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堂所番弐のnote(1) 物語を書くとは

その名の通り「note」ということで、物語を書くに当たって腹落ちしたことをメモ的に記載していきます。

この記事のまとめ

Rebel in the Ryeの映画を見て、学んだことを記載。

1.作品で最も重要なことは「物語」

2.良い作品は、作者の声が作品を楽しませるために使われるが、作者の声自体が作品にはなっていない 

3.出版したい(作家になりたい)よりも、何故書きたいのかが重要

「Rebel in the Rye」のレジュメ

僕が物語を書くに当たって、大きな示唆を貰った作品の一つ。「Rebel in the Rye」のレジュメに沿って、物語を書くこと・作家になることについて、記述していきます。

物語る作者の声とは

この映画は、「ライ麦畑でつかまえて」で有名な、J.D.サリンジャーの伝記的映画です。

主人公であるサリンジャーは、ウィットというコロンビア大学の教授に出会います。ウィットは講義で、以下のように発言します;

There is nothing more sacred than story. The Bible, the Koran, the Tora. The stories contain in these books are so powerful that people actually believe they are written by a God. That is a power story can hold.(物語よりも神聖なものはありません。聖書、コーラン、トーラー(※ユダヤ教の聖典)。いずれも、書かれている物語には力があり、人々は実際にこの物語が神によって書かれていると信じています。これこそが、物語が持つ力なのです)※(英語会話の文字化、およびその日本語訳は堂所番弐による。以下同様)

サリンジャーは授業中、ウィットに対して「聞いていなかった」と答え反抗的な態度を取ります。皮肉を言うサリンジャーに、ウィットは、物語と作者の声(語り・文体)の違いについて、以下の通り講義します;

Mr. Salinger wrote an essay. Very funny. (サリンジャー君が宿題で書いたエッセイ。実に滑稽です)Brimming with the exactly the sort of sarcasm that he so beautifully displayed here in the first 5 minutes of the course.(この講義が始まって5分、まさにここで彼が佳麗に披露したような、皮肉に溢れたエッセイでした。) And yet, after that, Mr Salinger failed to turn that cleaver voice of his into an actual narative.(しかしながら、サリンジャー君は自身の小賢しい「声」を、実際の「語り」に出来ていないのです。) Which is ashamed, because there is some potential there.(これは非常に残念なことです。なぜなら、そこにこそ可能性があるのですから) But this is the work we will all be striving to achieve. (そして、この作家の声を、語りに落とし込む、という作業こそ、皆さんがこの講義を通して達成してもらうものになります)By the end of the semester, you will all understand between wanting to be a writer and actually being one.   (このセメスターの終わりまでには、皆さん全員、「作家になりたいこと」と「実際作家になること」の違いを理解することになります)

サリンジャーは上記ウィットの発言を受けて、個人的にウィットの元を訪れ、以下のように尋ねます。

(サリンジャー)You know my voice overwhelming the story. I want something that my voice but finds me as a writer.(僕の「声」が物語を圧倒していると言っていましたね。僕はその「声」こそが、作家としての僕を呼び起こすものであってほしいと思っています)
(ウィット)Absolutely. your voice is what makes your story unique. (その通りです。君の声こそが、君の物語を唯一たらしめるものです)But when that voice overwhelms the story, (....) then it becomes an expression more of your ego than the emotional experience of the reader.(でもその「声」が物語を圧倒するとき、それは読者の感情的な体験というより、ただ、君自身のエゴの表現になってしまう

ウィットの言葉に、サリンジャーは腹落ちしません。別の日の講義で、ウィットは「作家の声」について取り上げます。以下のフォークナーの一文から、講義開始;

"The jailor cut her down, and then revived her. Then he beat her and whipped her. she had hung herself with her dress"(刑務官は彼女を引きずり下ろし、彼女に蘇生をした。そして刑務官は彼女を叩き、鞭で打った。彼女は自分の洋服で首を吊っていたのだ)

ウィットは、この文章から何が起こっているかを学生たちに問います。学生が「刑務所の女性が自殺を図り、刑務官が女性を救った後、女性をぶちました」と答え、ウィットは講義を続けます;

I read this passage in as duller voice as I can possibly master and yet you are still all engaged by the passage. (私はこの文章を出来る限り抑揚なく単調に読み上げました。それにも関わらず、皆さん全員がこの文章に釘付けになっています。)Why? because the events of the story were compelling, thematically rayered and dramatic.(何故でしょう?それは、この物語の出来事が圧倒的で、主題としても重層的になっており、ドラマチックだからです)
Now of course, Folkner is famous for his voice with his unique regional style (もちろんフォークナーは、彼独特の田舎的な語り口の「声」で有名です)and so therefore even the known writer thinks that they love Folkner. (著名な作家でさえ、フォークナーの作品を大好きだと思う程です)But in fact it is the events of the story, the attempted suicide, the beating and then Folkner uses his voice to make the story uniquely his own.(でも実際、その著名な作家たちが大好きだと思っているのは、フォークナーが紡ぐ物語の出来事なのです。自殺未遂や鞭で打つことなど、フォークナーは自身の声を使って、唯一無二の彼の物語を作っているのです)

ここで初めて、サリンジャーは「自身のエゴの表現」ではなく、「読者の感情的な体験」に繋がる、「作者の声」の使い方という意味を理解します。

ウィットはここで授業を終わり、残りの時間を皆さんの物語を書くも良し、マスターベーションをするでも良し、と言って教室を去ろうとします。教室を出る前、以下の注意事項を生徒たちに伝えました;

Try not to confuse the former with the latter. God knows there is many in author who has failed at the very task.(物語を書くことと、マスターベーションをすることだけは、混同しないで下さい。少なくとも、神は多くの作家が混同してしまっていることをご存知です)

腹落ちしたサリンジャーが作った作品(若者たち)は、ウィットに以下の通り絶賛されます;

Your voice was present and entertaining, helped tell the story, but didn't become it. (君の声は存在していて、読者を楽しませている。物語ることを助けていたけど、「君の声」にはなっていなかった

見返りがなくても、やりたいことか

作品を出版したいサリンジャーは、ストーリーという雑誌の編集長でもあるウィットに相談します。

ウィットからはストーリーに載せることを断られました。代りに沢山作品を書いて、他の雑誌社に持ち込むよう言われます。

言われた通り、沢山作品を書くものの全てが不採用になります。サリンジャーは自分は作家に向いていない、と悩みウィットに相談しに行きます。

そこで、ウィットは何故作家になりたいのかサリンジャーに問います。

サリンジャーの答えを聞き、それこそが必要なことだと助言します。その「答え」を「君の物語にするんだ」(Put that into your story)と。

発言しようとするサリンジャーを制して、ウィットは言います。

(ウィット)You still may never be published. (それでも、君の作品は一生出版されないかもしれないんです)
(サリンジャー)Never? (一生?)(ウィット)Yap(そうです)
(ウィット)You may spend the rest of your life being rejected. Now you have to ask yourself question, "are you willing to devote your life to tell your stories knowing that you may get nothing in return."(君は残りの一生ずっと作品が出版されないまま終わるかもしれません。さてここで、君は自身に問わなければいけません。「本当に、君は一生を賭けて、見返りが何もないと知りながら、物語りを紡ぐことができるか」、と。

沈黙するサリンジャーに、ウィットは畳みかけます。もし君の答えが「ノー」であれば、君の人生で他の仕事を探すことだと。

Because you are not a true writer.(何故なら(答えがノーということならば)、君は真の作家ではないからだ)


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