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「何者」に匹敵する就活ミステリーーミニ読書感想「六人の嘘つきな大学生」(浅倉秋成さん)

浅倉秋成さんの話題作「六人の嘘つきな大学生」(角川書店)が面白かった。気持ちよく騙された。就活を舞台設定にしたミステリー。就活作品の金字塔と言っていい「何者」に匹敵する名作だと思う。


就活と嘘


就活と嘘の取り合わせは「何者」で先取りされている。誰が嘘をつき、なぜ嘘をつくのか。「何者」では、何者にもなれない若者が切実につく嘘、いや、つかざるを得ない嘘が読者の胸を打った。

この完成度の高い「就活生の嘘」が先にある以上、「六人の嘘つきな大学生」は相当なビハインドがある。それでも、本書は負けていないと感じる。

伏線の狙撃手

本書の強みは技巧だ。帯や広告には、浅倉さんを「伏線の狙撃手」という変わった表現で紹介していたが、読了後は頷ける。至る所に伏線が張り巡らされ、しかもそれが一度ではなく何度も、巧妙に剥がされ、ひっくり返される。

さらに、複数パターンの叙述が曲者。あるキャラクターの主観的本文や、各人物へのインタビュー、正体不明の人物からの告発文。さまざまな語り手、語り方が読者を幻惑し、伏線の効果を最大化している。

最後はストレート

それでいて、「なぜ就活生は嘘をつかざるを得ないのか」という「何者」で描かれた根源的テーマにも、本書はきちんと向き合っている。変化球の技巧派ピッチャーが結局は最後にど真ん中ストレートを打ち込んでくる。本書は読者を騙す小説なわけだが、このフェアさが気持ちよく騙されることを可能にする。

「何者」同様、あらすじの紹介が「騙される体験」を毀損する恐れがあるので、何も触れないことにする。

次に勧める本は

本書が気に入った方は「最後のトリック」(深水黎一郎さん)も良いかと思う。こちらも騙されないつもりで騙されるミステリーだし、騙され方も納得できる。

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