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コロナ禍で声出しライブができるようになるまでの経緯を振り返る(前編)

はじめに

2022年10月14日『ライブホール、ライブハウスにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン』が改訂され、収容率100%で声出しライブが解禁された

声出し可能自体は収容率50%で可能など、段階的に解禁されてきた。
上記ガイドラインの7Pの要件を満たす事で収容率100%でも声出しライブが解禁されたのは、クラスターを出さないよう感染症対策を実施し、ライブハウス=危険な場所というイメージ払拭のために尽力した方々の功績と言える。

ガイドラインはあくまで任意のものではあるが、ガイドラインの感染防止対策を遵守しているライブハウスはガイドライン遵守証を申請することができる。

今回のガイドライン改定に関する詳細

ガイドラインを改定するにあたり、”歌唱”ではなく「大声」の定義を他の業界と比較し、ライブハウスだけ声を発してはいけないという内容では他業界より規制が厳しい状態であると理詰めで行政を説得。

1曲中のうち25%であれば100%収容でも継続的に発声可能という内容に規制を緩和することに成功した。

今回、コロナ禍でライブができるように尽力していただいた日本音楽会場協会および、政治家の方々についてまとめさせていただきたい。

日本音楽会場協会とは

ライブハウスなど音楽会場を運営する方々が有志で参加している一般社団法人。
ライブハウスを運営する阿部健太郎(@abetokyo)氏が理事長。
コロナ禍で、ライブハウス業界の危機に立ち上がり政治家に対しての陳情や、ガイドライン作成に尽力していただいた。

コロナ禍の初期はライブ自体が出来ない時期もあった。
ライブハウスは分類上は「飲食業」とされるため、営業自粛や感染防止対策による給付金も対象ではあったが、コロナ禍で廃業になるライブハウスも存在した。

日本におけるコロナとライブに関する年表

本記事を記載しているのは2022年11月12日。
日本で新型コロナ感染者が初めて観測されてから、今日までの流れをここで一度まとめさせていただきたい。

2020年

1月15日 日本で初めてコロナ感染者が発表
2月19日    大阪市北区のライブハウスで40人規模のクラスターが発生
このニュース以降、ライブの開催中止発表が相次ぐ。

2月27日   全国の小中高に臨時休校を要請
ジャニーズグループ主催大型公演中止発表
3月13日 新型コロナウイルス対策の特別措置法成立。
3月25日  小池百合子東京都知事が緊急会見で、
週末の不要不急の外出自粛要請。ライブハウスに自粛するよう名指し批判
3月30日  小池都知事、夜間の外出自粛要請
4月7日      第1回緊急事態宣言発令
東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県対象
4月16日     緊急事態宣言対象を全国に拡大
4月30日 声優の緒方恵美が全世界無料配信無観客ライブ開催のための
クラウドファンディングを開始。わずか46分で目標金額を達成
5月14日   北海道・東京・埼玉・千葉・神奈川・大阪・京都・兵庫の8つの都道府県を除く、39県で緊急事態宣言を解除
5月21日  大阪・京都・兵庫の3府県について、緊急事態宣言を解除。
緊急事態宣言は、東京・神奈川・埼玉・千葉・北海道の5都道県で継続。
5月25日  首都圏1都3県と北海道の緊急事態宣言を解除
5月27日 
J-LODlive補助金申し込み開始(2021年1月29日終了)
※日本発の、国内で実施されるライブ公演で、収録動画の一部がYouTubeなどで海外向けに配信されるものの最大50%(上限1ステージ5000万円補助)制度


ライブを含むイベントの段階的入場規制緩和が実施開始
5月25日時点ではコンサート/展示会は屋内100人または収容率50%。屋外200人上限。プロスポーツは無観客
6月19日 コンサート/展示会は1000人または収容率50%
                 プロスポーツ無観客配信解禁
※クラスターが発生したライブハウスや接客を伴う飲食店については、各知事に判断が委ねられるが、政府は6月19日まで休業要請の対象としたため、実質6月19日から活動再開

7月10日 コンサート/展示会/プロスポーツ観戦 5000人または収容率50%を上限
7月27日 
『東京都内の音楽会場における感染予防ガイドライン』策定
8月1日 上限50%までに収容人数を一律緩和


8月10日 ギュウ農フェス2020有観客開催
8月20日 ジャニーズグループ主催大型公演中止発表
8月29日~30日 
@JAM ONLINE FESTIVAL 2020開催(@JAM EXPO 2020は中止)
2020年10月29日~2021年1月31日 Go toイベント開催
10月2日~4日
TIFオンライン2020開催(有観客イベントは中止)

12月21日 COUNTDOWN JAPAN・FM802 RADIO CRAZY 開催中止発表
12月30日~31日
ラブライブ!サンシャイン!! Aqours COUNTDOWN LoveLive! ~WHITE ISLAND~無観客ライブ開催
12月31日
NHK紅白歌合戦史上初無観客開催

2020年総括


2019年と2020年のライブエンタメ業界の市場規模は8割減を記録。
オンライン配信ライブが推奨され、無観客配信ライブが盛んに実施された年。

業界の中でも先駆けて無観客配信ライブを行った緒方恵美さんが感じた無観客ライブの難しさについて語る記事。

・観客がいない時に目線をどこに向ければいいかわからない
・メンタルを保つのがしんどい
・当時、配信にお金を払うという習慣がまだ無い人が多く、今後のマネタイズが心配だった
・配信はギリギリまで買わない人も多く、チケットの売り行きがなかなか分からない
・チケットが完売しても赤字(配信だと物販が伸びない)
・数人でライブに来てくれるグループは配信だと1枚分しか買ってくれない

無観客配信ライブに関しては上記のデメリットがあり、簡単に
「感染拡大したら危ないから、ライブなんて無観客でやればいいじゃん」
という話ではないのだ。
超有名アーティストの場合、世界中から配信チケットが購入され配信だけでもプラスになる事もあるが、ごくわずかの事例だろう。
2020年はコロナ感染が拡大し、ライブに行くなんて人前では言えない暗黒の年だった。
中小規模かつ、ライブ以外に収入のないライブアイドル(いわゆる地下ドル)は音楽業界の中でも比較的早くライブ活動を再開(2020年中旬頃から徐々に)し、本業は声優やTVの仕事など別にあるアニソン系の有観客ライブ再開は2021年以降が中心だったように思う。

2021年

1月8日 第2回緊急事態宣言発令
東京、神奈川、千葉、埼玉を含む1都3県を対象
2月27日   
新型コロナワクチン接種開始(医療従事者・高齢者優先)
3月21日 緊急事態宣言解除
4月25日 第3回緊急事態宣言発令
東京都、大阪府、京都府、兵庫県の一都二府一県が対象
4⽉26⽇ ARTS for the future!(コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)申し込み開始(2022年3月31日終了)

5⽉5⽇  音楽イベント関連4団体が緊急事態宣言延長に際して
声明文発表
クラスターの発生もないことから、無観客開催要請の撤廃を強く申し入れ。

6月20日 第3回緊急事態宣言解除
6月21日 新型コロナワクチン職域接種開始
6月26日~27日 SiM主催
DEAD POP FESTiVAL開催
7月3日~4日 京都大作戦2021~中止はもう勘弁してくだ祭(マジで)開催
7月7日
ROCK IN JAPAN FES. 2021 開催中止
7月10日~11日 
京都大作戦2021~中止はもう勘弁してくだ祭(マジで)中止
7月23日東京五輪開幕

8月1日 平塚正幸率いる国民主権党によるクラスターフェスがSNSで拡散され炎上
8月5日東京五輪閉幕
8月24日パラリンピック開幕
8月20~22日 フジロック開催
経済産業省の後援により、1.5億円の補助金を受け開催。

8月27~29日 アニメロサマーライブ開催
8月27~29日 @JAM EXPO 2020-2021開催
8月28日~29日 
波物語開催
感染症対策が全くされておらず、炎上。

波物語は必要な感染症対策を怠ったため、補助金の対象外になることが発表された。

9月2日 音楽4団体(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会、一般社団法人日本音楽制作者連盟、一般社団法人日本音楽事業者協会、一般社団法人日本音楽出版社協会)による「
公演開催等での感染防止対策に関する音楽団体共同声明」が公開
協会や団体に加入していない主催が、感染防止対策を全くせずに公演できてしまうことへの抗議文が発表された。

9月5日パラリンピック閉幕
9月15日 アニエラフェスタ中止(詳細後述)
10月1日~3日 TIF2021開催
10月19日~31日 衆議院議員総選挙
11月20日 ANIMAX MUSIX開催
12月31日
NHK紅白歌合戦有観客開催

2021年総括

2021年のライブエンタメ市場は2019年比51.2%減の3,072億円。
この年は夏以降から大型フェスが徐々に解禁された時期。
できなかった大型フェスとできなかったフェスの差は世間の目が当時はまだ厳しく、少し緩和して調子に乗ると叩かれ、後に控えていたフェスが割を食っていたという印象がある。

2022年

3月28日 ARTS for the future!2(コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)申し込み開始(2022年10月14日終了)
3月31日   
J-LODlive2(キャンセル料支援補助金制度)特設サイト開設
※2022年11月30日で終了。
6月22日~7月10日 参議院議員選挙
一般社団法人日本音楽会場協会は片山さつき氏と荒木ちはる氏の支持を表明。
音楽4団体(一般社団法人コンサートプロモーターズ協会、一般社団法人日本音楽制作者連盟、一般社団法人日本音楽事業者協会、一般社団法人日本音楽出版社協会)は今井絵理子氏と生稲晃子氏の支持を表明。

2022年、音楽団体が明確に名指しで候補者を支持したことで、批判も浴びた。
行政と繋がりがないと不利な条件で規制をかけられたり、業界の存続自体も危うくなる。
政治家と強いつながりを持たないと生き残りにくい時代が悪いのであって、支持を表明すること自体を批判される謂れはないのではないかと思う。
特に、批判的なツイデモを誘導した団体(Save Our Space)も議員と繋がりがあるため批判すること自体がダブスタではないかと感じた。
各音楽団体自体が有志による団体のため、抗議ではなく、自分たちも自分たちが推したい候補を擁立すればいいだけであり、批判だけして業界の足を引っ張ることに意味はない。

7月23日~24日 LuckyFM Green Festival2022開催
茨城で例年開催されていたROCK in JAPANが2021年に茨城医師会の反対により中止に追い込まれたことから2022年千葉開催。
それを受け、茨城のロックフェス文化をなくさないため開催された。

8月6~7・11~13日 ROCK in JAPAN2022開催
8月20日~21日 SUMMERSONIC2022開催
2022年9月17日~18日 ナガノアニエラフェスタ2022開催

2021年に開催を見送り・中止に追い込まれたフェスが2022年には無事開催できるようになった。

10月7日Perfume 宮城公演にて声出しライブ解禁
当日までに想定される収容率は32%と公表しており、収容率50%以下であるための声出し解禁発表が事前にされた。
大物アーティストの声出しライブ解禁であると話題に。

10月16日収容率100%で声出し可能にライブハウスのガイドライン改定

11月13日 ブシロード15周年記念ライブにて声出しライブ実施。
15周年ライブの当日までに予想される収容率が、会場の50%を下回る想定となり、声出しOKの公演を実施する決定した。
そのため、収容率100%による声出しライブではないが、19組のアーティストが出演する大型フェスでの声出し解禁はターニングポイントといえる。

11月15日 ジャニーズがコンサートの声出し解禁発表
政府のガイドライン緩和により、声出し解禁を発表。

2022年総括

有観客のライブやフェスが解禁されるだけでなく、声出しの解禁条件なども緩和された2022年。

ライブ当日の収容率5割割れ見込みによる声出し解禁ではなく、チケット倍率の高い大手アイドル事務所のジャニーズよる声出しコンサート解禁発表。
100%収容声出しライブ解禁にガイドラインが緩和されたことによる一番の成果ではないだろうか?

ただ、Perfumeやブシロードなど知名度のある有名アーティストや事務所のライブでさえ”チケットの販売数が収容率の半分にも満たず”声出しを解禁できたというのは、ライブイベント業界にとって「観客が思っていたより来ない」ことの証左。
声出しが解禁され、フェスも有観客でできるようになったが、客足はすぐには戻らない。
引き続き、支援がまだまだ必要な状態だといえる。

音楽団体が政府・政治家を名指しで推薦するようになり、ロビィング等の活動もした結果、政府のライブガイドライン緩和が実施できた。
政治に無関心でいられても、無関係ではいられない。
コロナ禍直後に「若者はライブハウスには行かないように」など名指し批判を避けるためにも、政治との関わりは持ち続けたほうが業界のためになると思う。

以上、2022年11月18日時点でのコロナ禍におけるライブ関係の時事をまとめさせていただいた。

ライブハウスにおけるクラスターの発生

2020年2月19日大阪市北区のライブハウス「ソープオペラクラシックス梅田」(Soc)で40人規模のクラスターが発生した。

2020年の初頭はコロナがはやり始めたばかりの時期。
「#ライブハウスをなくそう」というTwitterのデモも行われ、「緊急事態なのに音楽なんてやっている場合じゃない」と白い目で見られることも少なくなかった。

一般社団法人コンサートプロモーターズ協会(ACPC、会員69社)の調査によると、1999年から2018年の20年間で、全国のライブ開催数は9500本から3万1482本に、入場者数は1610万人から4862万人となり、いずれも3倍増。年間売上額は814億円から3448億円に伸び、4倍となっていた。

ライブ400本が中止、収入の「先食い」にも限界…でも「やらなきゃ」 音楽業界に光は見えるのか
加茂川雅仁西日本新聞クロスメディア報道部記者
2020/8/5(水) 11:00

コロナ禍が訪れるまで、ライブ業界は勢いにのっていた。
それがライブハウス1店舗だけでも2020年に400本もライブが中止になるほどの大打撃を受けた。
政府は2020年7月10日から屋内で5千人以下の興行(収容定員の50%)を認めたが、当時はまだ世間からの批判の声も大きかったことは忘れられない。

実際にライブハウスはクラスター発生件数は多いのか?

実際、ライブハウスはクラスターの発生件数が多かったのかというと、2021年9月~2022年8月までのクラスター発生件数は0件。
実際は福祉施設や学校の方がずっとクラスターは発生していました。
ライブハウスが特別危険だということはないでしょう。

声出しによる感染リスクは本当に高いのか?

2022年6月10日産総研による『スポーツイベントの声出し応援に関する新型コロナウイルスの感染リスク評価』が公開された。

産総研:声出し応援におけるリスクとマスク着用率の影響

上記の結果を見ても、不織布マスク着用率の高い状態でで声出し応援を行っても爆発的に感染リスクが上がるわけではないことが分かる。

今回、100%収容で声出しライブが解禁されたのは、あくまでマスク着用が前提。
段階的に科学的エビデンスのもと、規制を緩和していくのが正攻法として正しい。

また、ライブハウスにおける換気の実証実験を行う取り組みも橋本ゆき区議や電気通信大学が中心となり行われた。

これらの実験による検証、クラスター発生件数が実際はライブハウスは他の施設と比較して多いという事実はないというエビデンスを蓄積していった結果、規制緩和やライブを行える日々を取り戻せたといえる。

ライブすらできず、「音楽は不要不急ではない」と批判され状況から、2年かけて100%収容の状態でも声出しライブができる状況にまで漕ぎつけた、日本音楽会場協会と阿部健太郎さん、および関係者や議員の方々の努力には深くお礼を申し上げたい。

後編では、具体的に行政サイドとして動いてくれた議員の活動についてまとめさせていただく。


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