⑫NHKスペシャル「混迷ミャンマー 軍弾圧の闇に迫る」を見て(2021年8月22日放送)
前回、4月4日に放送した、Nスぺが反響が大きかったということで、その続きです。前回の内容が気になる方は、以下をご覧ください。
2月1日のクーデター以後、ミャンマー国軍は厳しい情報統制に乗り出しています。SNSを使用した発信により銃撃を受ける市民が多くなっていますが、そういった状況や大虐殺も封殺されています(Black Box化の進展)。
NHKが軍を離反した元将校や、軍の機密文書をもとに実態を暴くという大作です。
<国軍による市民の統制>
●国軍による市民の統制が日常になっている。
●40万人の国軍は、この半年間に圧倒的な武力行使をして、市民による抵抗運動を抑え込んできた。8月1日にはミン・アンフライン国軍司令官が、暫定首相に就任。軍による支配を正当化しようとしている。
●国軍は電話の盗聴やSNSへの監視を強化していて、デモはごく短時間でゲリラ的にしか出来なくなっている。
●また、私服の軍人や警察官も、しばしばデモ参加者の中に紛れ込んで逮捕してくる。
●治安当局者が急にデモ参加者を拘束。
●これまでに拘束された人は、7000人以上に上る。
●3か月に渡って拘束されていたネイサン・マウンさんは、アメリカ国籍を持っていたため解放されたが、同僚のミャンマー人は今も拘束されている。
●ミャンマー人の拘束が、国際法上の人道上の罪に当たるのではないか、常に見張っている。しかし、今回の重大な犯罪について、異なる場所や日時に起きた犯罪を、最も責任ある立場の人と結びつけるのは難しい。
<4月9日のバゴーでの弾圧>
●人権団体が、82人の市民が死亡したと伝えている4月9日のバゴーでの虐殺は、全体像が明らかになっていない。
●国軍は、「治安部隊の2人が負傷、暴徒集団側は男性1人が死亡、男性2人が負傷した」という虚偽情報を放送していた。
●市民は3本の道路にバリケード(土嚢)を築いていた。暴力に訴えずに、歌をうたう平和的な抗議を示していたが、国軍は軍事作戦を展開。
●国軍は、街を包囲して予め逃げ道を封鎖して、4月9日の朝4時30分から発砲を開始してきた。軍は見つけた人に対して道にいようが庭にいようが全員に発砲。
●国軍が使用したのは、殺傷能力の高い兵器を使用(40mmグレネード)。
●国軍は、正面と横の2方向から、丸腰の市民に対して攻撃を仕掛けてきて、ドローンにより、上空からも追いかけた。
<国軍の実態>
●自国民に容赦なく銃を向ける40万人のミャンマー国軍の実態を、4人の元将校から聞くことができた。
●元大尉によれば、「軍にいると外とのつながりがとても少ない、政治や国民について触れている記事は読めない、軍隊の中で得られる情報は軍が統制している新聞やテレビしかない」。
●元少佐のヘイン・トー・ウーさんによれば、「権力を握りたい人が軍を操っている。軍を離反したのはやり方がひど過ぎるため」。軍人と家族は社会から切り離され、軍が管理する施設で生活して、その生活全てが監視され、裏切れば起訴される。軍から逃げることは許されず、家族も逃げることは難しい。
●叩き込まれるのは軍の思想で「民主化を求める市民は悪だ」という思想。
●1988年の民主化に対する虐殺も「暴徒化する民衆を国軍が抑え込んだ」という事実とは異なることを教えられてきた。
●元大尉の、トゥン・ミャッ・ナウンさんによれば、「自分の目の前にいるのは敵だと思え」と常に洗脳されてきた。現場の司令官から「殺してしまえ」という命令を下されることもある。
●元少佐によれば、「軍は国民がどうなってもいいと考え、罪のない人を殺したり、痛めつけようとしている。権力を握るためなら何でもやるのが軍なのです」
<国軍の利権構造>
●チョー・モー・トゥン、ミャンマー国連大使によれば、「軍がクーデターを強行したのは幹部たちの私的利益のためです。軍は軍系企業を所有し、かなりの特権を享受しています。免税措置においても優遇されているのです」
●ミン最高司令官を含む、軍幹部が株主に名を連ねる企業が、MEHL(Myanmar Economic Holdings)とMEC(Myanmar Economic Cooperation)で、130を超える子会社があり、金融、通信、エネルギー事業などあらゆるビジネスを支配。
●政府に内部文書がハッキングされ、ネット上に公開された。数十万点以上の文書によれば、軍の取引の詳細など機密情報が含まれていて、世界中の報道機関が分析を進めている。
●軍用機から秘匿の通信技術までさまざまな装備を集めてきたことが明らかになっている。
●初期の投資者の50人のリストも公表されている。
●38万人に株主の9割以上が、現役軍人や退役軍人だった。
●1700超の部隊にも配当が支払われていることが分かった。
●ミン司令官は、10年前の時点で年間約3000万円の配当を得ていた。
●過去20年間で株主に支払われた配当金の合計は、2兆円に上る。
●この軍の利権構造を崩そうとしていたが、アウンサン・スー・チーが率いる政党NLD(国民民主連盟)だった。
●軍は、クーデターを起こした理由は、NLDが選挙で不正を起こしたとしているが、チョー・モー・トゥン、ミャンマー国連大使は、「自らの利権を守るため」と指摘。「NLDの改革によって軍の支配領域が狭められ、幹部は焦りを感じていました。軍に流れるあらゆる資金を直ちに断ち切るべきです。軍による支配を終わらせるために、国際社会は圧力をかける重要な役割を果たせるはずです」
<国際社会の圧力>
●アメリカやヨーロッパは、軍への制裁を強化している。
●しかし、中国はミャンマーへの支援を続けている。
●7月にチャオピューに向かうと、中国のタンカーの姿があった(Xin Yong Yang IMO: 9416642)
●チャオピュー港の入港記録によれば、クーデター以後も中国船籍、香港船籍の船が来航。
●資源調達のために、年間数千億円の支払いをしてきた中国は、制裁には反対の姿勢。
●6月の国連総会での武器輸出に関する決議では、中国、ロシアの反対で武器のミャンマーへの流入を規制できず。
<日本の立場>
●日本は、苦しい立場に置かれている。2019年度のODAは約1900億円。
●日本はクーデター以後には、ODAの新規供与は止めているが、制裁は課していない。「制裁がいいんだ、勇ましいんだ、制裁じゃないものは勇ましくない、こういう二律的な議論というのは、国際社会の常識からは外れている」と茂木外相は、国会で答弁。
●ミャンマーに進出してきた日本企業は400社以上で、Human Rights Watchは、今も軍と関係している日本企業が無いか調査している。
●官民合同のYコンプレックス事業から、軍に資金が流れてきたのではないかという疑い。2021年の開業を予定していた。日本のゼネコンを中心に進められ、政府系金融機関も融資して、総事業費は360億円以上に上る。
●軍の博物館の土地を借りていたため、賃料が軍に渡っていた疑いがある。
●賃貸契約資料では、貸主が兵站局と記載されている。。
●兵站局は、軍の組織で、武器の購入、管理・支給が役割。
●関係するゼネコン(フジタ)によれば、「合弁相手であるミャンマー企業は当該土地をミャンマー国政府の一機関である国防省から借り受けていますが、最終的な受益者は国防省ではなくミャンマー国政府であると認識しています」と回答。
●更に「クーデターが起きた2月1日以降は、工事は停止して支払いをしていない。今後の対応については、状況の推移を注視」と回答。
●これに対して、Human Rights Watchの笠井哲平さんによれば「ミャンマーの憲法を見てみると国防省は実質ミャンマー国軍の支配下にあるので、今後いつまでこれを停止するのか、仮にどういう状況になったら再開するのか、早急に透明性のある対応をしてほしい」というコメント。
<コロナ禍の惨状>
●7月の1か月のコロナ禍による死者数は6000人。医療体制が崩壊に陥り、市民は一切の手当を受けられない状況。
●ミャンマーからの情報発信が制限されるため、コロナによる実態も世界に伝わっていない。
<市民の抵抗運動>
●武装しゲリラ化する市民の抵抗運動。東部の町では警察署を襲撃して、15人を殺害。軍と武装した市民の衝突が各地に広がっている。
●3か月前に取材したマーガン青年(仮名)は、少数民族地域で武装訓練を受けていた。もともと、町工場で働いていて軍に対抗するのは、平和的デモが重要だと考えていたが、仲間が次々に軍に殺されるなかで、考えが大きく変わった。「軍は銃で撃ってきます。我々は犬死するだけです」。
●バゴーの虐殺で生き延びた生存者は、少数民族地域で武装。
●マーガン青年も、都市部で攻撃を仕掛けようとしていたが、メッセージがと届いた「軍の襲撃を受け、1人が殺され8人が捕まりました。私ともう2人が逃れ、何も持たず、着の身着のまま逃げています」。
以上
See you soon.
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