毒多、マダニに襲われる

ついにやられました。

まあ、週末ごとに森に潜んで藪カキをしていれば必然かもしれない。
藪カキってのは、犬かきみたいなもので、笹やシダや名も知らぬ草や枯れ木の海を手足を使い掻いて泳いでいくわけで、猪カキや鹿カキあるいは熊カキと同様、藪で人カキをするわけである。
蜘蛛の巣が顔面に引っかかったところで、気色悪いだけで大したことはないけど、ときに大したヤツに出会うこともあるんだな。
すっかり忘れていたけど、今回はっきりと思い知った。

先週の土日もやはり森の藪で人カキをした。
だって、もう藪のむこうにしか、トキメクような出会いがないんじゃないかと思うわけだから仕方ないな。
まあ、実際にトキメク出会いなんてめったにないのだけど、万が一ってこともある。

さて案の定空振りをした翌日は月曜日、朝マックのまえに座った途端に、、あ、断っておくけど「朝マック」といってもハンバーガーを食ったわけでなく、仕事でMacの前に座ったって意味ね、、、、その座った途端に太ももの裏にピキンという痛みが走った。そのときは何かデキモノができたんだって思ったんだ。
経験で知っているデキモノができて芯が膿んでいるところに物が当たったときの感じとソックリだったからね。
それでもその痛みもその時だけで、その後は痛くも痒くもなかったので忘れていた。

それが、夜になりシャワーを浴びようと風呂場の丸椅子に座った途端にも同じ痛みが走ったんだよ。
太ももといっても椅子に座ったとき当たる、ちょうど尻と太ももの境目の箇所で、背後なので目視ができない。
それにそもそもデキモノだと思いこんでいるから、鏡でみようとも思わなかった。
何気に手で触ってみると「何か」がついていて、それをつまみ取ってみた。

つまんだ親指と人差し指の間にあるヤツをみてびっくり。
あきらかに足らしきものが生えているじゃないのさ。
しかもそれが動いている。
足らしき部分が遅くも早くもない速度で宙を空振りしている。
進撃の巨人につままれてジタバタしている人間を思い出したよ。
でも四肢じゃなくてもっと多いかったけどね。

システム浴槽にとりつけられた大きな鏡の下辺にはシャンプーや石鹸がおける小さな台があり、そこにそいつを置いてじっと見つめてみた。
大きさは3-4mm程度の楕円形、左右に4対の足がある。
そいつは、シャワー後の水滴によってつくられた直径2cmの水たまりを右往左往していた。
あ、、、、マダニだ。マダニさ、マダニだとも。
やっちまった、取ってしまった。

呆然とそいつを見つめながら忘却の知識を取り戻そうとしていた。

マダニに噛まれたら、自分で剥がそうとせずにそのまま皮膚科へいき、医師に取ってもらう。
それは、無理に取ることでマダニの口の部分がもげて体内に残らないためである。

と、ここまでが忘却からかろうじて探り当てた知識。
その知識が活かされることなく、マダニは摘まれ素肌から剥がされていた。
あああああああ、やっちまった、、テレビバラエティで煽られた記憶が蘇る、、オレは死ぬのか?

やっちまった、と思いながらもシャワーの残滓でつくられた水たまりにはマダニがマダニカキで泳ぎ回っている。
それをじっと観察する。
マダニカキってのは合計8本の手足をこうして動かすのかぁ、なるほど。
ってそこを観察している場合じゃないだろ。
あきらかにウロが来てる。ゲシュタルト崩壊である。
こいつをなんとかしなければ、さてどうする?
動揺を隠しながら一時停止した脳の再起動をこころみた。
このまま排水溝に流すか、それともティッシュで包み潰すか?
ちらっとも生け捕りにしてマクロで撮影しようなんて考えは浮かばなかった。

結局ティッシュを選択したのだが、いまオレは裸ではないか。
体を拭き、とりあえず下着ぐらいはつけてティッシュを取りにいく間にこいつがいなくなったら、、、
そうだ、風呂場の隣はトイレだ。トイレにはトイレットペーパーがあるじゃないか。
そこなら、裸のまま取りに行ける。しかもほとんど時間はかからない。
決心して、トイレットペーパーを取りに目を離したのは10秒。ながくて15秒。
あれ?いない?どこだ?どこダニ?
あわてて周辺をみたが見つからない。

完全に正気を逸したオレは、ウギャーと叫びながら、無意識のうちにシャワー全開でその辺りを流しまくっていた。
意識をなくし第一の選択である、排水溝へ流すを行っていたわけだ。
シャワーマシンガンの範囲を無駄にひろげ、風呂場中の壁や棚、天井から扉までありとあらゆる箇所を盲滅法流していた。
流行りの高水圧シャワーヘッドに変えていたのでマシンガン力は半端ない。
ドドドドドド、これでもかぁ、プラトーンかフルメタル・ジャケットなみに狂ったよに高圧弾丸を発射しまくった。
一瞬、らしきヤツが流れたように見えたが、すぐに流れていき確認などできない。
弾倉がからになったのにトリガーを引き続ける映画のなかのヤツそのものだった。
ああああ、またしてもやっちまった。

落ち着けと言い聞かせ、服を着て風呂をあとにするが妄想は止まらない。
もしやトイレへ行こうと立ち上がり振り返ったときに、ジャンプをしてまたオレの身体にくっついたんじゃないか?
いや、風呂の扉をあけたわけだから、その瞬間にジャンプ移動したか。
その場合、そとにおいてあるバスタオルが怪しい。
バスタオルに身を潜め、再度オレを狙うんじゃないか。

なんど風呂場をみまわしても、それらしきヤツの影はもうみえない。
どこへ行ったかの確信はなかった。
あの流されている影がヤツだったんだと、思い込もうとしていた。

なんとか部屋に生還し最初にググったのが「マダニ(スペース)ジャンプ」。
ヤツを15秒観察した感じではどうみてもジャンプはしない気がしたが、事実はわからない。実際妄想のなかでは鬼のようにジャンプしている。
もしかしたらも、ある。
なになに、2mもジャンプする????嘘だ。
このイカサマブログ、、嘘だっていえよ。
違う、きっと乾いたところだったらだ、水たまりのなかからあの足腰で2mもジャンプできるわけないだろ。
ノミじゃあるまいし。
そうだ、力量があっても水たまりの水面張力に引っ張られるはずだ。
すでに水面張力を誤用するありさまだ。

ネットサーフィンでジャンプすると、マダニはジャンプはしないと書いてあるじゃないか。
いや、静電気をつかって飛ぶことができる、、、、って、やたら科学っぽい研究が載っているな。
水たまりのなかじゃ静電気は発生しないんじゃないか?ってかそもそもその距離は近いときだろ。
少し落ち着きをもどし、風呂場からは出ていないと思い込むことにした。

マダニは藪の草などにいるときに、両手、これを両手というかどうかは知らないが、両手を中空に伸ばしてじっと待つらしい。
よくは知らないが、学習能力があればあるいは本能で獣道の脇の葉によくいるかもしれない。
そして獣が通り接触するときに体毛にしがみつき皮膚までたどり着く。
そして、血〜吸うたろか、と呟きながら口器を差し血を吸い始めるらしい。
数日から10日以上しがみついて吸い続けるのがだ、種によってはセメント様物質って接着剤を生成して簡単にとれないように皮膚と一体化するわけだな。
こうなると、もう取り外すことができないので、サヨナラするには皮膚ごと切開しなければならないわけだ。

なんにしろオレの場合は、血〜吸うたろか、と呟かれてから最短で半日、ながくて2日経っているのだが、セメント接着されるまではいってなかったようだ。

なお、血〜吸うたろか、は、体長3mmから発せられるほとんど聞こえない囁きなので囁きを手がかりに血を奪われることに気づくのは絶望的に無理であることはいうまでもない。

TVのワイドショーやネット情報によって強迫観念のように染み付いている、マダニに刺されると死ぬかもってのは、そのマダニちゃんが感染症をお持ちかどうかによるのだけど、もしウィルスをお持ちであれば感染して発症するかもしれない。
SFTSっていう重症熱性血小板減少症候群って下を噛みそうなウィルスの場合、死亡例があるようだけど、愛知県だと2021年に初めて報告されたとか、致死率は10-30%だけど、そもそもSFTSをお持ちのマダニちゃんは0.3%とか、かなり確率としては低いわけだ。

もっとも、ネット情報の数字はバラバラのうえ、あくまでも確率だし、宝くじは当然だけど、年賀状のクジにも当たったことはなく、1/2のジャンケンでさえ負ける、つまり人生外れっぱなしのオレだからこの確率だは当たるわけがないわけだ。いやちょっとまてよ、当たったことないから逆に当たる確率は高くなっているかもしれないな。

そうか、それに違いない。
は〜、これでオレも終わりか、でも、取り敢えず傷口の残滓ぐらい取っておくか。
なになに皮膚科かへ行けばいいのか。近所の皮膚科でもいってみるかな。
と翌日、これもネットでは評判のよさそうな皮膚科へ行ってみたら、車椅子に座っためっちゃ爺さんドクターでしかもマダニのケースは初めてらしい。
いきなり辞書を調べだすもんだから、思わずお断りしようかなと思ったんだけど、なんだか面倒臭くなっちゃって、なすがままにしました。

一応鉗子で傷口を広げてルーペでみてもらったんだけど、、って目も不自由そうな爺さんドクターじゃなくて、助手っぽいアランド還暦看護師ね。
何も見当たらないってことで、抗生剤を塗って、あと飲む抗生剤をだしてもらって診察終了。
ネットじゃ単に「皮膚科にいくべし」って書いてあるけど、ちゃんと経験のある皮膚科ってのを探していったほうがよさそうだべさ。

正直この当たりから、だんだん疲れてきてどうでもよくなってきた。

まあよく考えてみれば、マダニちゃんによって葬られたとしても森の民と一体化して死んだと思えば本望だよな。人間どもによる戦争で死んだり、街なかで車に轢かれて死ぬよりずっと納得できる。ましてや、誰かさんの金儲けのためのワクチンの副反応で死んだりしようものなら死んでも死にきれん。

あぁ、考えてみたら、だんだんマダニちゃんが愛おしく思えてきたよ。
よくぞこんなオイラを選んでくれたね。
せっかく選んでくれたのに、排水溝へ流してしまってごめんよ。多分だけど。
今度会えたときには、きっと写真のモデルになってもらうからね。

まあ、潜伏期間(2日から数週間)がすぎてもオイラが生きていたらだけどさ。

でもさ、オイラにとって森に沈めないのは死んだも同然だと思う。
つまり死を恐れて森に潜らないのは本末転倒なんだよ。
どっちにしろ死んでるなら、やりたいことをすればいい。
どうせなら森に溺れて死にたいと思っているんだから、これからも森に通うことにするよ。
熊も、猪も、そしてマダニちゃんもウエルカムだ。
むしろ会いたいよ。まってておくれ・・・


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