見出し画像

右足でフットサルのゴールを決め、左足をタクシーに踏まれる

嫌な予感はあった。

その夜もいつものようにだらだらと散歩していて、家からちょうど15分くらい離れた地点、恵比寿ガーデンプレイスの入り口あたりで、左足のサンダルの紐がブチっと切れた。

完全に切れちまったぜ

歩道の端っこの、レンガが積み重なった花壇っぽいところに座って、考えた。タクシーに乗っちゃうか、裸足で歩いて帰るか。

そのどちらも選ばず、左足をひきずるようなスタイルで、ゆっくりと家に帰ることにした。45分かかった。(当社比3倍)

今思えば、不吉な予感だった。しかし、そういった因果律や占いっぽいスピリチュアルな事柄を、すべて半笑いで聞き流してしまう、ひねくれたDNAを持って生まれてしまったので、帰宅即ゴミ箱にサンダルを捨てて、ECサイトで「リカバリーサンダル」を注文していた。久しぶりに新しいサンダル買うな〜なんて浮かれながら。

そんで翌日の散歩。

もともと持ってたあみあみのサンダル

リラックス度は下がるが、紐が切れる心配のない「あみあみサンダル」で散歩に出かける。リカバリーサンダルとやらが届くまでは、こいつに活躍してもらおう、なんて思っていた。

そんで、さらにその翌日、いそいそと月一回のフットサルに出かけた。代々木にある国立のフットサルコートは芝が気持ちよく、施設に借りたシューズでゴールも決めて、楽しかった。右足だった。

その後、参加メンバーと軽くメシを食い、初めてのメンバーとは自己紹介なんかもして、楽しい夜をすごした。旭川でプロフットサルチームを立ち上げようとしている方の話など聞いて、なんだか東京の夜って感じだな・・・なんて思っていた。

地元京都の田舎・長岡京市で高校生活を過ごした自分にとっての夜の楽しみは、TSUTAYAで当日で借りた「ロックストックシリーズ」を見るか、近所の本屋で買った「ベルセルク」を読むか、倫理観と社会性の概念のない友人たちと、自分の自転車のタイヤにジッポオイルを塗って火をつけ、「火炎車輪!」といってはしゃぐくらいだった。ゴムは燃えるとくさい。亜硫酸ガスが発生するから。

そんなことをぼんやり考えながら、明治通りを歩いていて、青信号の横断歩道を渡っていたら、左後方から強い光を感じた。タクシーがこちらに向かって襲ってきたのだ。

こんな感じでタクシーが来た

体をひねってかわそうとしたが、左足を右前輪に踏まれてしまう。手でボンネットを叩き、車から離れる。転けなかったし、体にはあまりダメージを受けなかったが。足が痛い。

いったん、AirPods Proを外して、運転手が出てくるのを待つ。

「怪我は?救急車は?」

いやまず謝れや。

「本当にごめんね。警察呼びます」

という感じで、初老のおっちゃんが警察を呼び、タクシー会社に連絡して代わってもらって、連絡先を交換し、渋谷区の警察が到達する。所轄の警察官はあくまで初動として現場に来てくれただけで、そのあと、交通捜査係の人が来るという。他にも人身事故があって、ちょっと待っててほしいと言われ、タクシーの後部座席で15分ほど待つことになった。

軽傷(足ばっかですんません)

「運転手を罰したい気持ちはありますか?」

ドラクエみたいな、はい、か、いいえ、で答えられる質問をされるが、いいえと答えて、現場検証して、その日は解散となった。右足で1点とったが、左足で失点して、プラマイゼロな日になってしまった。

翌日、病院に行く。普段あまり訪れない「整形外科」だ。保険証じゃなくてマイナンバーカードを出してしまったため、受付に戦慄が走る。「え、マイナンバーだって」「この機械じゃない?」「あ、できたっぽい!」

交通事故の場合、健康保険は適用外であり、タクシー会社が契約している保険会社による自賠責保険が適応される。そのため、タクシー会社に電話連絡して、病院とつないで、自賠責が適用されることを確認してもらう。

もし、この連絡がとれないまま、病院診療をすると、保険適用外の金額をいったん払う(30,000円)ハメになるので、電話がつながってよかった。

レントゲンをとって、一応、いろいろと診てもらって、骨に問題はなく、絆創膏を2枚貼ってもらって終わった。理学療法士の方もいる病院だったので、「無料なので何度でも来てください」と言われる。

金銭のやりとりだけで考えると、いわゆる被害者である自分も、加害者であるタクシーの運転手もそこには存在せず、保険会社と病院の間でお金がやりとりされる。その瞬間にお互い当事者性がなくなり、なんだったら、たくさん病院に来てほしいという病院と、できればあんまり通ってほしくない保険会社という構図ができあがる。

この「第3者性」が、むしろ、事故のときなどは良いんだろうな、などと思いながら、自賠責保険による「お見舞金」的なものを調べる。一度通院するうごとに、4300円が出る。つまり、これから、なんだかんだ理由をつけてリハビリ的に病院に通えば、時給4300円くらいのバイトになるというわけである。失業中のスコットランドの若者(by トレインスポッティング)的な気持ちに一瞬なるけど、そんなことで病院に通う日々の虚しさを想像して、もう行かなくてもいいかな、と思っている。

思えば、不注意な人生を送ってきた。

バイクにはねられる(5歳)
タンスの角で眉間を切る(6歳)
川で流されかける(7歳)
バイクにはねられる(8歳)
サッカー中に骨折(13歳)
原チャで車に衝突(19歳)
富士山で低体温症(29歳)
ネパールでコロナ入院(40歳)

注意力散漫。
よく周りから言われていた言葉である。
その代わりといってはなんだが、集中力はある方だと思う。

集中は、注意の、真逆にある。

ぐっと集中すると、音が聞こえなくなり、視野が狭くなり、自我が消えていく。目の前の思考や感覚だけになって、集合的無意識にアクセスするような、スピリチュアルな状態に没頭できる。それを筆者は「幸せ」と定義している。

それに対して、注意とは、常に周りの光や音に絶え間なく目や耳を傾け、忙しく脳を動かし続け、人の顔色や、集団の空気を感じ取ることに感覚器官を総動員する。とても疲れる上に不快な状態であり、筆者はそれを「ストレス」と定義している。

そういうわけで、これからも集中力を高めて、注意力を散じて、生きていくことになろうかと思う。

ちなみに、タクシーの運転手によると、「ライトで消えて見えなかった」とのことでした。これは「蒸発現象(グレア現象)」と呼ばれていて、自車と対向車がお互いライトで照らした時に間に立つ歩行者が消えて見える、みたいなことらしいが、あの事故の時に対向車はいなかった気がする。

運転手の不注意と夜間の物理現象で、このような事になったので、人を殺す気で突っ込んでくる車を避けるのはとても難しいことだなあ、と思い、たとえ多少の暴走があろうと、自動運転が普及することを願いました。

あと、あの夜にサンダルの紐が切れていたおかげで、あの無防備なサンダルのまま轢かれなくてすんだ。身代わりになってくれた、とポジティブに捉えていますが、いや呪われてるからお祓いにいった方がいい、という意見もあり、世界のパワースポットを調べて、来年の旅行先にするかどうか迷っているところです。セドナとか?




ありがとう!Thank You!谢谢!Gracias!Merci!Teşekkürler!Asante!Kiitos!Obrigado!Grazie!Þakka þér fyrir!