バイト先のお客さんと付き合った話 13 震災とカップラーメン
教育実習を無事に終え、色々あれど楽しく付き合っていた頃、東日本大震災が発生した。
当時住んでいたのは仙台。
全てのライフラインが止まり、生田さんとは会えないどころか連絡すら取れない状況となった。
バイト先の近くに住んでいた私は帰れなくなったバイトの同僚たちを家に連れて帰り、しばらくみんなで一緒に暮らしていた。
震災発生から1週間ほど経った頃に電気が復旧し、生田さんと連絡が取れるようになった。
生田さんはメールでひたすら
「あのこちゃんに早く会いたい」
を連呼していた。
しかし、生田さんは私のバイト先から離れた場所に住んでいる。
当時はガソリンも不足していて車には乗れない状況だったし、地下鉄も電車もバスも止まっていた。
私の住む場所に来ることは不可能だ。
「私も会いたいけどこんな状況だし、震災が少し落ち着いて交通網が復活したら会おうね」
と返信した。
翌日、同僚たちと一緒にバイト先の復旧作業をしていた。
その日は早めに復旧作業を終え、バイト先の前でみんなでたむろしていた。
こういう時はあったかい飲み物が飲みたくなるねえ、早くコンビニや自販機復活してくれるといいねえ、なんて話しながら。
すると、遠くから見覚えのある男性が歩いてきた。
遠くからでもわかるぐらいの細身、内股のてちてちした歩き方。
生田さんだ。
私は思わず
「生田さん?!?!!!!」
と大声を出し同僚たちを驚かせてしまった。
生田さんは私の声に気付いたが、なぜか両手に大量の荷物を抱えておりリアクションができない状態だった。
生田さんは
「今そっち行くから!待ってて!」
と言った。
あまりに大荷物で気の毒だったので、私は生田さんの元へと走った。
一体両手に何を抱えているのかと思って見たら、大量のカップラーメンだった。
事情はよくわからないがとりあえず半分ほど持つのを手伝い、私と生田さんはバイト先の前ま歩いた。
生田さんは
「家の近くの薬局が急遽開いて、余ってる食料品の在庫安く売ってくれて…あのこちゃんとバイト先の皆さんにあげようと思って来ました」
と言った。
同僚の1人が
「どうやって来たんですか?」
と聞いたところ
「歩いて来ました…2時間半かかった…へへ…」
と言った。
みんな驚いていた。一部の人は引いていた。
「ありがとうだけど、こんな状況でカップラーメン持ってこなくていいよ…今は生田さん自身と家族の安全が第一なんだから」
と私が言うと、生田さんは
「カップラーメンもだそうだけど、一番はあのこちゃんに会いたかったから」
と言った。
嬉しかったしその場で抱きしめたいぐらいだったが、同僚たちがいる手前恥ずかしくて仕方がなかったので
「やめてよ」
とぶっきらぼうに言った。
同僚たちにキャーキャーいわれて冷やかされた。
結局ハグした。
優しくて愛してくれる生田さんが好きだなあと、改めて思った。
続く
関係ないけど今日は担当の美容師ちゃんと飲んできた。相変わらず彼女とは気が合うし一緒にいて楽しい。来月は髪を切ってもらう。毎月あの子と会えるのが嬉しい。
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