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産業革命とデザイン史の幕開け


「"社会のためのクリエイティブ"から始まったデザイン」

デザインの歴史を改めて学び始めようとしたとき、様々な文献・情報において"160年ほど前のイギリス"が舞台として挙がることが多く見られました。
そして、アートではなくデザインという様式・文化が、この時点この土地で大きく発展したことに関して、その時代背景についてはすぐに納得ができるものでありました。
それは多くの方が世界史教育の中で必ず目にすることになるだろう、イギリスで起きた『産業革命』と、その革命後の社会で生まれた『アーツ・アンド・クラフツ運動』が、今日のデザインの歴史の端緒となっていたからです。

産業革命によって工場生産品が大量に世の中に出回り始めたころ、モダンデザインの父と呼ばれたウィリアムモリスによって、
「生活に必要なものこそ美しくあるべき」
という信念のもと、この『アーツ・アンド・クラフツ運動』が提唱されました。
端的に、大量生産大量消費へのアンチテーゼと、手仕事へのリスペクトが表された活動だとされています。

私がこのデザインの起源とモリスの思想について読み直した時に、直感的感じたのは、今のデザインの潮流とのシンパシーでした。

それはここ数年で世の中に台頭してきた『ソーシャルデザイン』という、社会をよりよくするためのデザインという概念が、かつてモリスの提唱した芸術と生活の統一による豊かな暮らし、という思想と重なって見えるからです。

ただし、モリスが制作した作品群は高価なものが多く、それはブルジョワジー階層だけが愉しめる高級品のようなものとなり、一般大衆には広まりにくかったそうです。
それでも、モリスのその思想はヨーロッパ・アメリカへと伝播し、様々なクリエイターに影響を与え、近代デザインの大きな流れが始まったことは間違いありません。

そこで、いま僕が深掘りしておきたいと考えているのは、モリスが『芸術と生活を統一させるべし』という思想に行き着いた時代背景、産業革命、それはどんな風に人々の暮らし、社会に風景を変えたのか、というディテイールです。
当時のモリスの抱いた、デザインへの想いに、少しでも近づいてみたいと思います。

資本主義への反体制の中で生まれたウィリアム・モリス

ウィリアム・モリスが生まれたのは1830年代のイギリス・ロンドン郊外の町。
すでに産業革命後期と呼ばれるその時代において、工業の機械化と効率化は進み、社会をブルジョワジー(資本家)とプロレタリアート(労働者)に分断し、格差社会が広がっていました。
その中で、反体制として社会主義・共産主義、そして資本論で有名な哲学者カール・マルクスも台頭していきます。
ウィリアム・モリスもまた、労働階級の不当な雇用問題や教育・福祉の社会問題を強く意識し、自身もマルクス主義者であったと言われています。
そんな資本主義に対する反体制が勢力を増す中で、当時失われつつあった『中世の暮らし』に憧れを抱く形で、モリスは自身の活動を始めていきます。

モリスの憧れた中世の暮らし

資本主義・産業革命によって、世の中から手仕事が失われ、職人は次々とプロレタリアート(労働者)となっていったわけですが、その時代以前の中世においての手仕事とはどのようなものであったのでしょうか。
そこには家内制手工業、労働と暮らしの一体感が存在していたようです。
そして人々は、『モノを作る労働に喜びを感じながら生きていた』という時代背景に関するいくつかの記述も見かけることができました。

そんな時代において、資本主義に異議を唱えたマルクス主義者でもあったいうモリスが、前時代の中世での、『喜びを感じる労働と手仕事』に魅力を感じたことは、現代人の私たちも共感できることだと思っています。
それは現代においても、大量生産大量消費や資本と労働の問題は連綿と続いていて、その対比・理想の暮らし方としての『手仕事』は、様々に人々の心を豊かにする、もしくは豊かさを考える起点となっているからです。

アーツアンドクラフツの思想と現代のデザイン

失われてゆく手仕事の喜びを取り戻すべく、前時代への憧れとともに、アーツアンドクラフツの思想を膨らませていったモリス。
それは現代のポスト資本主義や脱成長コミュニズムをはじめ、ローカルコミュニティに社会課題の解決を臨む世の中の動きと、そのアクションを支えるようにあらわれたソーシャルデザインという概念に、時代を超えて繋がる想いを感じます。

デザイン史の幕開けから約160年。

デザインは時代に希求され、次なるステージに上がろうとしているのではないでしょうか。



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