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⑬NHKスペシャル「忘れられゆく戦場 ~ミャンマー 泥沼の内戦~」を見て(2022年4月17日放送)

ご無沙汰しております。桐島です。

過去にも2回分のNHKスペシャルミャンマー特集の記事を記載しましたが、今回、第3弾になるLong Runの放送です。
これは、NHKだからこそできる放送です。私は、NHKびいきではありませんが、ミャンマー人に親近感を感じる身としては、放送内容にかかわらず、取り上げて下さるだけで、NHK様に大変感謝致します。
 
私は、ミャンマー国軍とロシアの距離が急接近していることは存じ上げていましたが、購入する武器の破壊力や、それが市民も巻き込んだ虐殺に使用されているとは知りませんでした。また、今回の番組では中国の兵器については、あまり取り上げていませんが、中国の影響力も大きいと感じています。

国際関係の不条理ではありますが、ロシアのウクライナ侵攻は、主権国家 vs 主権国家という分かりやすい構図ではありますが、自国内の自国民の虐殺・殺戮となると、なかなか友好的な手立てがなく、当該国の政府により報道規制が敷かれてしまうため、情報も外部の世界に伝わりにくいという点があります。

そのなかで、NHKの画像・動画を入手して分析する手法は、画期的(epoch-making)であり、過去の2回の放送もそうでしたが、現地にいて、できる限り現場主義を貫こうというマインドを持つ私が、そもそも渡航できない少数民族地域の様子を伝えてくれているため、大変勉強になりましたし、同時に、自分の無力感も感じました。

それでは、今回の放送内容は、以下のとおりになります。

2022年4月19日 午後6:15 公開(2022年4月17日の放送内容を基にしています)

世界から忘れられゆく戦場がある。

ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナから、およそ6000キロ。ミャンマーの国境地帯を撮影した動画には、無残に焼き払われた町が映し出されていた。

住民が残虐に殺害される事件も頻発。しかし、世界にその被害の詳細は伝わっていない。

夫を殺害された女性「軍は命の尊さを知らないのです」

2021年2月にクーデターを起こし、市民たちの抵抗を力で抑え込んできたミャンマー軍。いま幹部らが頻繁に訪れているのがロシア。最新の兵器などを視察し、軍事力を高めようとしている。

ミャンマー国内では情報統制を強め、市民たちの抗議活動を抑え込んだと主張している。

はたして、実態はどうなのか。

私たちはウェブサイトや、独自のネットワークを通じて現地から映像を入手し検証。そこから見えてきたのは、ミャンマーの危機が、これまでとは異なる次元に突入している実態だった。

国境地帯を中心に各地で戦闘が激化。若者たちの一部が武装し、2万5千人ともいわれる勢力に拡大している。手製の武器などを使って、軍と激しい衝突を繰り返しているのだ。

これに対し、軍は無抵抗の住民も巻き込む大規模な空爆を展開。村々を徹底的に焼き払うなど、無差別な攻撃を繰り返している。

戦禍を逃れた避難民は61万人を超え、深刻な人道危機が広がっている。

しかし、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を進める陰で、ミャンマーへの関心は急速に薄れている。このまま国際社会から見放されてしまうのではないか、いま、多くのミャンマー人たちが強い危機感を抱いている。

アジアでも続く悲劇。内戦が泥沼化するミャンマーの、いまに迫る。

<軍が実権握る ミャンマーのいま>

クーデターから1年あまりが過ぎた2022年3月下旬。ミャンマーでは、軍の記念日を祝う式典が行われていた。総兵力40万ともいわれるミャンマー軍。

弾圧によって少なくとも、1700人以上(人権団体AAPP 2022年4月13日時点)の市民が犠牲になったという。トップのミン・アウン・フライン司令官は演説の中で「今後も抵抗する勢力には容赦しない」と強い言葉で威嚇した。

ミャンマー軍 ミン・アウン・フライン司令官「テロリストや、その支持者と交渉することはない。全滅させる」

私たちは、2021年2月のクーデター以降、軍による市民への弾圧の実態を取材、市民がSNSに発信した動画や写真などを分析し、真相を追ってきた。その後も、平和的なデモを行っていた若者たちが、軍に追いつめられ、都市部から逃れる様子を伝えてきた。

いま、最大都市ヤンゴンは、一見かつての日常を取り戻しているかのように見える。

軍は、今月から外国からの渡航を本格的に受け入れると発表。国内は既に安定していると強調している。クーデター以降、ヤンゴンやネピドーなど、政治や経済の中心地域で頻発していた大規模な抗議活動は、おおむね抑え込まれている。

<武器をとる若者たち>

しかし、いまミャンマーとタイの国境地帯で異変が起きていると聞き、私たちは取材に向かった。

密林の奥に姿を現したのは、軍事キャンプだ。軍の弾圧を逃れた若者たちが、都市部から次々とここに身を寄せているという。

行われていたのは軍事訓練。少数民族の武装勢力から、兵器の使い方やゲリラ戦の戦い方など、手ほどきを受けている。ほとんどは武器を持つのが初めてだ。

少数民族の武装勢力の教官「遠くを狙うのであれば、傾けて撃つ。正面ならこう持つ。あの壁辺りなら水平で撃て。ドンと当たれば、粉々になる」

このキャンプで訓練を受けてきた若者は500人以上にのぼる。前線に立つには、少なくとも3か月かかるという。訓練を受けた若者たちは、各地でPDF=国民防衛隊を結成。およそ2万5千人の抵抗勢力となっている。

少数民族の武装勢力の司令官は、若者たちと武装勢力が連携すれば、強大な軍に対抗できると考えている。

少数民族の武装勢力の教官「すべての民族のグループと抵抗勢力が組んで、一緒に戦っています。我々は市民と協力し、弾圧を続ける軍側と戦っているのです」

国境地帯の7つの州には、少数民族の武装勢力がおよそ20存在している。長年、自治権などをめぐって、ミャンマー軍と戦闘を繰り返してきた。その一部に、数万人の若者が合流し、ミャンマー軍に抵抗する連合体となっていたのだ。

かつて平和的なデモを行っていた若者たちは、軍の兵士を殺害することも辞さない戦闘員へと姿を変えていた。

私たちが入手した動画に映っているのは、前線の部隊に所属する20代の女性。以前は事務職につき、平穏な生活を送っていた。

半年前、初めて人を殺害したという。仲間がミャンマー軍の兵士に性的暴行を受け、殺されたことで戦い続ける覚悟を固めていた。

元事務職の女性「殺されていった友人たちのために、私は戦い続けると決めたのです。逮捕されるくらいなら、自分の命を断ちます」

28歳のポーン・ナイン・ピョーさんは、以前はジャーナリストだった。デモの取材をするなかで、多くの若者が殺されるのを目の当たりにしてきた。2021年9月頃からすでに10回以上、ゲリラ戦などに加わっている。家族が軍に捕まることを恐れ、妻や子供と縁を切ったという。

元ジャーナリスト ポーン・ナイン・ピョー戦闘員「軍は私たちをジャングルに押しやりました。そして、私たちに武器を取り、戦う道を選ばせたのです。戦って死ぬことも、逮捕されて拷問されることも恐れません」(本人の希望により素性を明かしています)

抵抗勢力側はSNSなどで、自らの戦果を強調。この5か月、各地で軍の兵士など9000人以上を殺害したと主張している。

この動画には、山岳地帯で軍を待ち伏せし、ゲリラ戦を仕掛ける様子が映し出されていた。

「静かにしろ。軍の兵士がこっちを見ている。銃を構えるんだ」(CDF Mindatより)

侵攻する軍の装甲車に向けて発砲。激しい銃撃戦となった。

国境地帯で活動する抵抗勢力を軍は「テロリスト」と見なし、大規模な掃討に乗り出している。

ミャンマー軍 ミン・アウン・フライン司令官 「民主派勢力を名乗るテロリストによって、一部の地域で治安と法の支配が脅かされ、国内和平の実現に向けて障害となっている」

軍と抵抗勢力の戦闘は、これまでに3100回を超えている(ACLEDより)。

ミャンマーはかつてなく、激しい内戦状態に陥っていたのだ。

<危機感を強めるウィン・チョウさん>

しかし、こうした現状が、国際社会にほとんど伝えられていないと、危機感を強める人がいる。日本に住んで30年以上になるミャンマー人のウィン・チョウさんとマティダさん夫妻。クーデター直後からSNSなどを通じて、現地の映像を収集し、軍の弾圧の実態を世界に告発してきた。

いま、ウィン・チョウさんのもとには、軍の攻撃が一段と激しくなっているという報告が、抵抗勢力の若者たちから寄せられている。

ウィン・チョウさん「軍に重火器で攻撃されたから、逃げたということだよね?」

抵抗勢力の若者「彼らの強みは重火器です。60mmや120mmの迫撃砲には歯が立たないんです。怖いのはその重火器なんです」

事態が悪化しているにも関わらず、世界から見過ごされていることに、ウィン・チョウさんは焦りを募らせている。

ウィン・チョウさん「みんながビルマ(ミャンマー)のことを忘れないように、今もこうなってますよ、まだひどくなってる、エスカレートしていることをもっと見せたい。怖いのは、世界に忘れられちゃう心配。怖いのはその怖さ。だから忘れちゃいけない、忘れさせない」


<住民を巻き込む無差別な攻撃>

ウィン・チョウさんが特に危惧していたのは、2021年9月以降、ミャンマー軍による攻撃が、無抵抗の住民を巻き込んだ無差別なものになり始めていることだった。

インドと国境を接するチン州のタンタランで撮影された動画には、町が焼き尽くされる様子が映し出されていた。

ウィン・チョウさん「ひどすぎる。これは消せない。絶対に許せない。普通の火事じゃなくて、いろんなところから火が出ている」

山岳地帯に位置する人口1万人のタンタラン。仏教徒の多いミャンマーにあって、ここに暮らすチン族は、キリスト教を信仰し、独自の言語や文化を守ってきた。辺境の町がなぜ狙われたのか。

「早朝から(軍が)いる。待ち伏せされて逃げ場もない。向こうの地区は消火する人がいないから、ずっと消せていない。火を消すにも軍が発砲してくるから逃げてきた」(タンタランで撮影された動画より)

軍が消火を妨害し、意図的に火を燃え広がらせようとした疑いが浮かび上がってきた。

マティダさん「なんで軍は平和に暮らしているチン州までひどい目にしたのか。悲しくて、私は本当に軍が許せない」

しかし、軍は国営テレビで、町に火をつけたのは抵抗勢力だと、一方的に主張した。

軍が設置した国家統治評議会 ゾー・ミン・トゥン報道官「これは軍がやったことではない。PDF(抵抗勢力)の暴徒集団が治安部隊を攻撃し、追跡されると放火して逃げたのです」

そこで私たちは、真相を究明しようと、周辺地域で撮影された動画や写真を収集し、海外の調査グループと検証。撮影された場所を特定し、時系列に並べると、軍がチン州全域で展開した大規模な掃討作戦の全貌が見えてきた。

2021年10月8日。チン州に隣接した町から、少なくとも17台の装甲車やトラックが出発。幹線道路沿いを南下し始める。

10月14日には、タンナロンという村で20台ほどの車列が撮影されていた。チン人権機構によると、この日、少なくとも10軒の住宅などが燃やされたという。

その後も、車列が通過した周辺の町や村で焼き打ちや攻撃が繰り返された。

対する抵抗勢力は、ハカとタンタランの間にかかる橋を爆破。各地で軍の侵入を食い止めようと抵抗した。

しかし。10月29日、タンタランは再び大規模な火災に見舞われる。住民がドローンで撮影した動画では、民家や教会が焼き払われ、山あいの美しい町並みが見る影もなく破壊されていた。

タンタランの抵抗勢力のリーダー「軍が、ところ構わず焼き払っていることが、本当に許せない。人がやるようなことではない。残忍な行為だ」

衛星写真で、焼き打ち前(左)と、いまの様子(右)を比較した。

赤い点が焼失したとみられる建物。全体の6割近い、およそ1200軒の民家などが破壊されていたことがわかった。この半年間で、少なくとも25回にわたって焼き打ちが繰り返されていたのだ。

なぜ軍は、ここまで執拗に町を破壊するのか。

2021年12月まで、チン州を管轄する陸軍司令部の大尉だった男性は、自国民を殺害する軍の姿勢に疑問を抱き、軍を離反した。町や村を破壊する軍の狙いをこう語った。

カウン・トゥ・ウィン元大尉(陸軍を離反しインドに亡命)「軍が町や村を制圧しても、再び抵抗勢力が戻ってきて戦闘になる。それを繰り返すうちに、軍側に大きな被害が出るようになった。軍はそこまで市民が抵抗するとは予想もしていなかったため、徹底的に潰しにかかったのだ」(本人の意向にもとづき素性を明かしています)

<無差別に殺害された住民たち>

抵抗勢力と住民が入り乱れる国境地帯では、軍がさらなる惨劇を生み出していた。

2022年1月、チン州の南部マトゥピの山中で、子どもを含む10人の村人の遺体が発見されたのだ。

私たちは100枚以上の写真を入手し、日本の法医学者に検証を依頼。みな残忍な手口で殺されていたことが分かった。13歳の少年は、目隠しとさるぐつわをされ、後ろ手に縛られていた。死因は首を深く切られたことだと見られる。

殺害された少年の父親「私の家の男の子は、この子しかいないんです。何の罪もなく、まだ子どもなので、解放されると思っていました。この気持ちをどんな言葉で表せばいいかわかりません」

さらに別の地域では、焼け焦げた30人以上の遺体が見つかるなど、住民が無差別に殺害される事件が相次いでいる。陸軍の元大尉は、ゲリラ戦が激しくなるにつれ、軍が住民と抵抗勢力を区別せず、殺害するようになっているという。

カウン・トゥ・ウィン元大尉(陸軍を離反しインドに亡命)「軍は抵抗勢力がどこにいるのか分からなくなっている。戦闘が起きている場所では、目につく者は、男であれば子どもも含めて区別なく、敵とみなして殺害するのです」

<避難民を支えるウィン・チョウさん>

内戦が泥沼化していくミャンマー。いま、戦禍を逃れ避難する人は、国内で56万人(UNHCR 2022年4月6日時点)を超え、深刻な人道危機に陥っている。

国際社会の関心が薄れることに、危機感を抱いているウィン・チョウさん夫妻は、避難民が増え続ける中、食糧や生活物資などの支援にあたっていた。人々は避難した先でも軍の攻撃にさらされているという。

ウィン・チョウさんが支援物資を託してきたこの女性は、抵抗勢力の医療部隊として活動している。

ウィン・チョウさん「品物は買えているの? 戦闘はどうなっている?」

医療部隊の女性「戦闘は毎日のように起きています。安全のため、町の方へは行きません」

ウィン・チョウさん「みんなのために、子どもたちのために何かできることはない?」

医療部隊女性「子どもたちに食べ物か、生活物資を用意しようと考えています」

ウィン・チョウさん「それでは、君たちのところに40万チャット(約3万円)送るよ」

1年前、都市部で抗議デモに参加していた女性。看護学生だった経験を生かし、避難民キャンプで子どもの健康管理や食糧支援を行っている。

ウィン・チョウさんは、せめて女性や子どもたちだけでも救いたいと、支援を続けている。

ウィン・チョウさん 「とりあえず軍に殺されない安心な場所、そこを作れたら、私はそのひとつのキャンプだけでも守れたらいいなと思います」

<急増する国外避難民>

こうした人道危機に対し、国際社会の支援は広がっていない。

家を追われた人の一部は、険しい山岳地帯を越え、100キロ以上離れた隣国・インドへと逃れている。すでに3万人以上の避難民が、キャンプなどに身を寄せている。

1月下旬に子ども5人を連れて、ここに辿り着いた女性は、着の身着のままで、1週間以上歩き続けたという。

避難民の女性「ミャンマー軍の兵士に遭遇するのが怖かったので、道路を避けて森の中を歩いて来ました。途中の村で兵士を見たときは恐怖で震えましたが、彼らがインド軍の兵士だと知り、安心しました」

しかし、インド政府が正式に避難民を受け入れていないことに加え、国連や国際的なNGOの支援も、ほとんど届いていない。

避難民支援団体スタッフ「防寒着や休める場所など、何もかもが不足しています。避難民が多すぎて、水さえも不足する状況です」

<ミャンマーへの武器流入を止められない国際社会>

このアジアでの人道危機に、有効な手を打てずにいる国際社会。特に深刻なのは、いまだミャンマー軍に武器が流れるのを止められていないことだ。

2021年6月、国連総会で、ミャンマーへの武器の輸出禁止を呼びかける決議が採択された。しかし、決議には拘束力がない上、ロシアや中国は採決を棄権した。

その後、国連は報告書を発表。「クーデターの後も、ロシアや中国、セルビアが市民への攻撃に使われると知りながら、ミャンマー軍に兵器を供給し続けている」と厳しく非難した。

<避難民キャンプへの空爆>

兵器の流入が続く中、軍の無差別な攻撃は、さらにエスカレートしていた。

2022年に入って、ウィン・チョウさんのもとには、住民を巻き込んだ空爆が相次いでいる、という知らせが届いていた。避難民のキャンプや、支援物資の補給路までもが空爆され、犠牲者も出ているという。2月中旬、医療部隊で活動する抵抗勢力の女性が、防空壕から切迫した報告を寄せた。その直後に、女性から届いた写真がある。

支援物資を保管していた建物が空爆を受け、全壊。全ての医薬品が失われたという。

ウィン・チョウさんが支援している避難民キャンプとも、連絡が途絶えている。

ウィン・チョウさん「ここでなぜ戦争しなきゃいけないの? そういうことをつくったのは誰なの?許せない」

<空爆に使われている軍用機を検証>

ミャンマー国外からもたらされ、住民たちの命を奪っている兵器の数々。

私たちは、戦場で使われているミャンマー軍の兵器を特定するため、特に空爆が激しくなった2022年1月以降の動画や写真を検証した。

2022年2月に東部のカヤー州で空爆に使用されたヘリコプター。専門家は、ロシア製の戦闘ヘリコプターMi-35Pだとみている。

同じくカヤー州を空爆する動画に映っていた軍用機を検証した。機影と図面が重なることから、中国製の軍用機K-8と見られる。

さらに、空軍基地の衛星写真を入手すると、滑走路にはロシア製のYak-130と見られる軍用機があった。

Yak-130は、あらゆる爆弾を搭載でき、比較的安価なため、多くの途上国で使われている。

2022年2月までミャンマー空軍の大尉だった男性は、ロシア製のYak-130や中国製のK-8は空爆に使われる主力機だと証言する。

ミャンマー空軍・元大尉 「軍はクーデター以降もYak-130やK-8を使用していました。Yak-130は、様々なロケット弾や爆弾が使えます。軍は空爆を強化していて、爆弾を村に落とし、住民まで殺害することが多くなっています」

国連が各国に武器の輸出禁止を求めたのは2021年6月。ロシアがその後も、実際に兵器を供給し続けていることもわかってきた。

決議が採択された同じ6月、ミャンマー軍のミン・アウン・フライン司令官はロシアを訪れていた。このときロシアとの間で、軍事技術の協力について話し合われたとみられている。

司令官が視線を注いでいたのは、あのロシア製の軍用機、Yak-130。1か月後の2021年7月に開かれた航空機の展示会の場で、ロシアの国防省の高官は、国連の決議を意に介すことなく、ミャンマー軍に兵器を供給し続けていると平然と語っていた。

ロシア軍事技術協力庁 ドミトリー・シュガエフ長官「ミャンマーにYak-130やSu-30(戦闘機)を供給する契約を履行している。この軍用機を配備することで、ミャンマーの戦闘の能力は大幅に向上するだろう」

2021年12月にミャンマーの空軍基地で行われた軍用機の就役式では、ミン・アウン・フライン司令官が自ら立ち会い、外国製の軍用機17機が新たに配備された。

中国製のK-8が4機、ロシア製のYak-130が6機、確認できる。これらのYak-130には、1815から1820の機体番号がついていた。

ロシアの研究機関の資料を調べたところ、いずれも2020年にロシアで製造された、最新の機体であることがわかった。これらの機体は、ミャンマー軍が空爆を強化した2022年1月の直前に新たに配備されていたのだ。

ロシア製の兵器などを使い、住民を巻き込んだ攻撃を続けるミャンマー軍に対し、抵抗勢力側は手製の武器などで対抗している。活動拠点に並べられていたのは、3Dプリンター。作られているのはプラスチック製の銃。非対称の戦いが続いている。

抵抗勢力の若者「これは弾倉です。プラスチック製なので10~12回使うと、交換しなければなりません。これで武器不足を解消しようとしています」

こうした中、国連の人権理事会が2022年3月に開かれ、各国の代表や人権団体などからは、ミャンマーへの対応が不十分だという、厳しい声が上がった。

中でもミャンマーの人権状況を調査している特別報告者は、国際社会が武器の供給を止めるなど、直ちに行動しなければ、取り返しがつかなくなると強く訴えた。

国連 特別報告者トム・アンドリュース氏 「軍は避難所にまで爆弾を落としている。ミャンマーの人々にとって、安全な場所はどこにもない。武器輸出を禁じる拘束力がある決議はないが、加盟国は、ミャンマー軍への弾薬や航空燃料などの輸出を止めるべきだ」

国際社会の懸念をよそに、ミャンマー軍は着々とロシアとの関係を強めている。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻にも、いち早く支持する姿勢を表明していた。

軍が設置した国家統治評議会 ゾー・ミン・トゥン報道官 「ロシアは国家の主権をより強固にするために、(ウクライナへの軍事侵攻を)実行している。これは正しいことだ」

国の未来を担う若者たちが、終わりの見えない戦いに身を投じている現状に、ウィン・チョウさんは胸を痛めていた。

2022年3月下旬、避難民キャンプの支援をしてきた医療部隊の女性と、2週間ぶりに連絡が取れた。空と地上からの攻撃にさらされながら、負傷した仲間の治療にあたっていたという。

ウィン・チョウさん「負傷者は君のところに来たのか?」

医療部隊の女性「来ました。6人負傷しました。本当に泣きたいです」

ウィン・チョウさん「回復したか?命に別状は?」

医療部隊の女性「5人はよくなってきたけど、1人は脚を切断することになって悲しいです」

ウィン・チョウさん自身も20代の頃、民主化運動で自ら武器を取って戦った過去があった。

ウィン・チョウさん「撃たないと撃たれる。終わったら自分の体を触って『あっ当たってない』って。血が熱くなって、(銃弾が)当たってるか当たってないかもわからない」

暴力が暴力を呼び、理性が失われていく戦場。

若者たちには、同じ轍(てつ)を踏んで、命を落としてほしくないと考えている。

ウィン・チョウさん「本当はPDF(国民防衛隊)たちは学校行って、勉強して、国をつくるのが当たり前のこと。こういうのをできないようにしたのは軍だからね。本当は、やってほしくない。本当はやってほしくないよ。そのためにお金を送ってるんじゃない。この子たちが生きていけるように。それだけです」

軍のクーデターが引き起こした泥沼の内戦。

いま、ミャンマー国内だけで56万人を超える避難民たちは、十分な支援がない中で、無差別な攻撃にさらされている。 世界の目がウクライナでの戦闘に注がれる中、アジアの片隅では17歳の少女までも銃をとるようになっていた。

17歳の少女 「家には帰りたいけど、我慢しています。クーデターなんて起きなければ、幸せな生活を送っていたはずです。お母さんは反対しました。でも、独裁者の下では生きたくありません」

終わりの見えないミャンマーの悲劇。

世界はこの現実から、目を背けていてもいいのか。


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