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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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2021年9月の記事一覧

俺が世界の中心だい。

俺の立っている場所が世界の片隅だとか、そういう類の言い訳はしたくねぇんだ。誰が世界の中心…

死生観。

死と生が両極でないことは周知の事実である。我々はしばしば向こう側、であったり、彼の世、で…

生き延びた河豚。

今日もこの河豚は、最後の一匹まで生き延びた。生簀に拘束されてから、もう二週間になるという…

湯治にて。

何もかにも八方塞がりな気がして、俺は堪らず秘境へ身を潜めた。ちょうど冬が苦しい動物が眠っ…

消えた人面。

「最近さ、顔が見えなくなったと思わない? 」 ライブの直前、ベースは恐る恐る尋ねてきた。…

強欲のメタファー。

まだ開発をしている。誰のために? 一体誰のために? この街は既に飽和している。人も十二分に…

仔羊と謀る。

君の話を聞いているとさ、正直言って腹が立ってくるんだよな。つまり、君は自分に陶酔しているに過ぎないと思うんだ。言い方を選ばなければ、自慰行為をしているのと変わらないということだよ。 僕だって、君に少なからず期待をしているから、こう言っているんだよ。ストレイシープ、ストレイシープと窘める方が簡単さ。でも、それじゃあ君の本質的な解決には繋がらない。 つまりね、君は自分を仔羊と謀っているに過ぎないんだよ。もう立派な羊だと言うのにね。君は縮こまって仔羊ぶって、自分の身に余る命題を

ホワイトハッカー。

「正直言ってさ、この前はヒヤリとしたよ」 友人は我が物顔で、そう言った。友人は、女子高生…

虚業と、自分が歩いている道と。

時々、思うことがある。何事も知りすぎないことが大事なのだろうかと。時々、悲しくなる。人の…

時飛ばし、記憶飛ばし。

時飛ばしの方法はいくつかある。一番容易なものは睡眠だ。睡眠は生理的に行うものだし、チャン…

鼓動。

夜の畦道を歩いていたら、低い音が脈打つように暗がりに広がり始めた。俺は、それを鼓動だと思…

河童の川流し。

河童はよく蛙に化ける。しかし、見分けることはさして難しくない。蛙ならざる動きは、自然から…

鷹になる夢。

僕は空の飛び方を知っていた。それはあまりにも自然なことだったから、特別なことだと気づくの…

車窓の傀儡。

ラッシュアワーであるはずなのに、今朝は不思議と地下鉄に人が少ない。ノストラダムスの大予言でも再来したのだろうか。いつもと同じ時間帯に人がいないだけで、奇妙な装いを呈していると感じるのは、つくづく人間というものが社会的生物であるのだと思う。列車は、発車する。 僕は車窓に流れる景色を眺めていた。しかし、何かがいつもとは違う。僕は、車窓映る自分の虚像ばかりを見ていたのだ。やけに、虚像が濃く見える。まるで実像への道筋を会得したかのように、虚像ははっきりと意志を持って動き始めた。僕は