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はじめて学ぶ「動物実験」①そもそも動物実験ってなに?


2023年下半期からはじめたシリーズ「動物問題連続座談会」。第6回目は、
動物実験の実態について学ぶために、特定非営利活動法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)より、事務局長の和崎聖子さん・理事兼事務局職員の石島伊代さんをお招きしました。動物実験はどこで行われているのか? 実験に使われる動物はどこからくるのか? なぜ動物実験はいけないのか? といった基礎知識から、動物実験がなくならない理由、なくすための具体案、わたしたちにできることは何なのかまで、じっくりお話を伺いました。

【プロフィール(敬称略)】

和崎聖子(わざきさとこ)
特定非営利活動法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)事務局長。
1998年よりJAVAの活動に参加し、2015年より事務局長を務める。
主に教育分野の動物実験の問題を担当し、小中高校での解剖実習の廃止や、獣医学・医学系大学での動物実験代替法への転換などに取り組む。
劣悪飼育からレスキューしたアカミミガメと暮らす。

石島伊代(いしじまいよ)
特定非営利活動法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)の理事兼事務局職員。
2019年から事務局職員として勤務し、日頃の事務業務のほか、動画やSNSを活用した情報発信、コスメガイドVol.6の制作などに取り組んでいる。

【レギュラーメンバー】
司会:深沢レナ
(大学のハラスメントを看過しない会代表、詩人、ヴィーガン)
生田武志(野宿者ネットワーク代表、文芸評論家、フレキシタリアン)
栗田隆子(フェミニスト、文筆家、「働く女性の全国センター」元代表、ノン・ヴィーガン)
関優花(大学のハラスメントを看過しない会副代表、Be With Ayano Anzai代表、美術家、ノン・ヴィーガン)



自己紹介、活動を始めた理由


——今日はゲストにJAVA-動物実験の廃止を求める会からスタッフのお2人に来ていただきました。よろしくお願いします。

 早速いろいろお話を伺っていこうと思うんですけども、和崎さんと石島さん、それぞれ活動を始めたきっかけについて教えてください。

和崎  私はJAVAに入会したのが1998年なので、もう25年ぐらい前になるんですけれども、子供の頃から動物は好きで、「漠然と獣医さんになりたい」と思っていたのですが、動物実験については全然知りませんでした。

 1998年にJAVAが朝日新聞に「動物実験ってこんなにひどいんだよ」という意見広告を出したんです。それをたまたま家で見て、初めて「こんなことあるんだ」と衝撃を受け、事務所に連絡を取って会員になったのが最初のきっかけです。会員になってからはボランティアで手伝いをし、その後スタッフになって20年以上続けています。

——JAVAさんはいつからある団体なのでしょうか?

和崎 設立されたのは1986年なので38年ぐらい前ですね。

——設立にきっかけは何かあったのでしょうか?

和崎 今は当時を知る者が誰もいないので聞きづてになってしまうんですけれども、1986年当時、日本では動物実験に反対する運動は起こっておらず、JAVAの設立者が海外に行った際、街中で動物実験反対運動の光景を見て、これは日本でもやらなければいけないと感じ、日本に帰ってきてJAVAを作った、と聞いています。

——動物の問題にはカテゴリーがいろいろありますが、特に動物実験というところに和崎さんが注目された理由はありますか?

和崎 最初は動物実験に特化してやりたいと思っていたわけではありませんでしたが、その広告で見た写真ーーパピオン犬が心理学のテストで足をハンマーで砕かれている写真があまりにショッキングで、その衝撃から入りました。

 その後、実際にJAVAで手伝いをしている中で動物実験のいろんな側面も知るようになり、これは社会問題として非常に大きなことだし、日本では動物実験に関する運動は全然広まってないので、自分でもここに力を入れて取り組みたいと強く思い始めるようになりました。

——石島さんはいかがですか?

石島 私は最初から動物実験の問題に取り組みたいと思ったわけではなくて、はじめは地元で猫の保護活動をしている方のところでお手伝いをすることから始めました。そのきっかけは、大学生のときにネットサーフィンをしていたら、「こげんた事件」という猫の虐待事件を取り上げたフラッシュ動画を見まして、その虐待事件の内容がすごく酷いものだったんです。

【こげんた事件(福岡猫虐待事件)】

 わたしはそれまで動物虐待というものが存在することすらまともに認識していなかったのですが、生まれて初めて「絶対にこれは許せない」という思いが自分の中に生まれてきて、自分に何ができるだろう、と考えていたら、近所で猫の保護活動をしている方がいるのを知ってお手伝いを始めました。そういった活動に関わっていると、動物に関する他の問題も少しずつ情報が入るようになり、JAVAの活動や動物実験の問題も知るようになって、自然とJAVAの活動にも関わるようになりました。


JAVAの活動


——今日はプレゼンをご用意いただいております。よろしくお願いいたします。

和崎 では初めに当会の紹介を簡単にさせていただきます。

 正式名称がNPO法人動物実験の廃止を求める会で、英語名がJapan Anti-Vivisection Association(略称JAVA)。設立は1986年です。スライドの三つの趣旨にのっとり、動物実験の廃止を国や企業、教育機関などに求める活動の他、動物実験に関すること以外の活動——犬猫の殺処分の問題や、毛皮産業をなくすための活動にも取り組んでいます。


動物実験にはどんな動物が使われるの? どこからくるの?


和崎 まず動物実験にはどのような動物が使われているかですが、ここに挙げました通り、哺乳類は小さい動物から大型動物まで、その他、魚類・鳥類・虫も使われています。

 その中で、最も多く使われているのがマウスとラットです。写真の上の白いネズミがマウス、下の白いネズミがラットで、ぱっと見は似ているんですけれども違いがいろいろあります。まずマウスは、大人になっても最大体重を40g超えるのは稀ですが、ラットは700gを超えることもあります。胴体の長さは、マウスは7cm以内、ラットは20cm以上になります。マウスには胆嚢がありますが、ラットにはありません。

 サルの動物実験には、ニホンザルの他、ニホンザルによく似ていてアジアに生息するカニクイザル、アカゲザルも使われます。ニホンザルは日本でしか実験に使われておらず、世界的に見ればカニクイザルが医薬品の実験などに広く使われています。また写真にある南米産の小さなサル、コモンマーモセットも医学研究などに使われています。

 魚の中では、ゼブラフィッシュが薬効試験や毒性試験、遺伝学の研究などに多く使われています。

 カイコも医薬品の実験に使われています。

 こういった実験動物がどこから来るかといいますと、主には実験動物の生産販売業者からの購入です。また、動物実験施設の中で自家繁殖させたりもしています。その他、製薬会社などの企業から大学に余った動物を譲渡することもありますし、外来動物は国が「根絶させる」という目標を掲げてますが、その根絶事業として捕獲したアライグマやミシシッピアカミミガメなどの野生動物も実験に使われることがあります。

 ナショナルバイオリソースプロジェクトという、文部科学省が行っている研究に利用する動物や植物などの安定供給をするための巨大プロジェクトがあります。今私たちは皆さんにこのプロジェクトの中の「ニホンザル」プロジェクトの廃止を求める署名へのご協力をお願いしています。ナショナルバイオリソースプロジェクトの中には、ニホンザルをはじめ、マウス・ラット・鳥類・魚類・カエル・虫などが、このナショナルバイオリソースプロジェクトで扱われています。

 実験動物の販売をしている企業はたくさんあって、そこのホームページを見ていただくと、糖尿病や高血圧など、人為的に様々な病気にさせられたラットや犬など、いろんな動物が売られているのがおわかりいただけます。ネットで「実験動物 販売」で検索していただくといろいろ出てくると思います。

動物実験はどこで行われているの?


和崎 動物実験がどういった場所で行われてるかといいますと、まず、製薬会社などの企業が持っている研究所で行われています。写真は国内最大級の武田薬品の研究所です。

 また、研究所を持っていない企業も当然あって、そういった企業から委託されて動物実験を行う企業もたくさんあります。

 国や自治体の研究所としては、例えば、厚生労働省は国立医薬品食品衛生研究所という研究所を持っており、動物実験をしています。STAP細胞事件で一躍有名になった理化学研究所も、国立の研究所になります。その他の大学病院ですと、国立がん研究センターのような大きな病院も研究施設を持っています。

 あとは普通の大学、特に理系の学部——例えば医学部・獣医学部・薬学部では、動物を用いた実験実習を行っていますし、栄養学の分野では、大学だけでなく専門学校でも動物を使った実習を行ったりしています。

 もっと下の年齢の教育機関ですと、小中高校では、マウス・ラット・カエル・魚の解剖を行う学校が未だに多くあります。解剖以外だと、生きたウニの体を切って卵を取り取り出すような発生実験も行っている学校が結構多いです。

 あとは学校以外ですと、例えば自治体が公民館とかで子ども向けに夏休みの企画で開催している科学教室や、最近は「サイエンス塾」といった理科教室を専門にするような学習塾もありまして、そこでも解剖や生き物を使った実験を行っていたりします。

 このように、動物実験というのはいろんなところで行われています。上の図はざっくり示したもので、全ての分野を網羅してるわけではないのですが、大きく分けるとこの四つの分野です。このうち基礎研究・応用研究の分野が一番大きな割合を占めており、EUですと全体の7割以上になります。また、私達の生活に欠かせないさまざまな製品の安全性や有効性を確認するのにも膨大な数の動物実験が行われています。

 製品の安全性・有効性のための動物実験については、上の図のように、法律で動物実験のデータを取り、それを国に提出しないと新しい製品が作れないものと、法律での義務付けがないものに分けられます。法律で義務づけられているものについては、動物実験をしないと製品は作れませんので、現時点では企業努力では避けられない動物実験とも言えます。しかし、緑の丸で囲ったような製品は、動物実験をするかしないかは企業の判断で決められますので、今すぐにでも企業には動物実験の廃止という方針を決めていただかないといけない分野です。

動物実験の種類


和崎 次に、いくつかの分野の実験の写真を少し見ていただこうと思います。ちょっとショッキングなものもあります。

 これは医療研究の動物実験です。左上は心臓疾患の実験に使われているヤギです。そのとなりの猫は——猫というのは脳神経の実験に使われることが多く、写真の猫は頭蓋骨を開いて脳に電極を差し込まれています。左下は、がん細胞を人為的に植え付けられたヌードマウスです。ヌードマウスは突然変異で生まれた、毛が異常に少ないマウスで、実験に多く使われています。右下のサルの写真は、オランダの研究施設でのリウマチの実験です。

 こちらは教育現場での動物実験です。小中高校の理科や生物の授業で行われる解剖実習については、生徒さんから「解剖をやりたくない」「やらされてつらかった」「通ってる学校の解剖実習をなくしてほしい」といった悲痛な訴えがたくさん寄せられていて、それを受けてJAVAが働きかけ、多くの学校が廃止をしました。動物愛護意識の高まりもあり、昔と比べて解剖を行う学校は減ってきているようには感じますけれども、それでもまだまだあり、ちょうど今JAVAはネズミやカエルの解剖を行ってる学校について相談を受けて、複数の学校の問題に取り組んでいるところです。

 上の写真(右)は、日本のある獣医大学で子牛の首を切って失血死させているところです。これは無麻酔で行われているのですが、当然牛には意識があって、痛くて暴れるので、足をロープで縛ってるのがわかります。この写真は動画の一部を切り取ったものですが、動画には子牛が足をバタバタさせている様子や、泣き叫ぶ声が記録されていました。

 JAVAはこの大学に働きかけ、麻酔で意識をなくしてから行う方法に改善されました。この動きは同様の方法をとっていた他の獣医大学にも影響を与えました。

 また、上の写真は、化粧品のための動物実験で、左は皮膚刺激性の試験です。毛を剃った白色ウサギの皮膚に試験物質を塗り、3日間にわたって刺激や腐食の程度を観察するものです。化粧品を繰り返して使用する場合の連続刺激を測る試験では2週間にわたって観察が行われます。写真のウサギはこの皮膚刺激性試験に使われたために、皮膚が激しく炎症を起こし、骨が見えるほどただれてしまっています。

 右側はイメージの写真ですが、化学物質などが体に取り込まれたときの毒性を測る試験も、化粧品のために行われる場合があります。この毒性試験には、ラットもしくはマウスが用いられ、あらかじめ絶食させておいて、口から強制的に試験物を投与して2週間にわたって観察します。試験中に死亡していても、生き残ったとしても、全て解剖されて検査が行われます。つまり全て殺され、廃棄処分されるということになります。


実体のわからない日本の動物実験


和崎 では、「日本では動物実験がどれくらいの数が行われているか」ですけれども、結論から申しますと、わからないということになります。日本では動物実験の施設の数は正確に把握されていません。使ってる動物の種類・数も把握されていないからです。JAVAだけでなく、政府も誰もわからないのです。

 ここに示した数というのはあくまで参考のデータで、関連する実験に関係する団体が過去にとったアンケートで、全ての関係者を把握してとったものでもないですし、回答率も100%ではないので、正確なデータではないですが、このような頭数がデータとして出されたことは過去にあります。

 動物実験に関する規制は、他の国と比べると上記のような違いがあります。世界で最も厳しい規制があると言われているイギリスやフランスでは、実験施設は認定制で、実験者は免許制です。施設への査察もあります。アメリカも施設数の登録制や査察はありますが、アメリカの場合は最もたくさん使われているマウスやラットが規制の対象外になっていて、マウスとラットしか使ってない施設への査察はありませんし、使ってる数についても、マウスやラットはカウントしていないという大きな問題があります。そして日本はいずれもなしです。

 ただ、ご注意いただきたいのが、イギリスのような厳しい規制を設ければ動物実験をなくせるかというとそうではなくて、実際はイギリスも動物実験をなくせていませんし、かなり残酷な動物実験も続けられています。日本のように、イギリスと違って動物実験反対の世論がまだまだ小さい国では、規制があることで国民の皆さんが安心してしまって、動物実験反対の運動が弱まってしまったりすれば、動物実験廃止はますます遠ざかってしまうので、規制があれば良いというわけではないと思います。そのためJAVAは、動物実験の規制に反対している部分もあります。その理由についてはご説明しますとかなり長くなってしまうので今日は割愛しますが、ホームページに「JAVAが動物実験の法規制に反対する理由」という記事を載せてますので、ぜひご覧いただけたらと思います。



なぜ動物実験はいけないのか?——4つの理由


和崎 では、そもそもなぜ動物実験はいけないのか、JAVAがどういった理由で動物実験に反対し、廃止のために活動しているかですが、それには科学的な理由と倫理的な理由があります。

 まず、動物実験は人の身代わりに動物を使うわけですが、人と動物は体の構造や仕組み、代謝機能などが異なるため、動物実験で得たデータが人間に当てはまらないことが多々あるからです。 

 わかりやすい例で言いますと、私達人間にとっては、玉ねぎやネギは血液がサラサラになるなどの効果があって体に良い食べ物とされますが、犬猫にとっては有害で、赤血球が破壊され下痢や嘔吐発熱を引き起こします。マウスやラット、ウサギは人間と違って嘔吐しませんので、この点も人間と違います。また、人間と動物は寿命も違うので、老化現象も違います。

 2つめの、動物の個体差や環境によってデータが異なるという理由ですが、同じ種であっても、同じ種の動物であっても、当然のことながら個体差でデータに差が出てきます。また生き物なので、飼育環境の違いでストレスによる影響も受けてきますし、それがまたデータへの影響に繋がっていきます。

 このように、動物の人間とは異なっていて、飼育環境の違いなどでデータに差が出たりするのに、動物実験で得たデータを使って薬品を作ったりしますので、薬害も起こったりするわけです。薬害や事故のために、販売された医薬品の多くが回収されています。一つの薬を作るのには10年以上かかり、開発費用は200〜300億円と言われています。これは製薬会社にとって大きな損になるだけでなく、患者さんは薬害の被害に遭ったり、治りたいのに治せる薬の開発が進まないなど、誰にとっても不幸なことです。

 ですので、後ほど少しお話しますが、動物実験ではなく、ヒト細胞など、ヒトのものを使った代替法に転換すべきです。

 また、費用と時間の問題でも、動物を使わない代替法の方がメリットがあります。動物の場合は例えば実験動物の飼育だけ考えても、実験に使えるくらい成長させるのに数週間〜数ヶ月の期間がかかります。費用の面では、世話する人の人件費や、大きな飼育施設を一定の温度や湿度を保って衛生状態も管理するなど莫大な維持費もかかります。細胞を使うような代替法だと、それらを大幅に減らすことができます。

 それからJAVAが最も強く動物実験に反対する理由は、動物実験は倫理的に間違ってるからです。動物も人間と同じく、苦痛や恐怖、ストレスを感じる生き物であるのに、生き物に対して化学物質を無理やり飲ませ、意図的に怪我を負わせたり病気にさせたり、あげくに殺してしまう、という残虐な行為は行うべきではないという理由です。

 動物実験に反対している団体はもちろんJAVAだけではなく、日本にも海外にも活動している団体は数多くあります。さらに、欧米には、動物実験に反対する医師や科学者などの専門家の団体が多数あります。こういった専門家の団体は「動物実験は医学の進歩を遅らせる」など主に科学的な観点から反対しています。



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