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【連載版】106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首 84&85

【前回】

●84
 …………ジョーの名声が泥まみれになってから数ヶ月。弁明の機会もないまま、ジョーは「お尋ね者」リストの上位に食い込むことになった。
 そりゃあそうだ。ろくでなしとは言えまだろくに悪行もしていなさそうな奴らを皆殺しにして、ついでに「どっちだか」の主人夫婦にまで手をかけたのだ。ついでにその後は血に飢えた獣みたいに強盗や殺しをやり続けているのだから救いようがない。とんでもない野郎だ──まぁ、全部俺たちの描いたウソの絵図なんだが。
 義賊時代は大目に見られて安かったジョーの懸賞金は、じりじり上がってついに2万ドルにまでなっていた。元名士のダラスは口ごもっていたが、俺たち5人は“クソッタレのジョー”に感謝しながら酒を飲み、女を買い、博打をした。それでも金は余った。俺たち「ジョー・レアル団」はそれくらい暴れ回ったのだ。
 
 そんなある夜だった。
 トゥコがまだ早い時間に、酔いながらもしっかりした足取りで、「ヘンリーズ」に戻ってきた。
 その日のトゥコはパリッとした立派な服を着て、髪や髭も整えていた。今夜は上流階級のお歴々の通う飲み屋に入り込んで情報を仕入れつつ、高級な酒をいただく寸法になっていたはずだ──もっとも、トゥコ本人には酒の方が大事だったろうが。

「おい、えれぇことになったぞ」
 ぶっきらぼうな口調はそのままだったが、顔はいつになく真剣だった。
「どうした」モーティマーがナイフを研ぎながら短く聞く。
「ジョーの野郎のよ、懸賞金が、近々上がるらしいんだ」
 いつもはここでドーッと喋り倒すはずのトゥコだが、今夜は妙に台詞が短い。
「いくら? 4万ドルくらいに?」ウエストが尋ねると、トゥコは首を横にぶんぶん振った。
「じ…………」トゥコはそこでごくん、と一度、唾を飲み込む。

「じ、じゅうご……。15万ドル…………」
「じゅう……ごまん……?」
 俺は思わず立ち上がっていた。
 「ヘンリーズ」の店内にいた他の4人も、立ち上がるか中腰になるかした。
 15万ドル。
 15万ドル…………



●85
 やはり、でかい悪を怒らせるととんでもないことになるんだな、俺は思った。
 トゥコが上流階級の店で小耳に挟んだ話はこうだ。
 そういう店の中でも特にお高そうな服を来た品のいい奴ら、しかし顔つきは悪党そのものな奴らが、こそこそ会話していたそうだ。
 ジョーが銀行の金庫を吹っ飛ばして盗んだ裏金について、「組織」が相当に怒っているらしい。
「組織」の偉いさんたちいわく。
「ジョーとかいう奴は今、相当に荒れて、嫌われているらしいじゃないか。世間の人間から取り囲まれて孤立するにはちょうどいい状況だ」
「私たちが、10万ドルばかり上乗せしてやるから、キリよく15万ドルにしよう。そうすれば世間の人間も目を皿にしてジョーを追いかけはじめるだろう。裏切り者も出るかもしれない」
「これは、いい見せしめになる。私たちのカネに手をつけたらどうなるか、という」
「何だったら古めかしいやり口で、『首だけでもよし』としてやろうか」
「とは言え私たちの一存では決められない。15万ともなればしかるべき層にも根回ししなきゃならん。まぁ数週間後にでも、懸賞金をぶち上げてやろう……」

「俺ぁまったくチビりそうになったよ。だってあそこはよぅ、元々は俺たちが襲うつもりの銀行だったんだぜ……」

 俺もブルッと寒気が走った。見ればダラスは寒気どころかガタガタ震えている。まさかそこまでヤバいカネだとは思っていなかったのだろう。どこかの誰かに殺されて首をちょん切られたりするところだった。先を越してくれたジョーに感謝しなくてはならない。

 だが、それはそれだ。

「ジョーを本当に、文字通りに葬る理由ができたな」俺は言った。
 5人ともが俺の顔を見た。金額のせいか恐怖のせいか、トゥコやダラスもまだ気づいていないようだ。
「ジョーの懸賞金が上がるのは、『数週間後』なんだろう?」俺はニヤつきながら言った。
「そしてそれを世間の中で知っているのは、俺たちだけだ……そうだな?」
 トゥコは頷いた。それから「あぁ! なるほどな!」と手を叩いた。
「そういうことだ。俺たちが、賞金が上がる前、まだ追っ手が比較的少ない今のうちに、ジョーを仕留めるんだ。それで懸賞金が15万になった後で、ジョーの死体を持っていく……。ジョーを葬れて、15万ドルも手に入る。こんな旨い『仕事』があるか? なぁ?」
「ヘンリーズ」の中はにわかに色めき立った。

【続く】

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