見出し画像

宿の無くなった宿場町で暮らす

昨年2019年の7月に、僕は妻と共に15年以上暮らしていた京都から、滋賀県に移住した。
その移住先は、「石部宿(いしべしゅく)」という東海道五十三次の"宿場町"だ。
東海道五十三次の風景は、歌川広重の浮世絵などでみなさんも一度は目にしたがあるとは思う。
そして"宿場町"というのは、その名の通り旅人達の宿の機能を果たしていた街道沿いの町々のこと。

中でも石部宿は、「京立ち石部泊まり」と言って、京都を出発した旅人が1日かけて辿り着く最初の宿場町ということで、江戸へ向かう旅人(大名や武士、飛脚など)で賑わっていたようだ。

画像1


大名や幕府役人だけが泊まれる本陣
本陣に宿泊している主人の付人などが泊まる脇本陣
そのほかの旅人たちが止まっていた旅籠

それら全て合わせると石部宿には約450軒以上の宿屋が1.6キロメートルの街道沿いに建ち並んでいたという。

京都でゲストハウスの乱立が問題視されている近年だが、密度で言えば江戸時代の石部も中々のものだと思う。旅人を迎え入れる町の成り立ちとして宿場町は参考になるかもしれない。いずれ掘り下げてみよう。

さて、そんな石部宿だけど、今は宿はおろかお店もほとんどない住宅(とシャッター商店)街になっている。
昔から石部に住んでらっしゃる方々には失礼かもしれませんが、良くも悪くも「静かな町」という印象。

その静かな町で僕は今、地域おこし協力隊(※協力隊制度については下記リンク参照)として活動している。
活動としては、市から委託を受ける形で"ブックカフェ"を立ち上げるプロジェクトを行なっているのだけど、そのブックカフェで"宿"もしたいなと考えている。


「宿」に人々が求めるもの

さて、ここで宿というものについて少し考えてみる。宿ってなんだかワクワクするのは僕だけだろうか。多くは旅行先などで寝泊まりするための場所だけど、旅行の時は「どこに泊まろう」を考えるのも楽しかったりするものだ。

そんな宿も時代と共にその役割は変わってきている。
まず江戸時代の宿場町は、旅人の移動をサポートする場所として。
その後、一般大衆が楽しむ観光の滞在場所として。
平成後期からは、泊まるが目的となるような独自の宿泊体験を提供する場所として、様々な宿が各地で展開されはじめている。


ではこの令和の時代に宿のなくなった宿場町では、どんな宿が求められるだろう。

まずは地域おこし協力隊らしく、「まちづくり」の側面から、町に人を呼ぶ機能として考えてみる。
宿で賑わっていた町に宿がないのであれば、もう一度作って人を呼ぼう、ということだ。
この際、意識しないといけないのは、宿が求められなくなったので無くなった。という事実だ。
なので新しく宿を作るのであれば、これまでにないアイデアでなければならない。

ちなみに、僕と同様に地域おこし協力隊として移住し、同じく石部でプロジェクトを行なっている家族がいるのだが、彼らはそれこそ「ゲストハウス」を立ち上げようとしている。


"天然素材"にこだわり、シックハウス症候群である奥様のようなアレルギー体質の人でも安心して子供と居られる宿、というのを目指している。また、ご主人はアーティストであり、彼の作品を直に鑑賞できる空間体験としての宿でもある。
スクラップ&ビルド、古民家(空き家)問題を抱える日本で、古き良き資源をそのまま活用して、未来に残す。とても素晴らしいプロジェクトだと思う。同じ協力隊の仲間としてもとても応援している。

彼らのような、テーマを掲げた宿というのは、宿そのものが旅の目的地となり得る。旅人の興味が"観光"から"滞在や暮らし"に変わってきている最近の流れからも、今後まだまだこうした宿は増えていくだろう。

町が「人を呼びたい」のであれば、相手側には「呼ばれる理由」を提示しなければならない。
これからの宿という存在はその媒体の一つになる。

「呼びたい町、呼ばれたい旅人」

"新しい宿"という媒体を得た町と、旅人との関係はどうなっていくだろうか。僕が今想像しているのは、見知らぬ町に「呼ばれたい」と思ってる人もいるのではないだろうか、ということ。
仕事だけではなく、暮らし方そのものが問われることの多くなった世の中で、理想の拠点を探している人いるだろう。
現に、友人知人の中にも「あえて家を持たないで暮らす」「ゲストハウスを転々としている」という生活スタイルの人もいる。
そういったフレキシブルな動き方をしている人々にとっては、「さて次はどこへ行こう?」と探し続けるよりも、いっそ町から呼んでもらった方が気が楽なのではないだろうか。
僕自身、地域おこし協力隊として町から「呼ばれて」移住をした身で、そのおかげもあってか割と心地よく暮らせている。他所者扱いが想像と違って全然なかった。「来てくれてありがとう」とすら言っていただける。その「お呼ばれ感」が、住み心地を良くさせているところが大いにあるだろう。

呼びたい町が、呼ばれた旅人を心地よくし、呼ばれたい旅人が自然と集まってくる。願わくば、その旅人のうちのいくらかでも「共に暮らす人」になってくれたら、宿を通して町は豊かになっていくかもしれない。

これからの宿場町は、宿をきっかけに旅人が暮らす町
そんな未来を想像して僕は宿を始めようと思う。

Dongree 代表 ドリー

Dongree コーヒースタンドと暮らしの道具店・Dongree Books & Story Cafe(2020年6月OPEN予定)

略歴:WEB制作・デザイン業・コーヒースタンド経営・ハンドメイドクラフトショップ経営・各種イベント主催・地域おこし協力隊(滋賀県湖南市)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?