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【読書日記】自分にとって消えてほしくない大切なものってなんだろう

どこかで聞いたことがある気がして手にとった『世界から猫が消えたなら』。たぶん映画化したときに、テレビや広告で見たのだと思う。

勝手にかわいい猫の話だと思って、猫が消えたらもふもふがいなくなってさみしいな~と軽い気持ちで読み始めてしまったが、読み終わるころには泣いていた。

世界から大切なものが消えていく

郵便局で働く主人公は、ある日余命宣告をされる。突然人生のタイムリミットはわずかになり、気持ちが沈んでいた。そして家に帰ると自分とそっくりな悪魔のアロハが登場する。

アロハは、主人公に簡単な取引を申し出る。それは「この世界からひとつだけ何かを消す。その代わりに、あなたは一日の命を得ることができる」

ただし消すものは自分では選べず、アロハが勝手に決める。最初は電話が消えた。主人公の持っていた携帯電話も消えて、というよりか人々から忘れ去られるという表現の方が正しいかもしれない。

次は映画。そして最後には猫を消そうとアロハに言われる。

ここだけ見ていると、世の中が不便になるだけな気がする。でも違う。大切なものが消えると、その大切なものと同時に記憶の中にある思い出たちが手に取るように鮮明によみがえる。


自分の大切なものが消えるってどういう気持ちになるんだろう。




個人的には、深刻な物語のはじまりに登場する悪魔の名前が陽気そうなアロハなことに少し笑ってしまった。

悲しく切ない話の中に、くすっと笑える隠し味がちりばめられているところに、すいすい読み進めてしまう魅力があるように思う。


世界から大切なものが消えたら

想像もしたことがない。
でもどうだろう。

今電話が消えてしまったら。

気になっている人に連絡するか悩んで送信ボタンとにらめっこをしていたあの日、遠いところに行ってしまった友だちと電話をしてそのまま寝てしまったあの日。そんな電話と一緒にいてくれている思い出が、きっともっとたくさんあふれ出てくるだろう。


私だったら、カメラや本が消されてしまいそう。ほかにはなんだろう。
子どものころから好きなポケモンや、ずっと大好きなスポーツまで消されてしまうかもしれない。


大切なものがなくなることは、どうあがいても想像しかできない。


でも、そんな自分の大切なものをもう一度思い出させてくれて、この世界で平凡にただ生きていられることが幸せで尊いことなんだと気づかせてもらった。


いつか世界に絶望したときにもう一度読みたい本。



世界から猫が消えたなら』川村元気



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