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Knit。

これは大きな蛇と、
女の子の出会いのお話。

ある日どこかで、1匹の蛇が生まれました。
名前はありません。
蛇は生まれてすぐ独りに。
この蛇は兄弟達からも嫌われていました。
なぜなら、大きな岩よりも体が大きく、
誰よりも顔が恐ろしかったのです。



ですが、この大きな蛇はとても心優しく、
愛に溢れている蛇だったのです。
けれども、花やリンゴをプレゼントしても、
毛布をかけてあげても、
羊を狼から守っても、
誰1人とて蛇を"見て"くれる者はありませんでした。


この蛇を見て人間はすぐに噂を立てます。
"人喰い大蛇"
人間は言います。
「奴は人を喰う。
ありゃ殺さなけりゃだめだ。」
蛇は人間なんてものは食べません。
リンゴが大好きなのですから。
人間はいつもそう。
見えるものも見ないようにして
勝手に決めつけるのです。


しばらくのんびり過ごしていると、
人間の雄叫びが聞こえてきます。
蛇は理解してしまいました。
人間は自分を・・・。
蛇は走ります。
『仲良くしたいだけなのに』
悲しみで体が震えだします。
『なぜなの?』


蛇は海岸にあるオバケ洞窟に必死で逃げ込みました。
ここはどんなことがあろうと、
誰1人とて近づきはしません。
嵐もまだ騒いでいないというのに、
洞窟には大きな水溜りができました。
『僕はヒトリボッチなんだ』


翌朝、嵐が去り良きお天気です。
誰もいないことを確認し少し外へ。
嵐でどこからか吹き飛ばされてきたのか、
ボロボロのブリキのバケツが寝そべっていました。
『やあ、君もヒトリだね』
ブリキのバケツに話しかけます。
返事はありません。
蛇はバケツを被りました。
『体は隠せないけど、お顔はこれで大丈夫』
少しの希望を持つため、
蛇は顔を無くすことを決めました。


ある日蛇が散歩をしていると、
小さな蛇に出会います。
「こりゃでかいね」
『君はヒトリかい?』
「違うさ。家族も仲間もいるさ」
『僕はヒトリボッチさ。ずーっとね』
「へえ・・・ならあの墓場にいくといい」
『僕は死なないよ、たぶん』
「行けばきっとわかる」
小さい蛇を疑いながらも蛇は墓場に向かいます。


墓場に着くと、濃い霧が蛇を包みます。
気がつくと目の前に
小さな女の子がボーッと立っています。
蛇は驚き、体が動かなくなりました。
「なまえは?」
蛇は驚きます。女の子は続けます。
「なまえは?」
名前なんてありません。
蛇は黙ってしまいます。
「なかないで」
何も話していないというのに、女の子はさらに続けます。
「おかおをかいてあげるよ」
徐ろに女の子は、ブリキのバケツに顔を描いてくれました。



蛇が言います。
『僕が恐ろしくないの?』
「うん、すこしも」
蛇はブリキの顔で笑います。
「おうちにおいで。
ヒトリボッチだけど、ヒトリボッチじゃないよ」
ゆっくりと、女の子が呟きました。
「Knit。
あなたのなまえは"Knit"」
『僕は・・・Knit!』

蛇は無くしたはずの顔で笑いました。

-SakurA-

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