吹奏楽部にいた頃の話 11 オータムコンサート
オータムコンサート当日。
舞台袖からチラッと客席を覗くと、予想の3倍ぐらいの人数のお客さんがいた。
ほぼ満席。
「うぇっ?!」
と変な声が出た。
コンサート前日、先生の指示で体育館に150個のパイプ椅子を準備した。
「こんなにたくさんいらないよね…」
とみんなでブツブツ文句を言っていたが、先生の読みは当たっていたのだ。
部員の家族や友達が来るのはまだわかるが、おそらく近所に住んでいるであろうご老人が多かったことに驚いた。
各学年の男子たちも結構な人数が来ていた。
わざわざ後ろの方で立ち見してビデオカメラを設置している保護者もいた。
今考えると、仙台の田舎の娯楽がほぼない地域だからみんな暇をしているので、こういった催しがあることを宣伝すると大概来るのだろうなあと思う。
(また、後から聞いた話だが千葉先生を見たくて来たという吹奏楽ファンも多数いたそうだった。千葉先生が指揮を振る演奏会が無料で見られる機会はなかなかないらしい)
あまりのお客さんの多さに、司会進行役を勤める私と先輩はかなり弱気になっていた。
そして開演の時間。
面白がる部員たちにドンッと背中を押され、私と先輩は慌てて舞台へ出た。
ものすごい拍手。
客席を見ると祖母や友達が私を見て大騒ぎしているのがわかり、恥ずかしかった。
私が最初の挨拶をする予定だったのだが、まさかの最初のセリフを忘れた。
しかもカンペも忘れた。
何も言い出さない私にちょっと客席がどよめき始めた。
状況を察した先輩が慌ててカンペを私にくれて、テンパった私はカンペを堂々と読みながら元気に進行を始めた。
なんと客席は大ウケ。
かなり喋りやすい空気になった。
そして部員たちと先生が入場し、各々のポジションについた。
最初に演奏する曲の紹介をした。
コンクールで演奏した曲。
「今年の夏の吹奏楽コンクールで演奏し、地区大会で銀賞をいただきました」
と言ったら、客席から軽く拍手が起こった。
拍手の意味はわからなかったけど、金賞を獲れなかったことを慰められているような気がしてどこか惨めだなあと感じた。
「コンクールは終わってしまいましたが、それでもコンクール同然に全力で練習してきました。どうぞお聴きください」
そして私と先輩も自分のポジションに着き、楽器の準備をした。
先生が客席に向かってお辞儀をし、演奏が始まった。
コンクールの時とは違った緊張感。
身内が見ているとなると、気恥ずかしさがありやりづらかった。
しかし、チラッと客席に目をやるとみんなとてもいい顔をしていた。
ここにいる全員が私たちのことを応援してくれているんだなあと感じて、ちょっと泣きそうになった。
続く
関係ないけど、どこかふらっと一人旅にでも行きたい気分。おすすめスポットがある方は教えてほしい。
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