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先入観というモヤが晴れ、見えてきた「人工知能」の姿

まず一言。
なんで買ったあの時に読まなかったのか・・

そして、もう一言。
すでに2年経ってしまったけれど、それでも今読めて本当によかった。

 

誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性

 

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※書籍本文からの引用部分は

引用です〔p.100〕

のように表記します。
書籍以外からの引用部分は、ページ数の代わりに引用元を明示します。

※人工知能開発は刻一刻と進化を続ける分野であり、紹介する内容と現時点の状況は異なる可能性があります。

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膨れ上がる人工知能の ‘イメージ’ に私たちは侵食されている

この本を読んで強く実感したのは、『人工知能』や『AI』といった言葉が、想像よりも数倍~十倍以上も一人歩きしていることだ。

 

何年以内にAIによって大方の仕事が駆逐される
人間は生活のすべてをAIに管理されるようになる
      :
      :

雑誌や映画、様々な媒体でセンセーショナルに扱われていることは、なんとなく理解しているつもりだったが、どうやらその程度では済まないようなのだ。

一方的な不安や夢物語しか生まない誇大表現は、間違いなく人工知能の理解・活用と前向きな議論への「弊害」となっている。

 

この本では、人工知能に関するコンテンツが巷に溢れているにも関わらず、

人工知能って結局何なの?〔p.5〕

が明快にならない理由として、コンテンツの内容が次のAもしくはBのタイプに偏っていることを挙げている。

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A:人工知能のプログラミング経験のない、コンサルティング界隈の人が書いたもの。
非常に分かりやすいが、抽象論や実現可能性の低い話を書いていたりする。

B:実際に人工知能開発している専門家が書いた、いわゆる「技術書」。素人には非常に難解。
ーーーーー

 

そして、それらの二の舞にならないためのアプローチとして、
人工知能開発やビジネス経験の豊富な田中さんと、
データサイエンスの仕事をしており分析結果を分かりやすく説明することが得意な松本さんが、
タッグを組み本の形に仕上げたそうだ。

 

「人工知能とは何か?」が自分の中でハッキリしてきた

今まで私は、人工知能によって何ができるか?何が起こるか?という話は聞いたことはあっても、
そもそも人工知能とは何か?という話を耳にすることはなかった。

 

驚くべきことに、人工知能に明確な定義はないらしい。

実のところ、人工知能学会ですら人工知能について正確に定義できていません。〔p.24〕

 

人工知能学会のサイトを実際に見てみると、

人工知能の専門家の間でも,大きな議論があり,それだけで1 冊の本となってしまうほど,見解の異なるものである.そのような中で,共通する部分を引き出して,一言でまとめると,「人間と同じ知的作業をする機械を工学的に実現する技術」といえるだろう.
〔引用元:【記事更新】教養知識としてのAI 〔第1回〕AIってなに?

 

このように説明がある。

本の中でも丁寧に解説はされているが、人工知能学会の説明も分かりやすい。

 

さらに知った内容をまとめると、以下のようになりそうだ。

⚫️人工知能開発では、人間の脳を参考にしたりしながら知能を作り出してはいるが、それは人間自体や人間の脳の模倣・再現を目指すものではない

⚫️「人工知能」の定義に揺らぎがあるのと同様、これまでの人工知能ブームで代表的に使われてきた開発手法は、それぞれ異なっている
(今現在は、第3次人工知能ブームだそうです)

 

注目すべきは「ディープラーニング」

本の序盤で、田中さんは

2018年現時点で人工知能とは「ディープラーニング」そのものです〔p.26〕

と言い切っており、

機械学習と呼ばれるアルゴリズムの体系の1つの分野です〔p.57〕

と説明するディープラーニングを基軸として、本の内容も整理されている。

 

第1章では、ディープラーニングについて具体例を交えながら、既存手法との違い、メリット&デメリット、どんなことができるかが噛み砕いて説明されており、興味深い内容となっている。

 

今後の人工知能の導入と浸透

第2章では、人工知能の進化と社会への浸透が、具体的な年代とともに解説されている。

巷に溢れる「○年以内に仕事が全部人工知能で代替される?!」といったような衝撃的な予測は、跡形もなく打ち壊され、非常に冷静で具体的な視点が得られるので、とても楽しく必読の内容だ。

 

世間一般のイメージと実際の人工知能のギャップ、
人工知能が浸透しやすいであろう分野とそうでない分野、
技術があることとそれを実用化することは別物であるという話、
などなど様々な内容が書かれている。

私が仕事で関わっているサービスで使われている、「チャットボット」についても言及があった。

 

印象深かったのは、事務作業の攻略が意外と難しいという話だ。

電話応対や議事録作成、スケジューリング、、

気を利かせないといけない作業やイレギュラー対応が多い部分は、容易に人工知能では置換できないというのだ。
特定の作業にのみ特化するなら可能だが、それ以上になるとまだまだ先の話になるとのこと。

 

この辺りは、前述の人工知能学会のサイトにも簡単な説明があるが、

特化型人工知能 ⇔ 汎用人工知能
強い人工知能 ⇔ 弱い人工知能

の特徴分けを理解する必要がありそうだ。

 

日本が全然食い込めていないという現実

田中さんは、人工知能の開発にとってはデータが非常に重要で、その点に気づいている企業は、スマートスピーカーの製造・販売等を通してすでにデータ収集を始めている、と語る。

 

そして、日本では開発面においてもビジネス面においても、人工知能を理解した人材が不足している事実とともに、

日本は人工知能の開発、ディープラーニングの活用で米国や中国に周回遅れの状況〔p.176〕

とバッサリ・・・

でも、まずはこの現状をしっかり受け止めないといけないのだろう。

 

人工知能を通して人間や生きることを見つめる

最後の章は、人工知能と私たち、これからの社会について、幅を広げて語られている。

人工知能が浸透した社会で残る仕事、労働そのものの意味の変容、ベーシックインカム、社会で何が重視されていくか、、

 

興味深かったのは、人工知能が人間の知能を上回ることに対する、根強い抵抗感への疑問を投げ掛けていることだった。

結局、「人間は知能が全てなのか?」という素朴な疑問に対して、みんな目を背けすぎです。知能が高ければ人間は幸せなのか?賢ければ人間は幸せなのか?そんなことないですよね。〔p.226〕
人工知能が浸透してあらゆる仕事を奪ったとしても、あなたの人生までもが奪われるわけではありません。もっとあなたを表現してください。〔p.254〕

 

このように哲学的な内容も交えつつ、人工知能のある社会で生きることを様々な観点から捉えて説明しており、技術の話ばかりしていてもいけないということを気づかせてくれる。

最後まで読んで、人工知能について適切な知見を得られたとともに、
技術的なことからビジネスの話、人間とは何か?まで語る田中さんは、なかなかにバランス感覚の優れた人なのであろうと感じさせられた。

 

まあ一冊本を読んだくらいで全部分かった気になっちゃいけませんが、とにかく自分にとって貴重な経験になりました。

 

2020/02/11 最終更新

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