見出し画像

【読書感想文】原田マハ 常設展示室

※盛大なネタバレあり

・最近本を読むことからすっかり遠ざかっていた。就活時には出版社を一通り受けたものの、ご縁がなく、そのまま読書からも遠ざかってしまった。

・以前読んだ原田マハの『モダン』がとても面白かったので、今回は『常設展示室』を読了。構成は『モダン』と似ているので、さくさく読めた。アプローチの違いとしては、今回の『常設展示室』は登場人物の人生・価値観を大きく動かした絵画が印象的に登場する。(『モダン』はどちらかというとMOMAでの働き方がメインテーマなように感じた)

・6編の短編で構成されているので、一編ずつ感想を。

① 群青
 登場する絵画:パブロ・ピカソ《盲人の食事》
・主人公の美青(みさお)は、メトロポリタン美術館の教育部門で働く女性。上流階級の同僚に囲まれやや肩身の狭い思いをしながらも仕事に邁進している。気さくな花形キュレーターのアーノルドとの仕事を楽しみにしながらも、病の進行により近々失明するという悲劇に見舞われる。
通勤までの描写がカッコよくてNYへの憧れが募る。いつか行きたいな…。
アーノルドとの仕事内容は、障がいのある子どもにアートを体感してもらうワークショップのこと。ピカソが盲人の食事を描いた気持ちについて、子ども達が口々に(盲人に)元気になってほしいから、美味しいものを食べてほしいから、と励ましの気持ちだと捉えていたのが素敵だった。私はこの絵についてはパッと見、薄暗い背景の中、質素な食事をしている彼を悲劇的に描いているようにしか見えなかった。資本主義が染み付いた嫌な発想だ。でも大人はこの見方をする人が大半だろう。
私はドキュメンタリーや物語の悲劇に、かわいそうだ、の消費をしてしまいがちだが、その先のハッピーエンドを見据えていきたい。

② デルフトの眺望
 登場する絵画:ヨハネス・フェルメール《デルフトの眺望》
・現代アートを扱う大手ギャラリーでディレクターとして世界を飛び回るなづき。職を転々としてアルバイトに落ち着いた8つ下の弟に父の介護を任せて関与していなかったが、父の病状が思わしくない上、入居する老人を軽い認知があるからとペットのように縛る施設を目の当たりにしてから、仕事の傍ら父の終の住処となる介護施設探しに奔走し、家族との距離を縮めていく話。
やっと見つけた父の最後にふさわしい『あじさいの家』の部屋から見えるどこか懐かしい風景と、ロッテルダムの美術館で見かけた『デルフトの眺望』に同じ窓を感じるなづきの気持ちは少しわかる。
ヨーロッパの小麦畑の絵画が、祖父母の住む田舎の秋の稲刈り前の風景と重なったりするのは私も経験済みだ。みんな割と同じようなものを見てるし、印象に残る風景も被るんやなあ…。

③ マドンナ
 登場する絵画:ラファエロ・サンツィオ《大広の聖母》
・太陽画廊でディレクターとして世界を飛び回るあおいと1人暮らしの母の物語。先ほどの話と異なり、今回は母が割としっかりしており、母娘の関係性も良い(先ほどの話は関係性が悪いというよりは希薄)。ああ、やっぱりお母さんっていいよなあ、私も早く帰省して母に会いたいなあと思いながら読了。美術に造詣のない母がオフィスに出処もよくわからないまま飾っていた『大広の聖母』。
私も美術に造詣がないので、なんかわからない絵画いいなあってよく思う。サイゼリヤの壁にある天使の絵とか好きだったけど、最近サイゼリヤの店内はどこもおしゃれにリニューアルされてあの絵を見なくなったのが悲しい。自身の仕事の忙しさで母のハーモニカを直してほしいという些細なお願いを蔑ろにしてあおいはとても後悔するのだが、私も歳を重ねていく両親との話やお願いはすぐに対応していこうと心に誓った。

④ 薔薇色の人生
 登場する絵画:フィンセント・ファン・ゴッホ《ばら》
・バツイチ子なしで1人地方の役所のパスポート申請窓口で派遣として働く多恵子。代わり映えのない、本人曰く井の中の蛙の毎日だったが、ある日窓口に異質な雰囲気を纏う年上の男性が現れ、1週間後一晩を過ごすというお話。結果男性は、朝起きたらいないというパターンなのだが、多恵子がこのイベントを通して成長的な何かをしているのを感じる。
知り合い以上恋愛未満の期間にジェルネイルに行く多恵子かわいい。私もジェルネイルの動機付けになる男性現れてくれ。お待ち申す。
男性の正体も言動も終始ふわっとしている(多恵子視点)のだが、役所に飾ってある色紙に書いてあるラヴィアンローズ(薔薇色の人生)に気づいた男性が多恵子にゴッホ展のチケットを渡し、後日多恵子が美術館に向かうとゴッホの『ばら』に出会う流れがお洒落すぎた。韓国のガールズグループIZ*ONEのデビュー曲の名前はラヴィアンローズ。優美で素敵な曲なのでおすすめです(関係ない話をカットイン)。

⑤ 豪奢
 登場する絵画:アンリ・マティス《豪奢Ⅰ》
・ギャラリーで働いていた最中に出会った仮想通貨系成り上がり成金の愛人になり退社した24歳の紗季。仕事を辞めて青山タワマンの最上階の愛人部屋に通いながら与えられた金銭で生活してハイブランドに身を包む自分に疑問を抱きつつも、いつか私が1番に…的な思想をふんわりと抱いていたが、喧嘩別れし、置いて行かれた(正確には後から行くからと言っていた男はパリに来なかった)フランスでマティスの豪奢Ⅰを見て、描かれている女性達の堂々とした佇まいに奮い立ち立ち直る物語。美術館に置いて行ったミンクのコート私にください…。
原田マハ小説の横文字は、画家の名前・作品の名前・海外の土地や美術館の名前しか基本ないので、紗季の出立ち説明描写にハイブラ横文字がたくさん出てきて個人的に面白かった。
ワンピースはクロエ、ジャケットはセリーヌ、バッグはエルメス、パンプスはシャネル、時計はカルティエ。成金の男が好みそうな感じである。
投資目的で、近々宇宙旅行に行くあの人よろしく絵画を買い漁る彼に苦言を呈したことで関係は終わるのだが、その辺りでアート市場が成り立っているのを理解してわざと書いてあるのずるいな〜。
インスタでよく見る怪しい美容外科の院内、現代アート飾りがち。

⑥ 道
 登場する絵画:東山魁夷《道》
・幼い頃養子に出されて兄と引き裂かれた翠は、お金持ちの養父養母のもと海外生活含め何不自由ない生活を送り、美術評論家として不動の地位を確立した美しい女性。ちなみに翠はこの物語の主人公達の中で唯一の既婚者だが、会社経営の夫とは適度にいい感じに距離があるらしい。
ある美術展の最終候補作で唯一ピンときた、画用紙に描かれた飾り気のない一本の道だけがある水彩画の製作者を辿った結果は生き別れの兄だった(貧しい生活を送り、闘病の末、翠が訪れる少し前に亡くなっていた)。東山魁夷の作品どこに出てくるのかな?っと思ったら主人公の兄の作品となっている大胆不敵な構成。
1人残されていた兄の娘に、これから一緒にこの道をいこうと声をかける直前で物語は終わる。翠と兄の娘さんがこれから一緒に幸せに過ごせるといいな。

・美術館にも行きたいし、今後はもっと本を読もうと思いました。感想書いたら疲れちゃった。以上!

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?