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土団子

僕は、夏休みの自由研究を、生き物観察に決めた。
大好きな先生から「生き物観察キットは面白いよ。」と言われたからだ。


父さんが買ってきてくれた観察キットを開けると、手順書が入っていた。


1. 同封されている土に専用水Aを混ぜ合わせて、土団子にして下さい。
2. 土団子の表面が溶けるまで加熱し、殺菌を行います。
3. 冷やす際に出来る表面の凸凹やひび割れは、そのままにして下さい。
4. 専用水Bを土団子にかけ、表面の70%ぐらいを水で覆います。
5. 定期的に光を当てていると、生き物が生まれます。
6. 希望どおりの生き物が生まれない場合は、2.からやり直して下さい。


手順に従い、僕は土団子を作り上げてゆく。


丸くなった土団子は、宙に浮かび、少し傾いた状態で回転を始めていた。
専用水で満たされた所に光が当たり、蒸発した水分が渦巻くようになり、陸地の部分で雨を降らせ、陸地が緑に覆われ始めた。


最初に生まれた生き物は、首と尻尾の長い形をしており、ただただ、体が大きくなるばかりで、面白みに欠けていた。


そこで、説明書通りに土団子を加熱した。


次に生まれてきた生き物の中に、2本足で立ち上がり、道具を作り始めた生き物が現れた。
僕は、そんな生き物を「HITO」と名付けた。


「HITO」が増えるに従って、緑が減り、水は濁ってきた。
でも、しばらくすると自分たちで作った道具で殺し合いを始め、あっという間に全滅してしまった。


「HITO」がいなくなった土団子は、青々とした植物に覆われたところで賞味期限が切れてしまった。


僕は、説明書どおり「生ゴミ」で廃棄した。

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