どん底の安定感と

私は絶望的な悲しみで、真っ暗な深海に沈んだ小さな小さな難破船のようだった。

深い深い海の底、漆黒の闇の中で、自分の姿さえ見えない。ただ漆黒の海底に着地していた。身動きもせず。せいぜい静かに涙を流すくらいが、私が生きている証しだった。

医者は私に”今ある状況が大変だから、一時的にあなたは悲しくなったり、落ち込んだりしているだけで病気では無い。誰にでもあること”と言った。

深海の中で、ただ静かに息を潜めて暮らす生活が2ヶ月ほど過ぎた頃、ある連絡を受け取った。

待ちに待った連絡。そしてそれは、痛切に願っていたことではあったが、思いがけず朗報だった。しかし、その連絡もまだ初めの一歩でしかないのだが。

嬉しかった。だけど、自分の気持ちをどう表現したら良いのかわからなかった。喜び方がわからなかった。

それでもその時、真っ暗な漆黒の闇の中で、静かに涙を流すだけの小さな難破船は、流した涙で軽くなったからなのか、静かにその船体を接地していた海底から少しだけ浮かせた。

小さなポンコツの船体でも海底から離れる衝撃はあったようで、私は、どん底の海底から離された後、それまでどん底だと思っていた状況から離れたことを喜ぶどころか、漆黒の闇の中で何も見えず、行き先もわからず、ゆらゆらと揺られながらどこへ向かうのか、何を目指しているのかわからない状況に恐怖を覚えた。どん底でも、どん底に接地していることが安心であったらしい。

そのうち漆黒の暗闇の中に、小さな小さな埃のような光の粒が時折見えるようになってきた。

しかし、前後左右自分がどこにいるのか全くわからず、漆黒の闇の中の光の粒は四方八方に小さく小さく散らばっているだけで、現れては消え、現れては消え、全く定まらず、私の目指す方向にはならない。私は、漆黒の暗闇の海底に足もつかず、ただ放り出されたのだ。

そのような恐怖の状況から数日経った今日、私は深い霧の中にいる。何も見えないことには変わりがないけれど、私の眼前は黒から白に変わった。

それまでプカプカと自分の立ち位置がわからず彷徨っていた難破船は、どうやら地上に漂着したように感じる。ただし、自分の足元も姿もまだ見えてはいない。自分の姿が見えていないのだから、他のものも見えない。ただ、真っ白な濃霧があたり一面を覆うだけである。

私は、これからどうやってこの状況を抜けていくのだろう。