33歳人妻が16歳の少年に恋した話 76 開幕戦とクッキー

2023年、2月中旬。

開幕戦の日。

ステラおばさんのクッキーをカバンの中へ入れ、会場へと向かった。
バレンタイン限定のピンクのかわいい箱に入ったクッキー。

フォロワーたちも今日は会場にいるらしい。
朝から

「あのこちゃん頑張れーーー!!!」

と連絡が来ていた。

前日の夜には美容室にも行った。
ちょっとでもかわいく見られたかったから。

彼と初めて会う日も、直前に美容室に行ったことを思い出した。
相変わらず恋しているんだな、と思った。
そして、恋している時に取る行動が全く変わらない自分がちょっと可笑しかった。

サポーターたちが待ちに待った開幕戦。
選手が入場した瞬間の会場の熱気は凄まじかった。
私は当然それどころではなかった。

応援団の席に目をやると、彼らしき人物は見当たらない。

いつもならユニフォームを着てフラッグを掲げているから、わかりやすくてすぐ見つけられるのに。

スマホが鳴ったので確認すると、フォロワーたちからも

「フラッグ君いなくない?」

と連絡が来ていた。

一体どこにいるのだろう。

とりあえず前半戦が始まったので試合に集中することにした。
まあ、案の定試合どころではなかった。ずっと応援団の席を見て彼を探し続けていた。

無難に前半戦を終え、私は心臓がバクバクしていた。

そういえば待ち合わせ場所を決めるのを忘れていた。
今からどこで会うんだろう。
というか彼はいるのだろうか?

彼に連絡してみた。

「どこで合流する?とりあえず今ゲートの前にいるよ」
「抜け出せたので行きます」

即返信が来た。
どうやら会場にはいるらしい。
おそらく例の派閥から抜け出せた、ということだろう。

私はゲートの前で彼を待った。

すると、真っ黒なトレーナーを着て焼きそばみたいなパーマをかけた少年が私の目の前に立った。
びっくりして見上げると、彼だった。
見た目が変わりすぎていたせいで見つけられなかったのだ。

「久しぶり。髪型変えたんだね」
「はい。あんま時間ないから早めに」

もう心折れそう。

「ユニフォームは?」
「ダサいから買ってないし着ないですよ、うちの派閥の人たち誰も着てないし」
「そうなんだ…フラッグは?」
「ダサいからもう持ってこない。うちの派閥の人たちも誰もやってないし」
「へえ…」

彼は完全にあの派閥の人になってしまっていた。
ユニフォームを着てフラッグを掲げて懸命に応援する、私の大好きな彼ではなくなってしまったんだな。

こんな短期間で変わってしまうのか。
ちょっとショックだった。

私と彼の間にはかなり気まずい空気が流れていた。

私はステラおばさんのクッキーをカバンから取り出した。
ちょっとでも和やかな雰囲気になることを願って。

「今日はこれ渡そうと思って会いに来たんだ」

そう言って彼にクッキーを差し出した。

するとすかさず

「いらないです」

と言われた。

「え?」

彼は笑顔でどこかを見ながら、再び

「いらないです」

と言った。

続く

関係ないけど、楽天スーパーセールってどうしてこんなに惹かれてしまうんだろう。いらないものまで欲しくなってしまう。慎重にいかねば。

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