山にスマホを置き忘れるは、ヤマビルに取り憑かれるは、、、@長い長い一日の日記

ふと我に戻ると、、、
「なんて日だぁ!!」 と二度目の往復に息を切らし、身体中に取り憑いたヤマビルを剥がしながら呟いていた。
今日は何故この選択をしたのだろう、この日なんどかの無意味な自問に襲われる。

朝、目覚めた時には雨が降っていた。
なので、“いつもの森”かな、と気分も乗らないまま考えていた。
でも出掛けるときには晴れてきたのだ。
だから、「気分が乗らない」を乗り越えるアイデアをひねり出した。
そうだキリシマミドリシジミに会いに御在所岳にいこう。
以前観たキリシマミドリシジミのyoutubeを思い出したのだ。

現地までの時間は“いつもの森”と変わらないが、高速代が片道2000円もかかる。
往復4000円+ガス代、結構かかるなぁ、と思ったけど、キリシマに会えるならいいか、と思い直す。
ところが現地についた途端に雨が降り出したのだ。
もちろんキリシマどころかどんな蝶の影もみえない。
しかも、無料駐車場がなく車が一台も止まってなくても有料600円とある。
なんだかなぁ、と感じたので車を走らせ国道沿いのパーキングに止まって雨があがるのを待っていた。

小1時間まち国道沿いの花や森の入り口をみてまわったけど蝶はいなかった。
仕方がないので、youtubeの実績を当てにしようと思い直した。
温泉街の公園に戻ってみたのだけど、どうしても600円が勿体無いと感じる。
思案していると我ながらいい案を思いついた。
少し離れるがopenとかかれた、小洒落たカフェがあった。
食事をするから駐車させてほしいと頼めばいいんだ、と。
小腹も減っていた。
客は一人もいない店内をのぞき、所在なさげにぼんやりと立っていた店員さんに声をかけた。
先のアイデアを愛想をうかべて問いかけると、中国だかベトナムだかのアジア系の可愛らしいウエイトレスは「いいよ」と笑みを浮かべた。
食事のメニューは2つしかない蕎麦かカレーライス。
あまり悩まず800円のカレーライスを注文した。
ここ数年外食をすることがなくなった。しかもカレーライスを外で食べることはない。
根拠もない期待値が上昇したのだが、、、、う、うまくない。
カレーライスというのは食べ慣れたものがいいというのがあるのかもしれないな。
家のカレーライスしか食べたことがないので、こんなものなのかもしれない、と思いながら平らげた。

さて、公園から入る東海自然歩道に足を踏み入れる。
youtubeだけでなく、菰野町の公式ホームページにも客寄せパンダ、もとい客寄せキリシマとして載っていた。
キリシマミドリシジミの食草は赤樫である。
アカガシ、アオガシ、キリシマがし、併せてガシ餓死、赤青餓死、、、などとわけの分からぬ早口言葉をエンドレスリピートしながら天地左右360度舐めるようにみつめながら歩いた。
最初の10分は期待に目をギラギラしながら早口言葉も滑舌だったのに、キリシマどころか一頭も蝶の姿がみえぬ道に目はどんより、早口言葉も壊れたレコードのように声が籠もっていた。
そういえば、オレはアカガシを同定できないんだったぁ、、、そんな空気を一層するように、キリシマミドリシジミが出たのだ。

画像1

・・・看板だけどorz・・・しかも文字はかすれているし、、、
しかし看板があるということはこの近辺にいるに違いない、と思い込むしかない、と追い込まれて20分ほどそこで探したが所詮思い込みは思い込みでしかなかった。

もういいや、今日は別の被写体の撮影ということにしよう。
蒼滝というのがあるらしいではないか、その写真をとって満足すればいい。こういう日もあるさ。
歩き出しながら、とかなんとか言いながらバッタリ会えるかもしれないしな、と密かに期待もしている。
頂上まで登ったとき祠が立っていた。その横には色の禿げたCoca−Colaの看板がぶら下がりガラスの割れた内には何もない元売店があった。
だれともすれ違わない、誰とも会わない、キリシマもいない、、こんなとこも昔は賑わっていたのかもしれにない。
そういえば下の町も有名な温泉街だけど人影はなく廃墟も目立っていたなぁ、と今更ながら感慨にふけさせる。
この祠も、隆盛をほこっていたころ客寄せで建てたんだろうなぁ、と罰当たりな考えが浮かんだ。

そこから蒼滝までは急坂の谷底だった。
何度も戻るときの息切れを考えてやめようと思った。
でも、もしかしたら蒼滝周辺こそキリシマのポイントかもしれない、とyoutubeにも公式HPにもない状況の発見を夢見ていた。
これまで、そんな感じでうまくいってきたことが多いのだ。
実際はキリシマがいることもなく、滝があるだけだった。
その滝はかなり迫力があり、岩に弾ける落水が変身するミストが気持ちよかったのだけどね。

画像2

予想通り、息を切らし何度も立ち止まりながら、なんとか祠まで戻ってきた。
ベンチに座り(スマホで時計をみてメールチェックをしたと思う)
ふと地面に目をやるとナメクジがのたうちまわっている。
蟻がナメクジを咥えようとしている。
ナメクジと蟻の戦いかぁ、写真に撮るか、どうか、、、とよく観察してみる。
あれ、なんかこのナメクジ変だなぁ、、、あ、ヒルじゃないか。
そうだ、ヤマビルだ。なんでこんなとこにいるんだろう。まあヤマだしなぁ、、、、
ふとyoutubeに、ヒルがいるとこじゃないとキリシマがいない、、みたいなことを言っていたのを思い出すした。
そうすると腹のあたりにずっと感じていた、感じないほどの微妙な違和感を感じた。
ゆっくりと服をめくってみる。
うぎゃぁ、、、、、、、ま、ま、まさか、まマジか、、、、
ヘソの横のあたりに2本の筋が、、、、ひ、、、、ひ、、、、ヒルだぁ、、昼間からヒルだぁ、、、と
爪で引剥剥がして、地面に叩きつけた、つもりが爪から離れない。激しく何度も手を振ってもだめだ。
地面に爪をこすりつけてやっと剥がれた。
そうこうしているうちに、身体に集中すると体の何箇所かに感じないほどの感じを感じ取れた。
合計5匹のヒルを引き剥がし、服を脱ぎ、ズボンをおろし全身チェックした。
人はいないのだが、パンツはおろすことなく中を覗き込んだ。
5匹ですべてだったようだ。

そこでズボンの靴やズボンの紐を締め直し、首の廻りにタオルを巻いたとき、ガサッと大きな音がしたので驚き上を見上げた。
おぉおおおお、でかいヒルだ、、、、ちがう猿か、、、、めちゃナイーブになっている。
猿だぁなどとカメラを向けることもなく、とっとと下山した。
猿はヒルに襲われないのか、が頭のなかを支配し、キリシマのことなど全く眼中になかった。

完全防備のつもりで下山したにもかかわらず、足のスネに新たなヒルが張り付いていたのだ。
そいつを引き剥がし、よしもう帰るぞ、と決めたときにポケットに入っているはずのスマホがないのに気づいた。
気づくのと同時に、ポケットを裏返し、カメラバックのすべてをあけて調べた。
ない。
真っ白になった大脳はフル回転で電気信号を右往左往させた。
落ち着け、思い出せ、落とした音はしなかった。
このズボンのポケットは深い。このポケットからスマホが落ちたことは一度もない。
最後にスマホをみたのはいつだ?
おちつけ、おちつくんだ。
そうだ、祠のまえでヒルに気づくまえにメールチェックをしたはずだ。
かなり嬉しいメールがあってニヤついていた。
あれ、それは蒼滝にいくまえかな、帰ってきて息を切らしたときだったか、、思い出せない。
もしかしたらカレーライスを食ったときか?それはない、が自信もない。
そうだ、ヒルでパニクったときに違いない。ズボンもおろしたし。

まちがいないその時だ。祠の前だ。
カメラを下ろして、身軽になり飛脚のような足取りで山道を引き返した。
希望とともに登った頂上の祠の前には何も、なかった。
嘘だ、そんなはずはない。
まさか、蒼滝のまえで滑ったときか?
でも、またあのどん底まで降りていくのか?
しかたない、いくしかないだろ?
背にスマホは変えられぬ。
谷底にもなかった。
もう息を切らしというか、切らす息もない状態で祠の前に戻ってきた。
ここぞとなったとき人はゾーンに入るらしい。
あっ、まさか、あの猿か?ここに落ちていたスマホを持ち去ったのは。
昔読んだ「カムイ伝」にでていた。猿は光ものに興味をもっている、というのを思い出した。
スマホもアングルによっては光ものだし、好奇心というてんではきっと猿は人間に近いのではないか?という妄想的学説が確固なものとなってきている。
糞、猿め、オレのスマホを、、、クソエテコがぁ。
ちょっとまてよ、もしかしたらエテコでなく、祠を小馬鹿にしたのが祟って神隠しにあったのか?
ちくしょう貧乏神め。
いや違う、現実にもどれ、そんなわけないだろ。そうだトランクだ、三脚をトランクに放り入れたときにスマホも気もなしに放り入れたかもしれない。
そう信じ込んで車まで舞い戻ったのだけど、やはりなかった。
今度は3匹のヒルが服のなかまで入っていた。
もう驚かない。でもどうやって入ったかが気になる。
かなり気をつけてしかも早足で行って帰ってきたのにどうやって?
地面から這い上がることも、オレをめがけて落下することもできないだろう、
マジでどうやって、、、、引田天功かっ、とツッコんだ。

そうだ、嫁か息子のスマホなら、GPS「探す」でスマホの位置が解るよな。
それで探索してもらえばいいのだ。
って、どうやって連絡をすればいい。
嫁のも息子のも電話番号を知らない。
スマホがなければ、何も解らない。お手上げなのだ。
電話をするにしてもスマホそのものがない。
そうか、公衆電話だ、公衆電話をさがせ、、、、いまどきないか?、、
と車を走らせるとすぐに電話ボックスがあった。
よし、落ち着いてきたぞ、、、と自分に言い聞かせて気がつく。
どこに電話する、もとい、どこに電話できる?
そうだ、嫁のも息子のも電話番号が解らないではないか?
そうだ、自分のスマホにかけてみよう。
誰かに拾われていたら出てくれるかもしれない。
さ、猿が出たらどうしたらいい、それとも貧乏神がっ、、、いかん落ち着け。

できる限りの10円玉を投入して番号ボタンを押す。
0、、、?、この電話番号は現在つかわれておりません。
いや、そんなことはないだろ、さっきの今だ。
よし、もう一度。
090、、、、あれ?9のとこは「ポ」という音がなるのに、0がならない。
もう一度10円玉をいれなおし、0を強めに押したら「ピ」となった。
よし、やれば出来る子なんだ。
090、ぎゅー、ぽん、ぎゅー、、ピ、ポ、ピ、、8、、、、おい、押した8が元に戻らず凹んだままだ。
いったいどうなっているんだ、、、
くっそ、壊れてやがる。
と、公衆電話を諦めると、黄色いTシャツをきた青年が近寄ってきた。
よかったら使いますか?、とスマホを差し出され声を掛けられた。
え、一瞬、とまどったが、親切なんだとすぐに気づいた。
ありがとう。でもどうしたら、いいんだろうね、スマホを落としたときは、、、
青年は、「警察は」というので、そのまえに自分のスマホにかけてみてもいい?と彼の親切に甘えた。
自分のスマホにかけると呼び出し音が流れた。だれもでることもなく、猿がでることもなかった。
とりあえず、水没はしてないな。
彼の教えてにしたがい警察に電話をかけると、逸失届の書類を書くだけにおわった。
まあ、そうだよな。
すると彼が、一緒に山に探しに行きましょうか? と言ってくれた。
いや、そこまで甘えるわけにはいかないと固辞した。
それに彼は、半袖Tシャツに半ズボン、手作り草履という修行中のような出で立ちだった。
その格好であそこに行くなんて、ヤマビルの恰好の獲物ではないか!?
5匹どこの騒ぎじゃないぞ、彼の全身がヤマビルという絵が浮かんだ。
彼に一緒についてきてもらって、ところどころで、スマホをコールしてもらえれば呼び出し音をたよりに見つかるかもしれない、とふと思ったが、、、
彼の全身がヤマビルに襲われ倒れながら血を吸いつくされ溶けていく姿がちらついてスマホと人命は変えられないと思った。
一人でもう一度いってみます、と言うと、彼は大丈夫ですか、と真剣に最後まで心配をしてくれた。
大丈夫だから、、、と言いながら財布を開き、電話代として千円を渡すつもりだったが、1万円札しかなかった。
流石に1万円は、、、。
仕方なく、百円玉をあるだけ彼に渡した。多分7−8枚はあったと思う。
子どもの小遣いみたいだと思ったものの仕方ない。
断る彼にあくまでも通話代だからと言い、強引に渡した。

駄目だと思ったが、彼に言った手前もう一度だけ行ってみた。
ゾーン状態は終わり、膝が笑いだした。
今度もやはりなかった。
車までもどると、今度は引田天功が2匹脇腹にくっついていた。
しかも服が20センチ四方が血まみれになっていた。
山から膝をかばうぎこちない歩き方の血まみれのオッサンがおりてきた。
まるで猟奇殺人事件ではないか?
もうこれ以上は駄目だ。帰ることに決めた。
家から嫁に電話することにした。

嫁は電話にでなかった。
理容室に行くと行っていたから、まだやってもらっているのだろう。
息子に電話すると眠そうな声ででた。
事情をはなすと、GPSの地図を送ってくれた。
どうやら温泉街の道端にあるようだ。
こんなとこ行ったかな?とは思わずにすぐにそこへ行くことにした。
明日までまつと落とされたままのスマホがどうなるか不安だ。
雨ざらしか、夜露か、、、
理容室に嫁を迎いにいき、そのままドライブを決め込んだ。
本日二度目の御在所岳である。

助手席の嫁はスマホでGPSを操作しながら、あれ?と行った。
スマホが移動している。
え、まさかエテコの野郎、森のなかを移動し始めたか?
それとも神があの世で、、、あれ?あの世に電波は届くのか?
道を移動している。と嫁は言った。
電話してみて、というのを待たずに電話をしていた。
はい、、(あ、繋がった)、、、で、でた。エテコが喋った。
いやエテコは喋れない。喋るとすれば貧乏神の方か、、、
西署のものですが、、、、
西署というと警察ですか?、、、はい。
畜生、権力猿だったのか、、、、ちがった。

すでに警察に届けられていたのだ。
警察は祠のまえのベンチに置かれていたのを拾われた、と言った。
息子に送ってもらったスマホの現在地は、詳しい地図と見比べると道端ではなく「温泉」だったのだ。
つまり、オレが右往左往七転八倒している間、拾われたスマホは温泉の脱衣所のロッカーのなかにあったわけだ。
もちろん拾った方にしてみれば、拾い物を届けるのを優先させるわけもなく、レジャーの帰りに警察に届ければいいと思うのは当然だろう。
オレでもそうする。でも、ちょっとだけ、そのままベンチに置いといてくれたら、、、すぐに見つかったのに、と思ってしまった。
もちろん、結果がエテコに持っていかれたり神隠しにあっただったら、拾って欲しかったとなるわけだから、勝手なものだ。
警察官の眼の前で拾ってくれた方にお礼の電話をした。
すべてが解決したとき心身ともに限界で頭痛もしだした。
夜の約束事は体の調子が悪いからと断ることにした。
お大事にしてください、と返信がきた。
なんとなく申し訳ない気持ちになった
でもとても無理だと感じた。
時間的にも間に合わなかったし、何よりも頭痛で集中力が皆無だった。

そんな状態でもしたかったことはある。
スマホの電話の履歴から「山で一緒に探そう」とまで言ってくれた親切な彼の電話番号をみつけだしダイヤルした。
スマホが見つかったことを報告し、心からの感謝を伝えると、これでもかというほど喜んでくれた。
こころから彼に幸あれと思った。
こんな青年もいるんだ、と感慨深かった。
スマホを置き忘れたことに意味があるとするなら彼と出会えたことかもしれない。
何事にも意味があると思うことにした。
でももう二度と落とさないけどね。

長い一日は終わった。
二度往復した金銭的な収支が浮かんだが、もういいやと思った。
キリシマミドリシジミには一生会えないような気がした。
エテコとか貧乏神とか言って悪かったよ。ごめんな。
嫁と息子の電話番号のメモを財布のなかに忍ばせた。


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