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手に入れた「愛」と手放してしまった「愛」【朝が来る】

命の大切さ、責任、それぞれがその重さを感じている

朝が来る_読書記録_ブログ用

■「朝が来る」を読んで

本書は、本当に難しいテーマを扱った小説です。

実の子を持てなかった夫婦と、実の子を育てることが出来なかった少女。
この二つの関係が「特別養子縁組」という制度でつながり、夫婦と少女、そして子供の人生を描いています。

辛い不妊治療を受けながら、子供を持とうとする夫婦の生活。
思うように結果が出ない日が過ぎ、夫婦は実の子供を持つための治療を辞めます。

そんな時に偶然目にした「特別養子縁組」という制度。
この言葉が頭から離れないようになった夫婦は、二人でこの制度の事を調べ始めます。

一方、好きな人との間に子供が出来てしまった幼い少年と少女。
こんなことにはならないと簡単に考えていた二人であったが、その考えとは違い事態は二人だけで考えられる域を超えてしまいます。

■愛を手に入れた、愛を手放した、その二つの人生

実の子供が出来ない夫婦は、「特別養子縁組」という制度を利用して、子供を迎えます。
このことを愛を手に入れたと表現していいかとても悩みました。

手に入れたというよりも、めぐり会えたという表現がいいですね。

この夫婦は、子供にめぐり会うまで、不妊治療を受け、色々な辛い経験をします。
治療の中で、なかなかうまくいかない結果に夫婦は疑問を持ち、一時は子供を授かることを諦めてしまいます。

諦めた時に、特別養子縁組という制度を知ることとなり
その制度に興味を持ち始めた夫婦は、その制度を利用することを決めます。

夫婦が決めたことと周りの家族の反応。
様々な二人の経験と考えが深く描かれています。

そしてその一方で、好きな人との間に子供が出来てしまった少女。
少女はまだその現実、責任を受け止める準備も出来ていません。

そして少女は自分の意志とは関係なく愛を、子供を手放すことになります。

本書では、この少女が子供を出産して手放した後の人生についても描いています。

子供を手放してしまった母親と、その子供とめぐり会った夫婦の二つの人生が実に深く、そしてリアルに描かれています。

■「朝が来る」を読んで!まとめ

本書は実に難しいテーマを扱った作品です。

子供が出来ない夫婦と、幼くして子供が出来てしまった少女。
この二つの人生を描いています。

このテーマに対する感じ方や考え方、意見は様々だと思います。
こうなったから正解、こう思ったから正解という簡単なものではないですね。

大人の、そして少年と少女の、いろんな人間の関係性があり、それぞれが考えること思うことが実に複雑に混ざることで
その状況は変化していきます。

私は、本書にある状況を経験したことがなく、安易に意見など書けないと感じました。
近い親戚にはこの特別養子縁組を利用した夫婦がいます。
色々と話を聞いたことがありますが、話を聞いただけではその感情の複雑さは分かりません。

本書では、子供が出来ずに特別養子縁組の制度を利用する夫婦と子供を産んで、幼さゆえに子供を手放すしかなかった少女が中心でストーリーが進みます。

そこで私が感じたのは、子供の実の父親である少年があまり深く描かれていないと感じました。
幼くして子供を出産した少女のその後の人生は実に深く描かれていますが、少年の様子は所々では描かれていますが、あまり触れられていないと感じました。

子供を産み、自分の家族ともうまくいかなくなった少女の人生。
子供を産んだということがずっと彼女の人生にあり、そのことで不快な思いもし、でも自分の中で子供の事は力となり、親たちに押し付けられる常識ではなく、自分の考えを貫き通すために怖くても一生懸命生きていこうとする姿が印象的でした。

クライマックスまで少女の思いとは違う方向へと進む人生に読んでいて悔しさが溢れてきましたが、最後にその少女の思いのすべてを包み込んでくれた結末がとてもリアルで、それを実際に見ているかのように感じるシーンでした。

当たり前と思っている今の家族の幸せ。
その幸せを手に入れることが出来ないこともある。

しかし、幸せの形には、色々な形があり、こうあるべきだという幸せは決して他人に押し付けてはいけないし、幸せに色々な形がある、色々あっていいのだと感じました。

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