初参加者のドントさん私選・第2回逆噴射小説大賞ピックアップ どてらい作品(やつ)ら
【注】
いつもの癖でどうにも導入が長いので、長ったらしい説明がお嫌いな方は本編がはじまる「★★★★★」マークまでスッ飛ばしてお読みください。
モノを書くということ、殊にフィクションを書くというは実に気持ちのいいもので、言うなれば合法の麻薬みたいなもんである。
創作であれば基本的には何を書いてもいいしどう書いてもいいし、2019年10月現在は文字だけならどんだけ反倫理的な虚構作品を書いてもまぁまぁ大丈夫ということになっている。「悪徳の栄えた下張りの部分をチャタレーチャタレーすると」などととんでもないスケベなことを書いても逮捕なぞはされないのである。まぁこの混迷の世界日本、今後はどうなるやらわかりませんが……
で。
何をどう書いてもいいとなった時に、じゃあ「何をどう書くのよ」ということになる。何を書くの? どう書くの? そしてそれ、面白いの?
この3つの問いはおそろしい。果てしなく高く長く続く壁である。
しかも「何をどう書いてもいい、好きにやれ」とキッチリ明言された“パルプ小説”なる枠ともなれば……
さて、そんなわけで私が今回はじめて参加した、
「800文字以内で、たまらなく先の読みたくなる“パルプ小説”の冒頭を書きやがれ! 1人5本、10月31日まで!!」
こと
『第2回逆噴射小説大賞』/『逆噴射小説大賞2019』
はそのようなフリーダムかつなんでもアリ(※最低限の倫理制限は設けてあります)な800文字が銀鱗躍動跳梁跋扈刀剣乱舞するハチャメチャな代物となった。
何せあなた、「何を書いてもいい」「どう書いてもいい」に「オチをつけなくていい」まで加わっているわけですよ。
大風呂敷を広げまくっても世界の奥行をチラ見させるだけでもワケがわからんがとにかくすごい感じをかもし出してるだけでもいいわけです。むしろそれが優勝。
「す、すげぇ! 続きが読みてぇ!」と思わせたら勝ちな、どえれぇコンテストなのだ。
かく言う私も10月8日か9日にコンテストの存在を知って、「あら。私もちょっと、書いてみようかしら?」と本当に気軽に書いてみたはいいが、いざ書きはじめてみれば投稿2本目あたりから創作という薬物がそれはもう見事にキマってしまい「オレハスゴイ」「オレガ優勝スル」「出る前に負けること考えるバカいるかよッ!」(Byアントニオ猪木)モードに突入、11日の初投稿から8日後の19日までで「1人5本まで」の5本を全弾撃ち尽くすという考えナシのばかな行動に出てしまったのであった。
ぶっこんだ直後から「オレハスゴイ」モードから抜けつつあった私は、ふと周り( 逆噴射小説大賞2019 のタグ)を見渡してみた。すると……
ああ! ああ! ここはなんとおそろしい場所なのであったろう!
気づけばアレやコレやのすげぇ作品をぶっぱなしている人々がゴロゴロといたのである。
こっちには投稿開始の日0時0
0分に《柳生暦37564年》ではじまる話をぶちこんで来た人。
あっちではパリッパリの職人肌の寿司屋に宇宙人が来る話がヌッと顔を出す。
そうかと思えばスーパーバイクに乗ったサムライが2mの刀でトライポッドをバラバラにする話が飛び出てくる。
手足が10対ある人喰い野獣、棍棒を振り回す巨人、ダークマターを操る邪神らがキャッキャウフフしている荒野に、小僧ならぬ小象が一匹チンマリいるようなものなのであった!
こわい。
超こわい。
私は知らぬ間にこんなところに迷いこんでしまった。
私は戦慄と恐怖で子犬のようにプルプル震えながら、「アアスゴイ」「コレハヤバイ」と言いつつ、すごいやばいやつをお気に入りに登録していくことになったのであった。
★★★★★
そんなこんなで「オレハスゴイ」から「コレハスゴイ」モードに切り替わった私が贈る、
『初参加者ドントさん私選・逆噴射小説大賞2019 どてらい作品(やつ)ら』
はじまるよ!!
おひとりめ。
azirtarouさんの作品はどれも文章と言葉使いがいい。本作は特に開放感が伝わってきてそれが広々とした世界観にマッチして読んでて気持ちがいい。ご本人のセルフ解説記事で「完全に趣味」「手癖」とあってウム、と頷いた。趣味で、手癖で書いたがゆえに出てくる面白さ、快感もある。
こちらの方の『ダニエル探偵助手の怪奇事件調査ファイル』は一転してピッチリ、カッチリと設計してあり、勝利をもぎ取らんと書かれた作品であることが如実にわかる。趣味のまま書いた作品も自信作も面白いとは。これには参ってしまった。
おふたりめ。
まずタイトルがカッコよい。冒頭柔らかな単語の「渡り鳥」から即座に「糞の山」「疫病」と暗い単語が続き、とどめに「二十日経っても明けない夜」。人心が荒廃していく様が「怒鳴り声を上げて喋るようになった」のたった一文でわかってしまう。過不足なき足腰の強い構成と文章で、いい。
このあとに続く地獄絵図の描写も簡素でありつつ黒い深さをたたえていて美味であります。そしてこの閉塞感に呼応するように、舞台はおそらく小さな島なのである。文章と世界観と雰囲気の三重奏が見事に決まっていて参ってしまった。
おさんかため。
あ~いいなぁ。本文中にある「小魚をピシピシと捌き」ってな表現にも似て、ピシピシと小気味よく進むのがいい。典型的(類型的、ではない)な職人肌の寿司屋というキャラをごく少ない表現で立ち上がらせちゃうのだから恐れ入る。
落語とスペースSFが互いに攻撃しあわず、ネタとシャリの如く一体となっている。よく考えればムチャな取り合わせなのに口の中に放り込めば「むうっ」と唸るしかないのだからまったく、参ってしまう。山岡も海原雄山も納得の800文字だと思う。
およんかため。
一行目で胸倉を掴まれ、二行目で引き倒された。目の覚めるような出だしである。「マリア像」と「仙人」のイメージが一瞬で異化され否応なしに物語世界に没入させられる。いい……。作中世界を構成する用語や小道具が頻出するが、乾いた文体の中に綺麗に埋め込まれていて説明感がまるでない。
酔うように800文字を読み終わりもう一度読み返してみると、いわゆる「キャラクター」が、話を牽引するような人物がまだ出てきていないことに気付く。混乱と戦闘だけで強固なひとつの世界線が創造されている。いやはや参るなあ。
おごかため。←この表現でいいの?
一読して「あーーーっ」と思った。このアイデア。この発想。「うわーやられた」と思った。ごく普通のSFとして歩き出した物語が、この異物ひとつでまるで新しいジャンルになっちゃうのだ。宇宙船となりゃあ異星人か怪物、という固定観念がベリベリと頭から剥がされた。
たぶん宇宙船に「コレ」が出るってアイデアは今までなかったのではなかろうか。たぶん。実に退屈そうな、そっけない舞台が、「コレ」の出現によってどんな風に転がるのか。読めない。全然読めない。だがその読めなさかいい。この原作映画化希望。
おろくかため。
ああ、キメているな。完全にキメているな。薬物的なものをキメているな。そう確信させる。この場合の「薬物的なもの」とはもちろん創作という合法の麻薬である。しかしこの方はキメながらもそのキマり方を、荒馬を乗りこなすようにコントロールできている。そこがすごい。
ポールとリンゴに怒られそうな題名でエンジンをふかし最初の9文字でこちらの想像など軽くブッチ斬ってどこまでもどこまでも疾走していき速度を緩めない。アクセルベタ踏みデスレース2019。下手なスカシなんぞはないため、こっちもマジな気分で巻き込まれて参ってしまうしかないのだ。
おしちかため。
書いてある内容とは遠く離れた響きのホンワカパッパな題名の響き、世界がヤバい感ゼロな、日常の匂いしかしない「ラーメン屋のテレビで観る大統領の演説」。でも「衛星をジャック」って書いてあるよ……? このコントラストに鼻っ面を引っ張られる。
ちっぽけな、ミニマムな日常空間が、破壊とともに少しづつ拡張していく。ゆったりとしつつ確かな危機の進行。それが最後にクワッとどでかく広がってワクワクが止まらなくなる。いいですねぇ。この冒頭だけでひとつの有機的な仕掛けを施せるんだからほとほと参ってしまうですよ。
さいごのかた。
どうかしている。もはやテンプレギャグにすらならなさそうな高校生のベタベタな朝の情景やコテコテのツンデレヒロインの登場の背後、というか内部で蠢いているのはサイエンスフィクションをベースにした超多数票田の可能性、ってんだからもうこれはなんなのよ、好き、としか言えない。
で、そのどうかしている導入から急転直下でこの展開をぶっこんでくるもんだから参るも参る。早い! 早いっす! めまいすらしてくるようだ。テンプレな高校生活と怒涛のSF設定は間違いなく確信犯的に対置されておりその温度差に体調を崩しそう。しかし体調を崩す小説って、すごくね?
はい。
10月27日までにイイネを押した逆噴射応募作以上8(9)作品、8人なのに十人十色なんていう言葉では表現できない多様性に満ちていたかと思います。これが本物のダイバージェントだ。
上の9作は完全に私の好みで選んだモノでありますので、皆さんも「 逆噴射小説大賞2019 」のタグから、好ましいもの好きなもの、続きが読みたくて作者を監禁したくなっちゃうものを探してみてくださいね!
※監禁は法に触れる行為ですのでやってはいけません
最後になりますが、えー、まあ、不肖わたくしも、5作品ばかり投稿をしておりますので、ちょいと読んでいただけたら、嬉しいな、なんて思いながらまとめを貼っておきたいと思います。よろしくね! オレハスゴイ! 時は来た! それだけだ!!
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