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妄想する男4

夜な夜な未解決事件を調べているとなんとも言えない薄気味悪さを感じるもんだ。調べるといったってネットサーフィンしているだけなので普通の人と変わらない。ただ頭を突っ込めば突っ込むほど、バラバラの事実が一つの事実に集約するどころか逆に拡散して行こうとしている様に思われてならない。ある一つの真実に対し、あらゆる人がその人なりの見解を述べるからだろう。見たまんまを機械みたいに語ってくれると良いのだがそうは問屋が卸さない。目から入った情報が脳に入ってそれを分析、情報と己の常識の擦り合わせをやった後に口をついて言葉が出てくるのだ。擦り合わせと言ったら言葉は優しいが、要は情報の取捨選択をやっているのである。
「あれあれ?今、目の前で起きたこれっていうのはどういう事なんだ?」
これは無意識下で繰り返されているであろう心の声である。機械にあるまじき行為だ。だから、「よく分かりません」というのは本来正直な声なんだ。分かった様な言葉として第三者が聴かされるものは、既に情報操作された結果なんだ。だから、人の言葉をネタに何かしらの判断を下す際はよくよく注意が必要である。当の情報解釈者に悪気があるとは限らない。ただ、これはマズイと(勝手に)解釈されてある決定的証拠が意図的に省かれてしまっている可能性は否めない。
そう、だから、言論の自由を外に求めるのは、ある幾つかの例外を除いて本来筋違いなんだ。言論の不自由ってのは(お前の)脳の不自由、口の不自由として訂正されるべきである。僕は最近思うんだ。なんでもペラペラ喋っちまう統合失調症ってのは、閉塞した現代を打開するものとして神様が肝いりで寄越した特質ではなかろうかと。
未解決事件と言ったって、日本航空123便墜落事故は一応解決済みだっけか。僕はあらためて残されたボイスレコーダーに耳を傾けた。第三者の目撃談や分析も悪くはないんだが、やはり当事者に思いを馳せる事がより深い想像やシンパシーへと繋がるのではないか。
機内のどこかで爆発音がまずあった。これが一部の人の指摘する例のミサイル一撃目と言われている奴か。しかし公開されているボイスレコーダーなんかでは勿論確証するに至らない。ただ、早々に油圧がオールロストしたらしい。本来であればこの時点で操作不能に陥り即墜落である。墜落しなかったという事は、本当はオールロストしていなかったのだろう。要は単なる計器の故障であるから、構わずそのまま運転を続けて伊丹空港に行けば良かったんだ。でもそうはならなかった。レコーダーに録音されている通り「Uncontrol」だったんだ。「Uncontrol」とは言葉の通りとるなら「操作不能」であって100%バツの印象を受ける。でも、結果的には飛んでるコースがめちゃくちゃなだけであって高度は途中までまずまず安定していたらしい。しかも、「Uncontrol」の割には最後まで機内のスイッチや操縦桿らしいもの(?)を必死に操ろうとしていたらしい様子が伝わってくる。「ライトターン、レフトターン、頭を下げろ!」といった機長の指示がそれを連想させるからだ。つまり、油圧の全消失を全然信じていなかったんだ。その割には、「これはだめかもわからんね」と神から見放されたかの如き失望を漏らしている。これは、墜落前の情緒不安定を表しているのではなくて、コックピットの中で“神”の存在を確かに感じていたから、又は感じざるを得ないものが何かしら機長の目には映っていたのではないか。
「Uncontrol」の癖に実際飛び続けているのだからそう考えるのも無理はない。ふとした瞬間に“神”のいたずらから逃れ得る事を信じて最後まで操縦桿を握っていたのではないか。「Uncontrol」と操縦桿を握る事は本来矛盾なんだ。矛盾するならある一定の推理を持ってきてそれを説明してみせるべきである。この際気が動転していたんだろうと解釈するのは、プロパイロットへの冒涜であって僕はその論を取りたくない。
大月ループ、大月旋回と呼ばれているものがある。事故調査委員会が123便の飛行ルートを再現したところ、富士山の近くに大月と呼ばれる所があって、そこで123便は360度回転して尚且つ急降下しているんだ。「こんな事はあり得ない」と専門家風に断言したくもなるのだが、実際あり得たのだから仕方ない。“神”の縛りから解き放たれてこの瞬間だけは操縦桿が効いていたんだろうか?それともいよいよ訪れた(と思われた)墜落の前触れだったんだろうか?“神”が当時123便を使って遊んだ様子を40年近くの時を超えて自分は目撃しているのではないか。この瞬間にやっと墜落の時を迎えて急降下したんだったらその後持ち直す事なくそのまま墜落をしなければおかしいのである。しかも360度回転したって?まるで紙飛行機の様な振る舞いである。神様というのは人間並みに意地悪で遊び好きだったんだな。
そうではない。きっと人目のつかない所に堕としたかったんだ。発見を遅らせたかったんだ。時間を稼ぎたかったんだ。この神様は、実は人間に何かしらの教訓を与えてあげたいといった類の存在ではない。もしかするとずる賢い悪魔だったのかもしれない。
油圧がオールロストした後、左右エンジンの巧みな噴射調整によってしぶとく宙に浮き続けていたんだという説がある事も一応知っている。知っているが、アクセルを踏んだからと言って、パイロットの動作がそのままエンジンと連動していたかどうかはさて置いても、大月旋回だけは説明出来ないんだ。仮に左右2つのエンジンが車に付いていたとして、ハンドルが効かない中ペダル操作だけで長時間運転できるだろうか?
ボイスレコーダーの中で東京管制センターから「羽田にコンタクトしますか?」と問われて「このままでお願いします」と返している部分があった。管制センターは会話のキャッチボールが出来ていないと思ったのかもう一度「(羽田に)コンタクトしますか?」と繰り返し確かめている。それに対する答えは
「こ、このままでお願いします」

この時、123便は何処にいるかしれない“神”に対して訴え祈っていたのだ!このまま羽田へ連れて行ってくれと。もしかしたら、機械的な問答を繰り返そうとする管制センターこそがその“神”なのかもしれないと思い込んで必死の懇願を図っていたのかもしれない。

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