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小説「私の望む静かな生活」(ジョジョの奇妙な冒険パスティーシュ)第一回1~2

コミケで販売したジョジョの奇妙な冒険パスティーシュの「私の望む静かな生活」を週一ペースで公開しようと思います。
ジョジョの奇妙な冒険を知らなくても楽しめる作品になっているかと思いますので、是非よろしくお願いします。
派手なことは起こりませんが、私なりのジョジョを表現したと思っております。

次回


私の望む静かな生活

「完璧な計画」

1
 
いつごろからか人の流れを見ているのが好きになった。道を急ぐ人々は誰も私に気を留めない。
出会い、群れ、また別れ、行きつ戻りつする人々を眺めていると、外世界からこの世界を観察する超越者になったようで気分がいい。
抱擁するカップルも、ベンチに座り込む老婆も、電車に急ぐ会社員も、全てが私の計画通りなのだという誇大妄想を抱いたりしながら、じっと動かず人々を見ていると気づけば一日が終わっている。
康一おじさんは私のことを変わっていると笑うけれど、私の生育環境やこの世界のバカバカしさに比べれば私の趣味なんて十分すぎるほど穏やかなものだと思う。
私はただ静かに暮らしたいだけ。日本のことわざには「名は体を表す」というものがあるけれど、私のために作られた言葉だったのかもしれないと時折思う。

 2
 
杜王駅はさほど大きな駅ではないから、大抵同じ時間に同じ人が通り過ぎる。
朝方は(暦では休日とはいえ)会社員が、朝から昼にかけてはS市に遊びに行く若者たちが駅に向かい、昼は古びた喫茶店カフェ ドゥ・マゴで若い主婦らが話に華を咲かせ、散歩する老人たちが駅前を通り過ぎる。昼過ぎから午後遅くになると、今度は街に向かう老若男女が駅から吐き出されてくるのだ。
定点観測を続けていると、日々には当たり前のことながら少しずつ変化があり、いつもは同じ電車に乗る人がいつもより遅い時間の電車に乗ったり、毎週違う女の子と遊びに行っている男の子を見かけたりする。そのちょっとした変化が私にとっては、とても面白く興味深いものなのだ。
 
ある日曜日に、いつものことながら駅前ロータリーの植木のそばで佇んでいた私は、突然あることに気付いた。思い返せばこれまでも違和感はあったが、あまりにも小さすぎて気付くのに時間がかかったのだ。
その時、私の目の前を白い瀟洒なワンピースを着た女性が通り過ぎた。幾分硬い表情が硬い、線が細く気が弱そうな、印象に残りづらいタイプの女性が。時刻は8時36分だった。
もちろん、その先週も私は駅前の同じ場所にいて、康一おじさんの友人という、横に流した髪形で変なヘアバンドを付けた変な男が、これまた変な髪形の体格のいいガラの悪い警官と揉めているのを見かけたので、何とはなしにふと時計を見た。その時、私の傍を白いワンピースの女が通り過ぎた。その時刻は8時36分。思い返せばこの女は随分と前から同じ時間帯に駅前に来ていた気がする。
『もしかして、この女はいつも全く同じ時刻に同じ行動をしている?』
興味を持った私はこの女の観察を続けることにした。私はちょっとした違和感が許せないのだ。

[続く]

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