私じゃないですよ(必死)
昨夜はネコの鳴き声が尋常じゃなかった。ケンカとか発情とか出産とか、夜間に動物が騒ぐのは日常のことと言えば日常のことであるが。最近は隣のアパートの「アル中おばさん」がやらかしまくっているので、私も変な想像力が働いてしまう。
「まさか今夜はネコをいたぶっているのではあるまいな?」
朝、玄関を開けるのが少し怖かった。ネコの頭でも転がっていたらどうしよう、なんて。
まぁ、そんなことはさすがになかったわけだけどーー。
気になったのは、下の階の高齢者のところに泊まり込んでいる女性(おそらく娘さん)の態度だ。ゴミ出しで一緒になったので「おはようございます」と笑顔で挨拶をしたのだが、向こうはあからさまな不機嫌対応だったーー。ここ数日のアル中おばさんのやらかしに地味に抗議するべく、騒ぎが起こるたびに自室の窓をスパーン!ズガーン!と開け閉めするのが聞こえるので、高齢の母親の介護と相まって相当ストレスを溜め込んでいるのだなぁとは思うのだが。
ーーもしかしてだけど、私のことを「アル中おばさん」と勘違いしてたりしないよね?
さすがにそれはないか。アル中おばさんは最近は電話で警察にケンカを売りまくっていて、自分の住所、電話番号、姓名から生年月日に至るまですべてを大声で叫びまくっている。ご丁寧に、アル中おばさんの兄の個人情報まで我々は知っている。
「来いよ! 今すぐ来いよ! ○○アパートの○○号室の○○だよ! あたしの兄貴は警視総監の○○だよ! あたしも警察官だし! 何様だおまえ! 言うこと聞けよ!」
そんなベタな台詞、本当に言うんだなぁ。酒の力って怖いね。まぁ、おかげで我々としては「キチガイは○○号室の○○さん」と一応は犯人が分かってほっとしているところである。しかもケンカ相手が警察となれば、より安心だ。(どこがだ)
しかし依然として、顔は知らんのよね。
「私じゃないですよ。私アルコールは一切飲みませんしネコも殺しません」と、変な説明をして歩きたくなってしまう。
こういうのって気まずいよね。誤解されるのは。騒音の出所とか、ゴミを分別しない人がいるとか、何か問題が勃発すると、まずは自分以外の全員を疑い、たいした根拠もなしに心の中で密かに犯人の目星を付ける。人はそういうものだ。周囲で起こることのすべてに説明が付くわけじゃないし、誰だって自分なりに納得したいものね。
数年前も、私の隣に住んでいた若い女性が、某名門校の野球監督と不倫していて、いかがわしい声が毎晩のようにご近所中に響いたことがあった。窓も開けっぱなしで、エロビデオのようなことを叫び合うのである。そういう関係だということだ。大事な妻や本命の恋人に対してならば、またその周囲(ご近所さん)に対してならば、あんな配慮のないセックスは出来ない。あんなものを聞かされる我々もレイプされた気分になる。
当時の私も自室の窓をスパーン!ズガーン!とやって地味に抗議していた。通報する勇気はなかった。すっかりノイローゼ気味だった。さらにストレスだったのが、やはりご近所中がひそひそと犯人捜しをしており、私を見る目がかなり疑わしかったことだ。あれにはまいった。
たぶん不倫はバレたんだろうね。そりゃ、バレるよね。被害を最小限にすべく(あるいは揉み消すべく)、女が仕事を辞めさせられたようだ。若い女性が、職場の上司ともいえるおじさんにもてあそばれ、その責任を自分が取らされ、将来を棒にふり、路頭に迷うのは、人権侵害以外のなにものでもない。彼女が引っ越して行く日、まるで魂が抜けたような痛ましい様子でいるのを見掛けたが、その日、彼女は階段を踏み外して1階まで落っこちてしまったそうだ。怪我の程度は知らないが、あまりの自暴自棄っぷりに今も無事に生きているのか心配になってしまう。
一方で男のほうは今でも高校野球の監督として絶対的な地位にいる。愛人との関係を絶っただけで、彼はなんの罪滅ぼしもしていない。
結婚も離婚も子供も不倫も違法薬物も、男にとってはほぼノーダメージである。むしろ箔が付く場合さえある。元妻や子供や愛人を社会から葬り去って、男はのうのうと生きて行く。
ーーが、そこにひずみがないはずはない。大物芸人も一瞬で転落したように、遅かれ早かれ「原因」の「結果」は必ず出るのである。
ちなみに週刊誌などによると、その名門校には近年「怪文書」が頻繁に届いているそうだ。高校球児の活躍や学校の保身の裏で、トカゲのしっぽ切りとして社会から抹殺された者はその女性だけではないだろうしね。そういう人が書くもんでしょ、告発文なんちゃらというのは。どっかの知事さんといい、気持ちの悪い世の中ですよ。
とにかく、「私じゃないですよ」だ。