タロットカード即興劇 VRC(ましろ小劇場) R6.04.28 21時
ネタバレあり。
メタバースプラットフォーム「VR chat」で行われたタロットカードを使用した即興劇。VR空間でインプロショーを定期公演している「白紙座」の劇場ワールドである「ましろ小劇場」にて公演。約25分。
これから下記に記す内容の流れは即興劇の特性上、終演後に明らかになったことである。観劇前にわかっている事は、タロットカードを使用する、公演概要のみだ。
小心者の探偵が失った鍵を探すように依頼を受ける。依頼者が小言や不審な情報を伴いながら同行し、それに辟易する探偵。途中、見てはいけないモノを発見する。告発しようとするが、妨げようとする依頼者。それに対してとうとう感情が爆発するが・・・。喜劇的で振り回される滑稽さが濃く出ていた内容。
台本が存在しない、とはなっているがシーン構成や演出には目を引くものがある。5つのシーンがあるのだが、2つは幕間としてタロットカードを引くシーンだ。
こちらの演出が興味を引く。本筋である「探偵と依頼者」のシーンは舞台上に何も道具類がない、いわゆる素舞台として進んでいく。
対して幕間の「占い」のシーンは足元にスモークが漂い、暗い舞台場面に転換。舞台背景としてスクリーンが標示され、引いたタロットカードがリアルタイムで映し出される。運という不可思議なモノの雰囲気が漂う。
大きい帽子を被ったミステリアスな雰囲気をまとった占い師が、前のシーンのインプレッションを述べつつタロットカードを引き、占い的な意味を説明し後のシーンの展開を発表する。シンプルに観れば、「お題」の発表ではある。だが、本筋とは別の空間として扱われ、なおかつこれもまた即興演劇として組み込まれているため、お題やテーマの発表というよりは、より劇展開の予告や予言という印象。今後の流れを観客に期待感を持たせ、予測させる面白さがある。
前のシーンを簡易的にインプレッションとして内容をまとめ、その後を予告するのは、コンセプトのタロットカード占いを際立てて観せる。観客の集中を切らすことなくシーンを繋いでいく様は実に心地が良かった。
また、スタッフワーク・オペレーションも「即興」との事。今回はそこまで強い印象ではない。
しかしながら、舞台上には存在はしないのにも関わらず、舞台の外側にいる劇内にいる別のキャラクターというものがあるのではないのか。つまり、舞台の上にはいない、しかし確かに存在を感じるキャラクター。「神」という存在、もしくは舞台とは直接関係のないキャラクターが何かを介入していくのではないかという想像。見えないのに自立した存在があるかもと認識しただけでも、この劇にスリリングさに妙に拍車をかけられた。
ミステリアスな運という占い、素舞台としての現実、そして、いずれのシーンでも見えない外・他者の存在。
見方を少し変えれば。気まぐれな介入をするかもしれない他者の存在、運という合理的ではない存在、現実という人の関わりを中心とした縛りの存在。
この三要素のもたらす「影響」は、この舞台がとても日常に近いリアリティのある不条理・理不尽がある。即興劇という形式、リアルタイムに作られていく物語とも合致して、日常の相対としても意識して観ることもできて。
本筋の小心者の探偵が色々なものに振り回され、最終的にどうなったかという当然の結果からの、少し意外な結末。それは大騒ぎするような雰囲気ではなく、どこか静かな印象がある中でテンポ良く話が進む。そこには上記の三要素の中でもがく、人のおかしさと滑稽さ、悲哀のようなものが日常として近くに感じられる。そんな芝居だった。
短い時間ながら、興味を引く演出と話であった。初回ということもあり、洗練された印象はまだ受けない。が、磨いていけば魅力的な面や面白さが引き出されていくと強く思う。次がもしも、あるのであれば是非とも観たい。
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