CASE 4 imai (group_inou) 後編

前編に引き続き、imaiさんのインタビューをお送りします。お楽しみください!


日本モニタリング問題

― imaiさんはミックスって、どうしてます?

imai ミックスは僕結構苦手で……。どうやってやってるかというと、ライブでやる毎に変えてみるんですよ。

― えっ、ライブ中にミックスするんですか。

imai いや、ライブハウスのデカい音で聴いて、帰って来てからまた直すっていう……。それこそ前に王舟くんと盛り上がった話ですけど、「日本モニタリング問題」。家だとデカい音でモニタリングできないっていう(笑)

― はいはい(笑)全員がぶち当たる問題ですね。

imai 特にビートミュージックは、J Dilla ~ James Blake以降、すごい低い音出すじゃないですか。ああいう音程がわからないくらい低いベースとかキックのディケイが長いやつとか、絶対に家で確認ながら作れないし、家でそういう音楽を聴いても、本当の良さはわからない。

― そうですね。

imai Brainfeederから出してる「Iglooghost(イグルーゴースト)」っていう若いトラックメーカーが、来日してクラブでやってたんだけど、もう全然低音が違って、低音の凄さだけで圧倒されちゃうくらい。でもこれはなかなか真似できないというか、やっぱり海外の方が、家がデカかったり、クラブが多かったり、大きな音で聴ける環境があるだろうし、自分は同じようには家で確認ができないんで、毎回ライブで大きい音でやってみて、「あ、あの曲なんかスピード感がなかったのは、キックが過ぎてもたってたからか」とか、帰ってから編集したりする。ちょっとずつミックスを変えて完成させていくって感じですね。

― 海外のそういうところは羨ましいですよね。ライブでミックス直し、面白いな〜。

積み重ねで誕生

― 打ち込みの瞬発力についてお話しましたが、実際にimaiさんが1曲にかける作曲時間ってどれくらいですか?

imai 色々試す分には早いけど、完成は丸一日かかることもあれば、4時間位で一気にという時もあるし、完成して一回寝かせて、スーパーに買い物に行ったり、映画観たりしてる。その後また聴き直して「ここいらいないな」って削ったり。極力シンプルにしたいんで。

― そうなんですね。そうしていく中で、結局うまくまとまらず、何日も一曲に対して時間を割くというか、トライし続けることってありますか?そういうことはない?

imai するのよ、しても意味ないことはわかってるんだけど、時間あるからやるのよ。その間は「この曲どうせ形にならねーのになあ」って思いながらでもやってないと、またその次が降りてこない気がして。結局その曲はこねくり回してもボツになるし、本当は必要ない作業なのかもしれない、もっと度胸があれば、本当に降りてきた瞬間だけを信じて、その瞬間ぱっと仕上げて、それ以外の時間は昼寝してるみたいなのは、一番バッチリなのかもしれないけど、俺は結構貧乏性だから、その間できないとわかっててもやっちゃう(笑)

― それってもう、特訓というか、楽器の練習をするのに近い感じですね。

imai ああ、そうかも。

― そうなると、どこでやめようと思うんですかか?

imai やめようってならないよ。意地でやってるとそういう曲が何個か同時進行でたまるじゃん。するとたまに何か「良いこと」があって、音楽的モチベーションが高い時に、一気に違うものとして完成することもあるし、別の曲を作る時のきっかけになったりもするし。

飽きないようにするために

imai 最近、バンドと打ち込みの人達のライブの違いを考えることが多くて。俺はライブの本数が多いんで、毎回は変えられないんですけど、でもアレンジはなるべく工夫するようにしてて。打ち込みの人は、毎回色々と変えてくるんですよ。なんだったらライブ毎に全曲変えてくるとか。何で変えるかっていうと、生演奏のバンドだと、日によってグルーヴが自然に変わるから何度同じアレンジで演奏してもその時にしか生まれない良さがあるんですけど、打ち込みの場合、そういったグルーヴは生まれにくいので、変えていかないと自分も楽しくないんですよ。

― そういうものなんですね。

imai 最近仲良くしてる「パソコン音楽クラブ」の子達なんか、機材も毎回違うのを持ってくるし、ライブ毎に全然違うアレンジしてくるんですよ。結構なペースでライブやってるのに。単純に彼らがすごいのもあるんですけど、スピード感が違いますね。

バンドって、新しい曲やアレンジを試すのもメンバー全員が集まって、練習しないとできないじゃないですか。もちろん、だからこそ化学反応やバンドマジックが起こるんですけど、打ち込みだったら練習無しで実験的に次々とできるから、素早く新しいアレンジを試せる利点があって。今の打ち込みの若い子達は、そのフットワークの軽さを活かして面白いことやってるなと思います。

― 「パソコン音楽クラブ」の方々って、年齢はいくつくらいなんです?

imai 20代前半かな。でもそのシーンにはもっと若い子も登場してきてる。それに今の子達は、最初から音楽に経済的なこととかの過大な期待をしてないから、とにかくやばい曲を作ることしか考えてない人が多い。音楽の話ばっかしてるし、仕事や学校に行ってから、寝ないでライブの準備したりしてる。俺はもう、「羨ましいなあ」って思った。何年も「うまくいかないなあ」ってウジウジやってたし、音楽が仕事になってからは音楽を作ること以外の余計なことも考えてた。当時の自分は必死でやってたから、そんなこと今更悔やんでもしょうがないし、今の若い子達もこの先どうなっていくかわからないから比べるもんじゃないんですけど。

― ほんと、どのジャンルも才能ある若い子達が次々登場してますね。一人きりでも凝った音楽ができるようになった、時代のお陰もあるでしょうね。ソロになってからですか?imaiさんがアレンジを工夫しようと思い始めたのは。

imai group_inouをやっていた頃は、打ち込みだけどパンクミュージックみたいで良いっていうか、毎回同じ構成でもいいのよ。「俺の好きな俺のこういう感じ」があって、自分がワクワクする形でアウトプットできていれば、別に複雑な構成にする必要はあんまり無くて。でも13年もやってると、ようやくそのスタイルには飽きてきて(笑)

― おお。

imai 特にgroup_inouの時は、cpのボーカルのお陰で個性的な楽曲になってたし。ソロになってから「ちょっと変なリズムの曲もやってみたいなあ」とか、曲ごとに変化をつけたいと思い始めましたね。それから今までの作り方では全く満足しなくなって、歌の代わりになるような癖のある要素を何か取り入れたいと思って。バーッと機材を買って一台一台試していって、しっくりくるのを探したりした。

― 確かに。歌が乗る前提で作るのとはまた違いますもんね。cpさんに代わる機材かあ……。

imai ソロ始めた頃は、本当に狂ったようにシンセを買いまくってた。週一くらいで新しいシンセを買って試してて(笑)ある先輩に「機材は気になったらまじで全部買ったほうが良い。買って合わなかったら売ればいい」って言われて、それ聞いた時に「確かに人生そんなに長いわけじゃないし、今まで一個の機材で13年やってたんだよな」って思ったら、ここから先はバンバン試そうと思って、結構買いまくった。

― 「全部買ったほうがいい」ってすごいですね(笑)でも機材って確かに、実際に使ってみないとわからないことの方が多いですもんね。レビューが豊富だったとしても。その、バーッと買って試した機材の中で、今活躍している機材ってあります?気に入ってるものとか。

imai やっぱり『Roland TB-03』。 いわゆるアシッドベースの名機で、触っていみたいけど何十万もするしって思ってたら復刻版が出て、しかもUSBでPCと繋いで同期できる。そういう便利さもある形で発売されたから買いました。3年くらい前かな?今自分がライブでやる曲には、ほぼ『Roland TB-03』の音が入ってます。

― ほー、『Roland TB-03』ですかー!復刻版ってちょっと便利になって再登場したりするから良いですよね。色々機材を買った今、『ELECTRIBE』はまだ使ってます?

imai 『ES-1』と『EM-1』を持ってるけど、『EM-1』の方は使わなくなちゃって、ほとんど新しく買ったシンセだったりとかを使ってるかな。

― サンプラーよりは、シンセで作ってくほうが自分にあってる感じですか?

imai そうですね。でもサンプリングしてますよ!フレーズとかはサンプリングせずシンセを使いますけど。ソロになってから新しく始めたことの一つにブレイクビーツを使い始めたってのがあって。それまではドラムマシンの音のみ、一切サンプル音源は使ってなかったんですよ。だけど今はそれも使ってます。でも独特な機材な使い方が自分の曲っぽさだったりしたから、それをやめて使わなくなったらどうなるのかな?って考えてた...だから最初はだましだまし今までの『ELECTRIBE』のシンセで作った曲に最後のワントラックだけ『Roland TB-03』の音を入れてみたりとかして、そんな使い方だったんだけど、「あれ、意外といけるな?」って思って(笑)今では『ELECTRIBE』のシンセの音を使わなくても良くも悪くも「まあ自分ぽくなるな」みたいな。

― 新しい機材を使うようになって、一台の機材でも使いこなすのに時間かかって大変じゃないですか?

imai でも今までは1台の機材を13年間使い倒してたのよ?ずっと同じガム噛んでるみたいな(笑)

― 達人の域ですよね。

imai ゆっくり噛むことによって保たせるっていう感覚がどっかにあったけど、今はガンガン新しい人達と出会うようになって、ライブも色んな場所に呼んでもらえるようになって、新陳代謝がめちゃくちゃ早いのよ。だから機材も、色々取り入れたい。ソロになって急激にスピードが加速した感じ。

― なるほど。

機材の「読めなさ」

imai さっき話した『Roland TB-03』とか、実は「打ち込みにくい」って言われてるんですよ。今のシンセってかなり便利になってるから、直感的に自分が思い付いたフレーズを弾けるようになってるんだけど、『Roland TB-03』って結構面倒臭い入力方式で、今の機材だったら簡単にできそうなフレーズも、いちいちこっちのボタン押しながらこっちを押して〜とかしないといけなかったりしてさ。だから思ったようにいかないことも多くて、結果的に想像してなかったフレーズになったりするのね。

― え〜、そうなんですね。それって大変じゃないんですか?

imai もしもバンドをやってたら、誰かメンバーが「こんなフレーズ持ってきたぞ」とか、「想定外のこと」「不確定要素」みたいなものが起こり得るけど、俺の場合メンバーがいない分、「読めなさ」みたいなものを機材に求めてるところがある。

― (笑)へーそんな、めちゃめちゃ面白いですね。想定外のことかー。

imai だから打ち込みの人は意外と、手癖とか言われるようなものの逆を求めてて、なるべく自分が推測できないものを入れたいって思う。そういう要素は、一曲の中に一個くらいあった方が飽きないです。使いながら「あ、機材を使うっていうのはこういうことなのかもな」って思い始めて、またどんどん楽しくなった。

― 「使いにくいのも悪くないかも」みたいな?

imai うん。まあ、そもそも『ELECTRIBE』も一般的には便利な機材ではないから、『Roland TB-03』もしっくりきたのかもしれない。

機械?楽器?

― 「機械が正しい」「機械は正確で当たり前なんだ」と思いがちというか、だからこそ億劫になる人もいますよね。「何で正しい手順踏んだのにエラーが出るの!?」とか。でもむしろ機械にも読めないこととか偶然があるんだって、imaiさんはいつ頃思いました?やっぱり『ELECTRIBE』 を長年使ってるうちに感じてました?

imai あんまり『ELECTRIBE』のことを「機械」とは思ってなかったですね。ギタリストがギターを選ぶのと同じで、「俺はこの"楽器"でやります」と思って『ELECTRIBE』 を選んで音楽を作ってました。だから「機械なのに正確じゃない」とも、何とも思わず使ってましたね。最近ですよ、想定外のことが起きるのが良いんだって意識的に思ったのは。自分は、ハードコアバンドとブッキングされることもあるし、クラブにも出る、弾き語りの人とやることもあるし、有り難いことに色々な環境で音楽をやることがあるから、その分考える機会も多くなって。「テクノのライブってなんぞや?」とか「バンドのライブとはなんぞや?」とか「それは何が違うのか」ってことをよく仲間と話してて。その中で気づいたことかもしれませんね。

使いやすくて正確な機材って、正確だからこそ思ったものができても飽きやすい傾向にあるんですよ。ジャストで打ってくる機材の「正確さ=つまらなさ」を「面白さ」にひっくり返えすには、こちら側が早い感覚で回していかないといけない。機材に対して人間がどういうリアクションを取るかだと思ってます。だからそういう機材は、その特性をわかった上で使いこなせたら、活かせるんだなと思います。

お礼がしたいです

― 勉強する時は、どうやって勉強してますか?やっぱり触りながら覚えていく感じ?を使ってるそうですが、いつから?

imai 例えば、ソロになってから『Ableton Live』に変えて。前に使ってた『Sonar』のバージョンが古すぎたから、いちいちポチポチやってたようなことが『Ableton Live』に変えて「全部やらなくて良いじゃん!」ってなって、めっちゃ便利なんですけどわからないことも多いから、チュートリアルとか、誰かが書いた操作に関する記事を全部ブックマークしてる。一回それが全部ぶっ飛んだことがあって、パニックになりました(笑)

― (笑)それを頼りに作りながら機能もその都度勉強してるって感じですか?

imai そう。ネットで良いチュートリアルを作ってる人にはもう本当にお世話になってるから。何か物を送りたい(笑)




imai  group_inouのTRACK担当。2017より本格的にソロ活動を開始。クラブからライブハウスまで、これまで以上に活動の幅を広げる。『FUJIROCK FESTIVAL』『BAYCAMP』『森、道、市場』『ボロフェスタ』『全感覚祭』等の大型イベントにも出演。橋本麦が手掛けた「Fly feat.79,中村佳穂」のMVはVimeoのStaff Picksに選出、新千歳空港国際アニメーション映画祭の観客賞を受賞、香港のifva awardsで特別賞を受賞するなど、世界中で話題となっている。https://eveningtracks.tumblr.com


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