵が掛けられていた。台所の壁の高いところにも、玉ねぎが幾つか並んだ静物画が飾られていた。様々なジャンルの本を読む父の蔵書は膨大で、部屋にも廊下にまでも巨大な本棚が立ち並んでいる家だった。

きれいなだけでなく、尖った感じもする山村浩二さんの初期の作品たちは、もし生前に父が出会っていたらきっと好きになったと思う。
私が中学生の時に父は持病の発作のため44歳で他界し、反抗期のせいで父のことをあまり知らないまま会えなくなってしまった。今ではもう父の年齢を越し、私は来月で46歳になる。
ねえお父さん、山村浩二さんの作品みたことある? どれが好き? それもいいよね。
想像の中で、自分より少し若い父と会話してみる。

そうしてふと、父が好きであろうこの作品を、娘が私に教えてくれたことに気づく。
娘が生まれた世界にはすでに父はいなかったけど、娘が私の父の横でリモコンを操作して作品をみせてあげている様子を想像してみる。
おじいちゃんも「ひゃっかずかん」好きなの? なんて。

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