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逃げやすい社会にーミニ読書感想『発達障害は最強の武器である』(成毛眞さん)

元日本マイクロソフト社長で著述家の成毛眞さんの『発達障害は最強の武器である』(SB新書、2018年2月15日初版)が学びになりました。正式な診断は受けていないものの、ADHD傾向があると自己分析する成毛さん。ご自身の幼少期を振り返り、表題の発達障害傾向(気質)を武器にする方法をレクチャーしてくれています。


診断を受けていない、ということから分かる通り、著者の特性は社会生活が困難な程度ではありません。また、知的障害が指摘される状況でもない。それを踏まえた上でも、本書は発達障害の当事者や、子どもが発達障害があると考える親にとって参考になる一冊だと思います。

それは、本書が「逃げ方」にスポットを当てているから。著者は、定型発達の社会に適応する方法、その中での成功方法を追求しない。そうではなくて、逃げ方の話をしている。たとえば、精神科医の香山リカさんとの対談パートでこう語ります。

 ある人が、もしADHDで生きづらいという場合、ADHDを治すべきなのかどうなのか、といつも思うんです。生きづらいところから逃げればいいだけの話じゃないかと。

『発達障害は最強の武器である』p61

逃げるとは、たとえばどいうことか。著者の子育てでこんなエピソードが出てきます。

著者の娘さんも多動傾向があるそうで、幼少期、ピアノをやりたいと言ってはすぐやめ、バイオリンも続かない。しかし著者は、「続けてみなさい」とは言わない。やめたいタイミングでやめさせ、次に移るのです。

「治す」アプローチでは、やめることを許さない方法もあり得る。実際、一つのことを長く続けるのは、一般的な学校や会社では評価される性質の一つです。しかし、「治す」アプローチはその子の自己否定にもつながりかねない。

「逃げる」アプローチは、少なくともその子の特性を否定しない。娘さんはその後も、興味が移ろう傾向のまま成長しましたが、最終的には穀物取引にとんでもない関心を示し、商社のエキスパート・ポストを獲得しているといいます。

「逃げる」が思わぬ副産物を産むことがある。著者は最初に務めた自動車部品会社で、日産の系列なのに、異なるトヨタ系の会社に営業を掛けてしまう。でも、将来、コストカットで日産から切られた時、トヨタ系の販路が活路になったといいます。

ふらふら、ふらふら。普通とは違う。発達障害のある子の親はそんな姿に不安を抱きますが、逃げることはそれ自体悪ではない。むしろ、親として構想したいのは、「逃げやすい社会」だなと、本書を読んで思いました。

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