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百談 [六十六]

 年に数回、こんな夢を見るのだと言う。
 今年40歳になる人で、この夢を見始めたのは大学の頃だそうだ。

 中学の同級生と遊んでいる。おそらく自分も中学生に戻っている。
 誰かの家でゲームをしていたり、学校でサッカーをしていたり、はたまた教室でダラダラ喋っていたりと状況は様々だ。
 廊下でダベっていたら次の瞬間に帰り道をみんなで歩いていたりする。そのあたりは別にいい。夢の世界の許容範囲だと思う。

 ただし、友達が全員、身体の一部が妙に長い。
 勉強が一番よくできた斎藤は両腕が2メートルくらいある。スポーツ万能だった田中は首がひょろりと長い。女の子にモテていた矢野は爪を5センチも伸ばしている。不良っぽかった五十嵐の指は普通の倍くらいある。
 友達と、長い身体の部分は固定されていて、たとえば田中の首が戻って代わりに爪が長くなっていたりはしない。
 場面の折々にその長い身体の一部がたゆんたゆんと揺れたりぶらぶら動いたりして、嫌でも目についてしまう。
 一方、おそらくなのだが自分の身体は、どこも長くないという感覚がある。

 その、腕が長かったり首が長かったりするのを、指摘してはいけないことを自分は知っている。
 指摘するとすごくまずいことが起きる。なんとなくそれがわかっている。
 他はとても楽しい中学校生活なので、はしゃぎすぎて気を抜くと「ところでお前の指さぁ……」などと言いそうになる。そのたびにゾクッと悪寒が走って、踏みとどまる。 

 年を経るごとに懐かしさと楽しさが増してきて、指摘してしまいそうになる機会がどんどん増えてきているのだそうだ。

 それを言ってしまうとどんなまずいことが起きるのか。それはわからない。


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