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小説❤︎春風に仕事忘るる恋天使 第九話

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 俺の提案とは、やはり人間界の技術を使うことだった。最近はAI技術が発展してきている。特に機械学習による最適マッチングなどは得意領域だ。天使演算能力に匹敵するシステムを構築できるかもしれない。
 でも問題がある。天使データセンターの情報処理専門天使の念話と、人間界のインターネット回線を繋がないとデータのやり取りができない。そのために、念話とインターネット回線をつなぐ技術をもった会社を買収することを提案したのだが、問題は時間だ。M&Aとなると、通常は早くても半年から一年以上かけて交渉し契約する必要がある。そんな大きなプロジェクトの推進を、派遣の俺が指示されるとは考えてもいなかった。

「さすがに、今年の卒業シーズンに間に合うとは思えませんよ」
「わかっている。だから、君にもう一つのスペシャル神通力アイテムを授けよう」
「もう一つの、神通力アイテム?」

 もう一つの、という形容詞をつけてくれたおかげで思い出した。そういえば以前似たようなものをもらったな。俺は慌ててポケットを探る。よかった、ラファエルからもらった透視能力が使える羽根はまだ二本とも右のポケットの中に納まっている。

「これを使え」

 ラファエルはピンクの羽根を一本取りだした。

「これは……ラファエル部長のですか?」
「ばか。俺がこんな乙女色の羽根を生やしているわけないだろう」

 たしかにね。似合わない。全然似合わない。

「ミカエルCEOの神通力を授かったのだ」
「ミカエル……CEOの?」
「ああ。その効果は、交渉と時の部屋、といわれている」
「交渉と……時の部屋?」

 俺はハニエルと目を合わせる。ハニエルも知らないという風に両手を広げる。そりゃそうだ。CEOの神通力の羽根など希少すぎて見たことある社員などほぼいないはずだ。

「まあ、簡単に言うと、交渉部屋を作り出す能力だ。もちろんただの部屋ではない。時間の流れが三百六十五倍速い異空間の部屋が用意される。その部屋で一年交渉しても実際には一日しか費やさない。つまり、十分卒業時期に間に合わせることができるということさ」

 確かに……そんなすごい神通力があるなら、なんとかなるかもしれない。

「けど、なんで俺が交渉担当なんですか?」
「そりゃ給料が安いからだ」
「は?」
「一日で一年分の給料を払わなければいけないんだ。そんなところに正社員の天使をあてたら恋愛部の予算が吹っ飛んでしまう。君たちの給料ならなんとかなる。それだけだ」
「……」

 なるほど、期待とか適正とかではなくてあくまで予算問題なのね。なんだか馬鹿らしくなってきた。とはいえ、なんだかんだとブラック企業だけどこういうときの給与はしっかり一年分払ってくれるのね。
 だったら、もうどうでもいいや。俺はラファエルからピンクの羽根を奪い取る。

「わかりましたよ。で、買収予算は?」
「今期は人間界の買収予算は五十億円しか取っていないから、それでなんとかするように」
「無理ですね。百億まで認めてください」
「何を言っているんだ。予算の倍だぞ、そんなの……」

 俺はラファエルの反論を途中で抑える。

「無理なら天使社員にやらせればいいじゃないですか。俺は降りますよ」
「この……好き勝手言いやがって。ミカエルCEOに計画外予算を認めてもらう必要があるということ、わかって言ってるんだろうな」

 しめた。これは何とかできるという意思表示だろう。この機を逃さずに持ち上げるしかない。

「さすがラファエル部長、よっ、大天使」
「……ああ、もういいから、さっさと行ってこい」
「はーい。行ってきます」
「ああ、頼んだぞ」

 そして俺はこのやり取りをオロオロ見守っていた美香に視線を向ける。

「じゃ、行こうか」
「は、は、はい……で、でも、一体、どんな会社を買収するつもりですか?」

 そうか。美香には言ってなかったかもな。
 天界の念波を感じ取り、それを人間界の電気信号に変換して、インターネット回線にデータとしてつなぎこむことができる業種が一つだけある。俺は、その業界の中で最も大手の会社に買収をかけようと考えている。

「買収対象はね。オンライン水晶占いの会社だよ」


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